第52話 殺す理由

[ルカ・クラベル]


 見捨てようと思っていた。


 爆弾女を殺した後、その場でぶっ倒れたユメは戦力にカウントできないし、エミリーを探すとかいう面倒臭い仕事からも逃れることができるから。

 私だって、もう少しの休息が必要なんだ。これを機にもう一眠りするとしよう。


 寝床を求めて動き出そうとしたが、気に入らない光景が見えてしまい立ち止まる。

 爆弾女の背後に隠れていたチビが、ユメの元にテテテッと駆け寄って、ユメの首に手をかけようとしている。

 まあ、このゲームは漁夫の利で勝利するのも戦略の一つだろう。あんな所で無防備に気絶しているユメが悪いのだ。


 だから、見捨てようと思ったんだ。

 思ったんだけど‥‥‥。


「‥‥‥おい!」


 気がついたら、チビに向かって声をかけていた。

 ビクッと肩を上がらせてから、こちらを見るチビ。


 なんとなく、癖のありそうな顔をしてやがる。

 どうせ、厄介な隠し玉とか持ってるんだろうなぁ。面倒臭いなぁ。眠いなぁ。


 気乗りしないまま、チビに近づき全力で顔面にパンチを繰り出した。


「‥‥‥いじめっ子?」

「はぁ?」


 殺すために顔面をぶん殴ったら、そんなことをキョトンとして聞かれた。


「殴ったり、蹴ったりする。アナタはいじめっ子?」


 あまりに馬鹿馬鹿しいことを聞いてくるチビに興味を持った私は、質問に答えてやることにした。


「違う。いじめってのは結局は遊びだ。馬鹿な奴らの暇つぶしみたいなもの。でも、私がしているのは殺戮。いじめなんかより、よっぽど陰湿で愚かで卑しくてキモくて許されない行為だよ」


 そう。私はあの誘拐犯と根本のところは同じクズなんだ。

 でも‥‥‥。


「でも、本気度は何百倍も上だ」

「‥‥‥なんか、よく分かんない」

「‥‥‥」


 恥ずい。

 これ以上ないくらいに恥ずい。


 長めの持論を語った結果の「よく分からない」は、心に中々くるものがある。こいつ、精神攻撃が得意なタイプか。


「でも、殺し合いはイジメじゃないんだね?」

「お‥‥‥おぅ」


 しかし、結論は理解していたみたいだ。危ない危ない。このままじゃ羞恥で自殺しそうだった。首の皮一枚繋がったぜ。


「じゃあ、別にこの人を殺しても良いじゃない」

「‥‥‥」


 私は、再び黙る。

 グゥの音もでないからだ。

 そうだ。さっきの私の話は、ユメを殺さない理由にはならない。


「エレジーには親切にしてもらったの。守ってくれたの。でも、この人が殺してしまったの。ムカつくの。だから殺すの。ダメ?」

「全くダメじゃない」


 拙いが、完璧な論法に全面的に降伏する。


「良かった。じゃあ‥‥‥」


 意見を認められたからか微笑を浮かべてるチビに、私も笑顔で自分の意思を伝える。


「でも、なんか嫌だからお前を殺すことで止めるな?」


 しゃがんでいたチビに、力を込めて踵おろしをする。


 正しいとか、そんなのどうでもいい。

 私は、私のしたいようにするって、この世界にきた時に決めたんだ。


 脳天に直撃した。普通だったら死んでいるだろう。

 でも、私は知っている。

 このゲームの参加者に、普通な奴なんていないということを。


「‥‥‥やっぱりいじめっ子だ」


 ほらね。頭から血がダラダラ出ているのに、ユラユラと立ち上がる。


「いじめっ子は嫌い。みんな死んじゃえ」


 目の下まで垂れている血液は、チビの赤い涙にも見える。


「死んじゃえ! 死んじゃえ!! 死んじゃえ!!!」


 そう咆哮して、私に飛びかかってくる。

 やっと、殺し合いらしくなってきた。

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