第51話 ユメVS爆弾女
[ユメ・クラマン」
「‥‥‥面倒臭いなぁ」
早く、推しの安全を確認したいのに、青いドレスの女と全身黒一色の寝巻きを着た女が目の前に現れてしまった。
この場所で会うということは、二人ともゲームの参加者なのだろう。いつかは殺さなきゃいけない存在なのだから、相手するのはやぶさかではないが、今ではないだろう。
「空気読めよ」
「何をブツブツ言っている?」
「‥‥‥」
青ドレスの方が、女にしては低い声で威圧してくる。
高身長で、ドレス越しにも筋肉が発達しているのが分かる、健康的な身体をしている。私は晩年の栄養失調でガリガリだから羨ましい限りだ。
もう一人は、ルカよりは辛うじて大きい程度のチビだった。さらには、何だか気弱そうだ。今も筋肉女の後ろに隠れている。
こっちから先に片付けるか。
先手必勝が殺し合いでのモットーである私は、ダッシュで近づき、ナイフで眼球を狙う。推しがルカを無力化したのを真似してみたのだ。
しかし、その一撃はデカく邪魔な身体に刺さる。
みぞおち辺りに刺さった。しっかり出血もしている。しかし、この女は悲鳴一つ上げない。
「迷いなく、弱い方を狙いに行ったな。さてはお前、嫌な奴だな?」
軽蔑を込めた目線と口調だ。
私が嫌な奴なのは否定しないが、それが今、何の関係があるんだろう。
「嫌な奴は殺してもいい。だって、それが世の中のためだから」
そう言って、口に長方形の物体を詰め込まれた。次に、焦げ臭さが鼻を襲う。
「ユメー。ダイナマイト入れられてるよー」
特に何をするでもなく、ボーっと突っ立っていたルカの声がした。死のうとどうでもいいが、さすがに看過できなかったのだろうか。
(筋肉キャラの癖に爆弾魔かよ!)
てっきり、ルカと同じ己の拳を武器にするタイプかと思っていた。先入観とは恐ろしい。
もちろん、口から出そうとするが、筋肉女改め爆弾女はそれを許してくれない。
至近距離で、ダイナマイトを押し付け続けている。
こいつ、頭イカれてんのか!?
そんなに近づいてたら、お前の身も危ないだろうが。
「私は正義。私は正しい。悪は滅びるべき。どんな犠牲を払ってでも、悪人は全員殺す」
わけの分からないことを言いながらも、力を抜けない。こいつ、この筋肉も戦略に役立ててやがる。
あー。もう、導火線が途切れる。
私の口の中で、ダイナマイトが弾け飛んだ。
\
「‥‥‥」
身体のダメージには耐えられたが、まともに喋ることができない。
口の中は血の味がしている。
歯は間違いなく全て折れた。舌も半分ほど持っていかれた。
もう、私は発語することはできないだろう。
お喋り好きでは無かったから、別にいいのだけれど、もう一回くらい、推しに想いを伝えたかったなぁ。
あぁ。そうだ。推しだ。
彼女が、私を待っているんだ。
駆けつけるには、この爆弾女を殺さなくてはならない。
己の攻撃により、致命的なダメージを受けて蹲っている馬鹿な女の元へ向かう。
「‥‥‥何故、動ける」
「ぃぃぁぇぃ」
愛ゆえに。
そう言いたかったが、伝わっていないだろう。
「はぁ‥‥‥何で悪ってのは頑丈な奴が多いんだろうな。仕方ない。殺せ」
言われなくても。
ナイフはどこかに吹っ飛んでしまったので、仕方なく首を絞める。
動けない彼女は、実に殺しやすかった。
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