第50話 アイ・タケザワ
もう、何でもいいや。
エミリーの葬式の最中、アイは乾いた心でそう思った。
やることなすことが、全て裏目に出る。自分なりに最適解を出していたつもりだったが、好きな人を二人も失ってしまった。
(そもそも、馬鹿な私が計画なんて偉そうなものを立てようと思った時点で間違っていたんだ)
<計画通りにいかないから人生なんだ>
小さい頃見た、アニメ映画のセリフを思い出す。
(本当にそうだ。じゃあ、私みたいな馬鹿はリスクなんか度外視して、シンプルにぶっ殺すしかないな)
フラフラとシン王子の元へ移動する。
道中、下手くそな演技で泣いているふりをしている連中を見かけた。ついでに、コイツらも殺してやろうかと思ったが、エミリーのお父さんだけは、本気の涙を流していたのに免じて見逃してやった。
床に崩れ落ちて、おいおい泣いている摂政は、いつもの威厳はまるでなく、今はただの弱い父親だった。
この人と話してみたいことがたくさんあるが、素通りしてシン王子と向かい合う。
「あ! アイ、これが終わったらさ」
葬式が終わったらどうするつもりだったかは、永久に分からない。
何故なら、包丁で刺されて絶命したからだ。
ナイフではなく包丁にしたのは、単純にデカいから。
シャンデリアでの圧死のような豪快な殺し方は諦めたが、できれば大きな凶器で殺したいこだわりは、まだ残っていた。
「‥‥‥え?」
キョトンとしているシン王子を、アイは愛する者を抱擁するような笑顔で見る。
遺言というか、恨み言の一つくらいは聞いてやろうという心の余裕が今のアイにはある。
好きな人と結ばれる喜びと、憎い者を殺せた時の喜びとでは、瞬間的には後者の方が上だろう。
しかし、何の言葉もなくシン王子は逝った。
「なんだ。つまらないな」
気持ちは冷めていたが、表情は笑顔のままでアイはそう呟いた。
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もちろん、城中が大騒ぎになった。
奇声、怒号、泣き声など、ありとあらゆる耳障りな声に包まれる。
すぐにボディーガードに限らず、数えきれない人間達に取り押さえられる。その拘束から、アイは逃れようともしなかった。
もう、自分の人生最大目標は達成された。もう生きていても意味はないのだから、死刑にでもしてくれるのなら、自害の手間も省けてお得とすら思っていた。
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こうして、アイ・タケザワは監獄された。
アルクレア国で、最も警備が厳重なシライラ刑務所の牢屋で、身動き一つ取れない状態で閉じ込められている。
拘束着はもちろん、目隠しやマスクなどで視界と嗅覚ま封じられている。
何の情報もないため、時間の感覚がバグり、何日この状態なのか分からない。
(殺すなら、さっさと殺せば良いのに)
そこには、生きることを諦めた女の子がいた。
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「まあ、どんな手を使っても全員殺すよ。ユメも」
長い回想を終えた私は、目の前の死亡遊戯に参加しているエミリーを見る。
「正ヒロインになって、私を馬鹿にした奴らに地獄を見せてやるんだ」
そんな、強かなことを言うエミリーに私、二階堂沙優は思うのだ。
貴女ならアイを助けられるんじゃないかって。
口に出したら殺されそうだから言わないけどね。
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