第47話 お前の魅力はそこではない

「へぇ。じゃあ、夕方の4時くらいは護衛はいなくなるんですね」

「はい。もうすごい剣幕で<誰も部屋に入ってくるな!>と仰るので。1時間はお部屋に入れてくれません」


 99%自家発電をしているだろうが、1人でやるのなら誰の迷惑にならないから文句を言う気はない。カナタも分かっているだろうが、同じ男として気づいていないふりをしていりのだろう。どこまでもよくできたボディーガードだ。


 何はともあれ、中々役立ちそうな情報を手に入れた。

 もちろん、部屋の周囲に護衛はいるだろうが、部屋に入ってしまえば、こっちのものだ。問題はどうやって侵入するかだが‥‥‥。

 そんなことを考えていたら、カナタが言いづらそうに口を開く。


「あの、違っていたらすみません。もしかして、シン王子と2人きりになろうとします?」

「え? どういうこと?」


 突然のピンチだったが、アイはポーカーフェイスには自信がある。表情も声も問題なく返事をすることができた。


「あ。いえ、なんか‥‥‥アイさんとの会話って、最終的にはシン王子の情報に行きつくなと思いまして‥‥‥違うんなら全然良いんです。変なことを言って申し訳ありませんでした」


 何も悪いことをしていないのに頭を下げる、図体はデカい彼を見ていたら、アイの覚悟が揺らいできた。


(そうだ。当たり前のことだけど、カナタさんは馬鹿ではないんだ。私の言動に違和感を覚えて、その真意を推測する能力のある、立派な男性だ。そんな人を完全に騙せると考えるなんて、とんでもない驕りなのではないか)


「アイさん。本当にすみません。こんな俺に優しくしてくれているのに、こんな失礼なことを言ってしまい‥‥‥。今日は俺、席を外しますね」


 どこまでも空気を読むカナタ。シン王子やレイプ魔の教師の正反対の、できた人間がアイから離れようとする。


(ここで別れたら、二度と会えなくなるかも)


 現実主義者のアイらしからぬ、根拠のない不安が脳を駆け巡る。


 ガシッ。


 気がつけば、カナタの右腕を強く握っていた。爪が皮膚に食い込んでいることを止められない。


「あの。アイさん‥‥‥? 痛いです」

「ご、ごめん!」


 慌てて手を離して、赤面で俯く。

 そこには、今まで演じてきた「冷静なお姉さん」はいなかった。代わりにコミュニケーションが苦手な女の子がいた。


(ヤバいヤバい。こんな私に価値ないよ。早く立て直さないと)


 必死で落ち着きを取り戻そうとするが、横にいるカナタの顔をみることすらできない。


「‥‥‥可愛い」

「は!?」


 思いがけない言葉に、つい大声が出てしまう。


「あ。すみません! 本当に今日は失言続きだな‥‥‥。顔が真っ赤なアイさんが、すごく可愛かったので」

「もう‥‥‥色々ごめんなさい」


 顔を両手で隠しながら、そう言うアイ。

 騙していることや、慣れない褒め言葉は勘弁してくれという、グチャグチャな感情に恥ずかしくなる。


(あぁ。もう台無しだぁ)


 本人は、殺人計画が遠のいたと思っているが、大きく計画は進んでいる。


 この日を機に、カナタはアイに本気で恋に落ちたのだから。

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