第45話 アイの殺人計画
恋に恋するお年頃。
17歳らしいクズは、その表現がピッタリ当てはまるほどの恋愛脳だった。
エミリーという、能力も容姿も良いの許嫁がいるくせに、アイに言い寄ってくる。
寝床を与えて、学舎にもねじ込んだ恩を最大限に利用して、デートに誘い手を握ってきたりキスしたりされた。
もちろん、生活基盤を作ってくれたことに関してはアイは感謝している。でも、その対価は労働で支払いたかった。女として消費されているのを歯を食いしばって耐える日々だった。
そんな、少女漫画のような恋愛を好むクズは、1匹のオスとして性欲を持っている。その欲望は、エミリーや学校の女子達で発散していた。
お金と容姿の良さという、性交渉するには便利なカードを2枚持っていたクズは、女に困ったことは無かった。
深夜2時に、ムラムラして目を覚まして「10000ゼル払うから、これから僕の家にきてくれ」と舐めたメッセージをクラスメイトに送り、来てくれた女子で発散したことも度々ある。ちなみに、10000ゼルは日本円で考えると約10万円相当の価値がある。
パッと10万を出してくれるクズは、ある意味女子の中で人気だった。
「5分で終わったのに10000ゼルだよ? ホント良いお客さんだよね」
「ね! おかげでこんな高いお店でお茶できるんだから、王子様々だよ。まあ、カンじてるふりするのが怠いけど」
人気と言っても、金利が半端ないATMのような人気だけれど。
そんな、全てを手に入れているようで、実質何も持っていない男を哀れに思う気持ちも生まれていた。
恥多き生涯を送ってきました。
この一文から始まる文豪の名作があるが、あの小説の主人公と良い勝負ができるくらいの恥だらけの人間。それがアイの中の王子だった。
(こんな意味のない人生、早く終わりにしてあげなくちゃ)
優しさが明後日の方向に行き、殺人計画を本格的に組み始めた。
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クズを殺す上で最も邪魔になるのは、屈強なボディーガード達だ。未来の国王である者を守るに相応しい、優秀な男共とアイが正面からやり合っても勝ち目は皆無だろう。
しかし、彼らはシン王子が好きだから警護しているわけではない。高い給金をもらうために世間知らずのおぼっちゃまを毎日守っている。
つまり、責任感はあっても忠誠心は無い。
付け入るとしたら、ここだろう。
この隙に生まれるのは、歴史上の権力者を数多く葬ってきた「裏切り者」だ。
あの織田信長でさえ、裏切りで命を落としている。
「いつもお疲れ様です。カナタさん」
中庭で休憩している、ボディーガードの1人に声をかける。
「え? あ、私ですか?」
「そうです。カナタ・バースさんでよね?」
「は、はい」
まさか、自分の名前が呼ばれるとは思っていなかったのだろう。
こんな当たり前なことに、大の大人が驚いてしまうのには理由がある。
この城の住人なほとんどが、守衛やメイドなどの使用人を個人名で呼ばないからだ。「おい」とか「お前」と三人称で呼ばれている。
「す、すみません。我々を名前で呼んでくれるのなんて、エミリーお嬢様くらいなので、驚いてしまいました」
そんな、異常な価値観の中でもエミリーさんは常識を保つことができているのだ。好き。
「そうなんですね。あの、今私、時間を持て余していまして。少しお話に付き合って頂いてもよろしいですか?」
こういう時のコツは、下手に出ること。
この娘は礼儀が成っている。少しはお願いを聞いてあげようと思ってくれる可能性が高い。
「は、はい! 私なんかでよろしければ!」
困惑半分、嬉しさ半分といった表情。
殺害計画の第一関門クリアだ。
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