第44話 ファン1号
「さあ! ここが我が家だよ!」
未来の強姦魔に連行されたのは、アイが今まで見たことすらないほど大きなお城だった。
小さい頃に妄想したお嬢様生活の舞台が、そのまま目の前に現れた。
「‥‥‥」
しかし、今のアイは17歳だ。
長い年月により、幼少期の憧れは無くなり、代わりに捻くれた性格を有している女子高生だ。
そんなアイのお城への感想は恐怖だった。
(デカい‥‥‥)
大きい。何ともシンプルだが強い理由でもある。
私の大好きな漫画『進撃の巨人』は、正にその恐怖を巧く描いた漫画だ。自分より何倍もデカい巨人に対する恐怖は、多くの読者が感じたことだろう。
「さ。遠慮せずに入ってよ」
ただでさえ、この男のテリトリーに入るのが生理的に嫌なのに、建物自体に苦手意識があるときた。
(‥‥‥)
アイは数秒間で覚悟を決めた。
命を奪おうとしているのだ。こんなことで怯んでいてどうする。
「本当によろしいのですか? 私のような汚い者が、こんな立派なお城にお呼ばれしてしまって‥‥‥」
「何を言うんだい! 困っている人は見過ごせないよう!」
「‥‥‥お優しいんですね」
男の好きそうな、謙虚な少女を演じる。ここで媚を売っておけば殺すチャンスがくるかもしれない。
「さあ。寒いだろうから早く中にお入り」
こうして、アイは殺すべき男の寝ぐらに足を踏み入れた。
\
「‥‥‥誰? その娘?」
これまたデカい玄関で、怪訝そうにアイを睨みつける、高級そうな赤いドレスを身に纏った令嬢が言う。
「あぁ。困っていたから拾ってきたんだよ」
こういう、ふとした時に出る言葉選びから、シン王子の本性が見える。
拾った。
物かペットに対して使われる表現だ。
別にアイは、人間が他の動物より高尚な生き物だとは思っていない。愛くるしい見た目の犬や猫はもちろん、人間から勝手に害獣なんて呼ばれているカラスまで、人間以下と蔑んではいない。
だから、ショックは全く受けていない。
それどころか、自分が殺そうとしている男のクズっぷりを知れて安心したくらいだ。
「いや、そんなペットみたいなノリで‥‥‥」
しかし、クズの家にいる綺麗な女性は、常識的な反応をしていた。
アイは意外に思った。
おそらくは、クズと恋愛関係で結びついている女だからと、勝手に下品な性格を想像していたから。
そこで、マトモに令嬢の目を見た。
アイが他人の目を見るのは、割とレアな出来事だ。
人間に恐怖を抱いているアイは、会話する時も目を見ることを避けている。代わりに鼻の下や眉毛などを見ているため、顔を覚えるまで時間がかかる。
だが、その令嬢とは目と目を合わせることができた。
(あ。好き)
意思の強い目に似合っている、黄金を思わせる金髪。スタイルま良いので、派手なドレスも着こなしている。アイが着たら服に着られている状態になってしまうだろう。
「ごめんなさい。誰だか分からない人を城に入れるわけにはいかないの。何か身分を証明できるものはあるかしら?」
「何を言っているんだエミリー。君はか弱い女の子を見捨てると言うのかい?」
「いや、そうじゃなくて‥‥‥」
2人が言い争っている最中も、アイはエミリーに見惚れていた。
そう。エミリーは同性にモテる性質を持っている。
彼女のファン1号は、ユメ・クラマンではなかったのだ。
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