第43話 あの男と似ている王子
アイが目を覚ましたのは、絶命した直後だった。
(そっか。地獄って割とスピーディーにいけるんだ。閻魔大王様が頑張ってくれてるんだな。感謝感謝)
自分が天国ではなく地獄に行くもの無意識に思っているのが、アイの自己評価の低さを表している。
どちらかといえば、善人として人生を全うしたのだから、天国くらいのボーナストラックくらいもらえると考えてもバチは当たらないと想うけど。
(ここはどこだろう。とりあえず歩いてみるか)
見た感じ、路地裏っぽい。昔のヤンキー映画でリンチ現場の定番になりやすい場所。辺りを見渡すと、ホームレスらしきおじさまがいる。
(なんか、変に現実世界に似てるなぁ)
アイは、地獄のオリジナリティの無さにガッカリしていた。結局は現実に引っ張られてんのかよと、さっきまで感謝していた閻魔大王に職務怠慢だとクレームを入れたくなる。
地獄にしては煌びやかな雰囲気の街だ。
お店はあるし、親子が仲睦まじく歩いている光景には心が洗われる。洋風の街並みは、海外旅行に行けずじまいだったアイからしては物珍しいと同時に魅力的に映った。
生前に本で読んだ地獄道とは似ても似つかない風景を楽しんでいると、声をかけられる。
高いが、声質からして男だと本能で分かる。振り返ると、中性的な顔立ちのイケメン。つまりはシン王子が立っていた。
(‥‥‥似てる)
アイ最も憎むあの教師に似ていた。
顔面偏差値は、目の前の男の方がよっぽど良い。アイドルにでもなれば、ダンスや歌が壊滅的でも一定のファンはつきそうなレベル。
しかし、表情から滲み出る謎の自信が、あの醜悪な男を思い起こさせる。
「君、変わった格好をしているね。この国の人間ではないのかい?」
喋り方も嫌いだ。初対面の人間に対して、初っ端からタメ口の奴が苦手だった。
一緒にいる屈強な男性が止めているのに、そちらには見向きもしない。
その口調には、自分の方が立場が上だという絶対的自信によるものだとアイは考えていた。嫌われるはずがないと盲信している愚か者の言葉遣いに吐き気がする。
「‥‥‥ヴぉぇ」
その場でえずいたアイを見た男は、頭を撫でた。
「‥‥‥ッッッッッッッ!!!」
「苦労してきたんだね。よし。君の面倒は我が家でみよう。着いてきたまえ」
そう言って、アイの腰に手を当てて連行する男。
何が起きているか、アイは理解できなかった。
何故か。
脳がパニックに陥っていたからだ。
(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い)
連行されている最中、男からの下卑た視線が胸やお尻に感じる。本人はバレていないと思っているのだろうが、見られている側は嫌というほど視線を感じ取ってしまう。
間違いない。
このままだと、また犯される。
2回もあんな目にあってたまるか。絶対に阻止するべきだ。
そのためには何をするべきか。
答えはすぐに出た。
(殺そう)
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