第42話 正ヒロインの過去
元裏側の人間だから知っている情報で、個人的に最も重要だと思っているのは、悪役令嬢の参加人数だ。
現段階で、5人。
つまり、エミリー達に加えて2人の悪役令嬢が残っている。
「どんな娘なの?」
階段に腰を下ろして、今後の作戦会議をしている。
エミリーはとりあえず、その場から動きたいらしかったが、エミリーを探しているであろうユメとルカが見つけやすいように一箇所に止まるべきだと説得したら、納得してくれた。
基本的に血の気が多い女だが、理路整然と説明すれば、耳を傾けてくれるのだ。生前は馬鹿こと、シン王子の感情論に振り回されて暴走することもあったが、あれは仕方がない。
私が同じ立場だったら、国のことなんぞ考えずに、個人的感情のみで殺していたかもしれない。それくらいの馬鹿だった。
まだ、エミリーに言うタイミングではないだろうが、エミリーが死んだ後、シン王子はヒロインに殺されている。
正ヒロインこと、アイ・タケザワ。
現代日本から、アレクレア国に転生してきた彼女は、一言で言えば陰キャの女子高生だった。友達を作るのが苦手で、読書をこよなく愛する女の子。
しかし、そこそこ顔が良く身体も発達しているので、「押したらヤラセてくれるのでは‥‥‥?」と浅はかな思惑をする男共に群がられるタイプだ。
そのせいで、同性からは「色目を使っている」と嫉妬されて、勇気を出してアイが話しかけにいっても無視される。
人間不信になるには充分な環境の中、それでも彼女は懸命に生きてきた。
あの日までは。
20代の新卒の男性教師に襲われたから。
若く爽快な性格のその男は、生徒達に人気があった。でも、アイはあまり好きではなかった。
アイにとっての「良い先生」とは、優しい先生ではなく、授業が分かりやすい先生のことを指していた。
新卒だから仕方ないことではあるのだが、その男の数学の授業は分かりづらい上に脱線が多く、時間を無駄にしている気がして苦痛だった。
一部の陽キャとYouTuberの真似事をしている様子を、ボーッと見ていると、何だが死にたくなってきた。
そのやり取りをしている最中、新卒教員はチラチラとアイの方を見ていた。気になっている女子が笑っているが確認する思春期男子高校生みたいだった。
さすがに大人なのだから、自分の気のせいだろうと思った。いや、そう思わなければ、気持ち悪くて仕方なかったから、そう自分を騙していた。
しかし、女の勘は当たっていた。
「タケザワさん、放課後数学準備室にきてくれる?」
6月の大雨の降る金曜日だった。やっと1週間乗り切って、ホッとする金曜日はさっさと家に帰りたかったが、教師に逆らう選択肢は私には無かった。
「あ。よくきたね。まあ座りなよ」
思い扉を開けると、新卒男しかいなかった。
(この人と2人きりはキツイなぁ)
電気はついているはずなのに、妙に薄暗く感じる数学準備室は居心地は悪く、早く帰りたくて仕方がない。
「先生は、タケザワの味方だからな」
いつも1人でいるアイを、勝手に可哀想だと思ったが故の自分が気持ちよくなるだけの同情を垂れ流す。ペラッペラな言葉を重ねながら、アイの身体に手を伸ばした。
もちろん、アイは抵抗したが、大人の男に口を抑えられて助けが呼べないまま、されるがままになっていた。
(死のう)
常々感じていた死への欲求が、そこでMAXになる。
行為が終わり、男が一仕事終えたように腕を伸ばしていた。男はアイが窓から身を投げることに気づかない。近年稀に見る間抜けである。
数学準備室は4階にあった。
女子高生が命を奪うには充分な衝撃がアイを襲った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます