第40話 仲良くなるには、これが1番
画面越しに見てきてから、エミリーの顔が良いことは知っていた。しかし、実物は美形に拍車がかかってきた。
芸能人を生で見た時に「テレビで見るより可愛いですね」という、褒めているのか微妙な感想に似ている。まあ、私はテレビなんて天井人のメディアに出たことないから分からないをですけどね!
「に‥‥‥にゃーさん?」
「そう。あの姿だと役に立てないから、人間さんになって助けにきたよ!」
昔話みたいなセリフに軽く恥ずかしくなったが、まあ、ギリギリ嘘ではない。
「さぁ、そんなところにいないで、こっちにおいで」
「‥‥‥うん」
多少、涙声が混じっている気がするけど、気づかない気をする。この子はプライドが高いのだ。
すっぽり身体が入ってしまっているので、脱出するのにそれなりの時間を要しそうだ。気をつけないと肩の関節が抜ける恐れがある。ジョジョ立ちのようなポーズで懸命にに脱出しようとしている様子は、何だか可愛かった。
「ちょっ‥‥‥腕引っ張ってくれる?」
ただ、生温かい目で見守っているだけの女に、たまらず助けを求めるエミリー。
「あ。ごめんごめん」
いけないな。まだ声優という安全地帯にいた時の癖が抜けきっていないのだ。しっかりしろ、二階堂沙優。今お前にいるのは自分と同じ次元にいる存在なんだぞ。
エミリーの手を握る。温かい。間違いなく生き物の温度だ。
4分くらいかけて、怪我なくゴミ箱から出ることにした。
「ありがとう」
「どういたしまして」
お互い、軽く息が上がっている。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
ふむ。
やるべきことが終わってしまうと、お互いの人見知り属性が出てしまう。
こういう時、第一声を放つのは年上である私の役割だろう。愛佳先生からの期待に応えなくては。
「えっと‥‥‥説明してもいい?」
そこそこ複雑な話だ。長くなるだろう。
「いいですけど‥‥‥にゃーさん、噛まれてますよ?」
噛まれてる? 誰に?
言われてみると、右脛に違和感がある。
恐る恐る、目を向けてみると、ボールペンくらいの大きさの蛇が、一心不乱に噛んでいた。
慌てて足を動かして振り払おうとする。しかし、さすがデスゲームの舞台に生息する蛇だ。小さくても簡単には離してくれない。
このデスゲームの企画が始まる準備段階で渡された、舞台設計やモンスターの特徴が記された書類を思い出す。
こいつ、毒があるタイプじゃなかったか?
「あの‥‥‥追い払いましょうか」
段取りの悪い女を気遣ってエミリーが、そう提案してくれる。
「いや、大丈夫」
あの書類にも、この蛇はザコキャラだと記されていた。そんなのにも1人で対処できないで、エミリー達を助けることなんでできるはずがない。
徐々に足が痺れてくる。あるかどうかも分からない能力の覚醒を待つ時間はなさそうだ。
むんずッ。
毒蛇を両手で掴む。なんだ、近くで見たら可愛い顔をしているじゃないか。
でも、ごめんね。
左手で頭、右手で尻尾を掴んで身体を割いた。
ブチャッ。
よし。倒せた。
「待たせてごめんね。色々説明するよ」
改めてエミリーに向き合うと、先ほどより親近感を宿した目をしていた。
そっか。ここでは命を奪う場面を見せるのは、一種のコミュニケーションになるんだな。
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