第33話 切り捨てるなら……
「‥‥‥いない」
言っても、その辺にいるだろうと鷹を括っていたが、30分間、隅から隅まで探したが推しは見つからなかった。
いないと分かっていても、ゴミ箱とか見てしまった。歳下のルカの前で格好つけてクールぶっているけれど、私もパニック気味なのかもしれない。
「まあ、ヤバい人ですからね。失踪くらいするでしょう」
突然、眼球のみを狙いにきたサイコパスに、ルカは淡白な反応をしている。まあ、そりゃそうだ。未だに左目は失明したままだ。片目のため、歩くだけでもヨロヨロしている。
しかし、私からしてみたら、世界でただ1人の推しだ。こんなところで逃すわけにはいかない。
この温度差はどうしたものか。能力は申し分ないが、やる気が無いとなると、足手纏いになりそうだ。今のうちに切っておくか。
「あ。でも、分かりやすい血の跡がありますよ」
そこまで考えて、ナイフに手をかけようとした瞬間、ルカが重要すぎるものを見つけてくれた。
これを推しのものではないと考えるのは、いくらなんでも捻くれ過ぎているだろう。
主観的にしか見えていない私と違い、やる気が無いが故の視野の広さに助けられた。
「ありがとう。これを追ってみようか」
ナイフを懐にしまう。
早すぎる再戦は、こうして先延ばしにすることができた。
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[エミリー・サンドリア]
「‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ、、ハァ」
一体、何階建なのか見当もつかない、この城の1階までたどり着いた。
何回か階段で転んで顔がズタズタになってしまったが、玄関先にある身体を縮こませれば何とか入れるサイズのゴミ箱を見つけた。
ゴミが全く入っていない、不気味なくらいに綺麗なゴミ箱に身体を畳んで入り込んだ。
落ち着く。
目の前は、何の情報も無いゴミ箱の黒い壁。
私の影に覆われて、本来は白いはずの壁が薄い黒になっている。視線を他に向けようにも、身体を動かせないので、そこを見続けるしかない。
さっきまで、何を見ても情報がチラついてパニックになっていた。例えば、時計台を見た場合は、1〜12の数字やゴシック調のデザイン、長針と短針など、どこを見たら良いか分からなくて心臓がバクバクしてくる。
対して、今は見ているのは、ただただ黒いだけの壁。
そんなものに、何の魅力もない。
しかし、今はそれがありがたい。
「‥‥‥」
やっと、一息つくことができた。
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[にゃーさん(二階堂沙優)]
あれ? でもこれ、ユメは助かったけどエミリーが酷いことになったな。
神がエミリーの過去編を書き下ろしたことで、ルカを退けることに成功したが、気がつけば大変なことになっていた。
「‥‥‥」
これは、どうしたのもか。
こんな狂った世界観だから、全員を救うことはできないのかもしれない。今の中心キャラの中で犠牲になる必要がありそうだ。
もし、この仮説が合っていたとしたら、誰に不幸になってもらうか。
エミリーは自分の担当だから長生きしていてほしい。ユメは、そのエミリーを助けてくれる重要な戦力だ。じゃあ、ルカはどうだ?
強いけど、裏切るリスクがある。さらに、エミリーに好意を抱いているようには見えない。
「‥‥‥ルカだな」
私は、1人っきりの録音ブースで、ボソっと呟いていた。
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