第24話 私に似た声

「全く。あと30分だけですよ」

「うん。ありがとー」


 いつもより力が抜けた声のシーフに答えるのは、その何倍もだらしない声の私。


 しっかりした休憩を取らない限り、テコでも動かないと察したシーフは自らもコタツに潜り込んだ。

 それから、どれだけの時間が経過したか覚えていない。

 お尻に根が生えるとは、正にあのことで私達2人はいつの間にか寝てしまっていたからだ。


 いつまでも寝続けてしまいそうだったが、ある違和感に気づいて目が覚めた。


 熱い。


 温かいというレベルはとうに超えている。コタツ中の下半身が焼けるように熱い。

 慌ててコタツから出ると、己の膝やくるぶしが真っ赤になっているのが分かった。足全体がジンジンして痛い。火傷一歩手前と言っても過言ではない。


「あ‥‥‥シーフ」


 それなりのパニック状態だった私は、同じ危機の真っ最中のシーフに気を配るまでに多少の時間がかかった。

 しかし、時間というの厄介なもので、過ごしているうちはその貴重さに気づかないものである。


 最初は、煙だった。

 次に、チリチリと不穏な音と共に小さな火が見える。


「シーフ!」


 咄嗟に動いたのは身体ではなく口だった。冒険に憧れているくせに、いざ緊急事態になったら声を張ることしかできない自分に絶望した。


 私がシーフに変なことを言ったから、こんなことになってしまったと絶望して、シクシク泣く弱者。

 私は、ガキの頃の口だけの私が大嫌いだ。


 コタツの周りにあった、変わったデザインの服や木製の壁に火は次々と乗り、煙も多くなる。

 次々と悪化する環境に息が荒れ、煙を思いっきり吸い込んでしまう。


「ゴホッゴホッッッ、ゴホッッッッッッッッ!!!」


 火災で最も恐ろしいのは火ではなく煙だ。

 強い吐き気の後に、とんでもない頭痛まで襲ってきた。

 何もできない、何も成し遂げた経験の無い私は、ただその場でしゃがみこむしかできなかった。

 さらに、次のような幻聴まで聞こえてくる始末だ。


<こっちにおいで。綺麗なマニキュアをあげるよ>


 そんなガキに、17歳のエミリー・サンドリアは怒鳴りたい。

 甘えるな! と。

 お前の命だろう! 自分で守れよ!! そんなんで国をまとめられる女になれるのか!!!


「お嬢様!!!」


 しかし、そんな情けないガキに、手を差し伸べる初老の女性がいた。

 自分の方が酷い火傷を負っているのに、他者を優先できる尊敬すべき女性は、私という文字通りのお荷物を抱えて出口へ向かう。


<‥‥‥またきてね>


 完全に意識を失う直前、再び幻聴が聞こえた。

 寂しそうな、どことなく私に似た声だった。


 この情けない経験をしてから自分磨きに本気に取り組むようになった。


 

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