第22話 サラちゃん
「え? まっしろさんの噂について知りたい?」
病室のカーテンと窓を開けてくれる小さなのメイド、サラちゃんが首を傾げて聞いてくる。
この国では、12歳を過ぎれば一応労働の許可が与えられる。しかし、その権利を使うのは貧民の子供がほとんどだ。私もあと2年経てば働けるのだが、エスカレーター式に中等部に上がることになっている。
勉強は嫌いではないけど、アレと恋人ごっこをしなきゃいけないのはストレスだった。特に最近はキスをせがんでくるのが気持ち悪い。この分だと、その先も考えなくてはならないだろう。
そんな、歪な学校生活に思うところがあった私からしたら、自分の力でお金を稼いでいるサラちゃんは憧れだった。
「やっぱりお嬢様もオバケ怖いですか? でも、大丈夫です! 私がお守りしますから!」
こうして、素敵な笑顔を見せれる愛嬌も、私には無いものだ。そして、好きなところがもう一つある。口が軽いことだ。
国民の流行などを教えてくれたり、あのメイドとあの衛兵が付き合っているらしいという、10歳の私にとっては何よりも興味深い情報をたくさん教えてくれる、ありがたい存在だ。
「ありがとう。でも怖い‥‥‥」
深窓の令嬢を気取って庇護欲をくすぐってみる。
「大丈夫ですよ! まっしろさんには弱点はあるんですよ!」
よし。釣れた。
「火です。ライターとかの小さなので充分効くみたいですよ」
「へぇ。なんでかってのは知ってる?」
「はい! 昔、この城で殺されたお嬢様という説がありますね! あ! お嬢様っていうのはお嬢様のことではないですよ!?」
「分かってる分かってる」
アワアワして訂正するサラちゃんを、年上だけど可愛らしく感じる。
自分が可愛くないから、特に。
「で? その私じゃないお嬢様はなんで死んじゃったの?」
「えっと‥‥‥王子様に火をつけられて‥‥‥」
申し訳なさそうに言うサラちゃんは、私にもそれに似た関係性の男がいることを慮ってくれているのだろう。
良い子良い子と頭を撫でたくなるが、さすがに失礼だろうと自重する。年下の私が子供扱いされるのが嫌なのだから、年上のサラちゃんは尚更嫌だろう。
「良いよ。そのまま続けて」
代わりに、できるだけ優しい声音を心がけて先を促す。
「は、はい! 元々寂しがり屋だったその‥‥‥令嬢が夜な夜な友達を探しているらしいです。で、気に入った子がいたら、その真っ白な身体に取り込んじゃんです!」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
続きを待ったけど、サラちゃんの話はこれでお終いらしい。
何の感想も言わない私を不安げに見つめるサラちゃんに、私はワントーンテンションを上げて言う。
「そっか! 怖いけど火が弱点ってこと知れて、ちょっと安心したよ。ありがとう」
すると、パーっと笑顔になるサラちゃん。
「お嬢様のお役に立てて良かったです!」
今思い出しても眩しい笑顔だった。
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