第20話 シーフ
まっしろさん探しは夜中に行うことにした。
昼間に動き回っていると、みんな心配するから。
「‥‥‥ッ」
興奮して漏れそうになる吐息を必死で抑える。
深夜3時。普段なら眠りの最も深いフェーズに入っているはずの時間に、冒険の真似事をしているのが楽しかった。
深夜3時に足音を殺して歩く。人間が活動するには適さないこの時間も、門番は働き続けているから油断はできない。
慎重に、しかし楽しんで秘密の部屋を探そう。
「こんな時間にどちらに行かれるのですか? お嬢様」
とか思っていたら、速攻で見つかった。
もう見つかっているのだから、音をたてない努力はしなくていいのにも関わらず、ゆっくりと振り返る。
「‥‥‥シーフ」
そこにいたのは、こんな時間でも黒と白のコントラストが美しいメイド服を着こなしている。可愛いと表現されることが多いこの服だが、シーフが着ると格好よく見える。
もう60は超えているはずなのだが、姿勢が良いことや生命力溢れる表情により衰えは感じない。人生の経験値がとんでもない雰囲気からは、若々しいというよりは成熟した魅力がある。
「夜更かしはお肌の大敵です。ベッドへ戻りましょう」
「いいよ。そんなの」
現在17歳のエミリー・サンドリアが聞いたらブチキレるであろうお肌ツヤツヤなガキのセリフに、シーフも苦笑いしている。
「そんな悪いことをしていたら、まっしろさんに連れていかれますよ」
今思えば、落ち着かないガキを黙らせるための方便が多く含まれた言い方だった。しかし、あの真面目なシーフでさえ知っている都市伝説なのだと、まっしろさんの好奇心はさらに膨らんだ。
「それ! まっしろさんってどんなオバケなの!? あ。ヤバッ‥‥‥」
物音をたてないように気をつけていたくせに、そこそこ大きな声を出してしまい、1人で勝手に焦る私。
「いえ。これは方便と言いますか‥‥‥」
シーフはモゴモゴと何か言っていたが、私の勢いを見て話を逸せないと観念したのだろう。
シーフは私の身長に合わせてしゃがんだ。これは、シーフが本腰を入れて話し始める合図だ。
「話し終えたら戻って下さいね」
「うん」
私は真っ直ぐ嘘をついて話を促した。
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お嬢様はシミュラクラ現象をご存知ですか?
3つの点が逆三角形に配置されていたら人間の顔に見える現象です。
あぁ。そうですね。別館の庭にある木が正にそうです。
ただの点の集合体なのにそう見えてしまうなんて、人間の脳とは単純なものですよね。
はい。まっしろさんも、その類だと私は考えております。
その名の通り、真っ白な存在のようです。
形は人間を模していますが、目も鼻も口もない。ただただ白い物体です。
そんな目撃証言ばかりなので、光の加減と幻覚が合わさった故の産物だろうと私は睨んでいるのです。
え? そんなな良いから何をしてくるのか教えろ?
分かりましたよ。
端的に言えば、まっしろさんに取り込まれるんです。
比較的平和なこの国でも、年間の行方不明者は3000人を超えるそうです。優秀な騎士団が捜索しても見つからない人達がいるというのが現実です。
大事な人の所在が掴めなくなった家族や友人は、せめて理由が欲しかったでしょうね。
だから、幻覚で見た化物のせいにしたのでしょう。
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