第19話 まっしろさん
病気や怪我が長引くと、徐々に精神も蝕まれていく。
良くなる気配がない。もしかして、一生このままなんじゃないかと要らないことを考えてしまう。
「‥‥‥はぁ」
広いベッドでため息が漏れる。みんな、とにかく寝ろというけど、もう1週間横になっていると、普段大好きなはずの睡眠がストレスになってくる。
痛む左腕を庇いながら立ち上がるが、やることがない。
しばらく、呆然とした後、それほど尿意も便意も催してなかったが、トイレに行くことにした。
暇人でも行く理由を与えてくれるトイレ様、ありがたや。
「お嬢様。どちらに?」
「トイレ」
「あ。そうですか。いってらっしゃいませ」
外出しようとすると止めてくるメイド達も、納得して道を開けてくれる。
スムーズにトイレに辿り着く。
無駄に煌びやかな我が家のトイレは落ち着かない。壁に有名な芸術家の絵画が設置されているのも気に食わないが、明るすぎる照明の方が嫌いだ。ウンコする奴を照らして何になる。下らない。
それに比べて、隣国まで馬車で旅をした時に使用したトイレは良かった。薄暗いのはもちろん、最後に掃除したのはいつなのか疑問に思うほどの汚れと匂い。あの時、私は初めて本当の意味での排泄物の匂いを知った。
鼻が曲がるほどの悪臭だったが、用を足した後しばらく経ってから、また嗅ぎたくなる不思議な匂いだった。
しかし、この城の優秀なメイド達は、あの匂いを徹底的に排除するべく、日々掃除に励んでいる。
ありがたいけど、もうちょっとサボってもいいんだよ?
そう思いながら、綺麗な便器にプリプリうんこを出していると、複数人の足音が聞こえてきた。
「はぁ。やっぱり奥様怖いねぇ」
「ね。アレで完全に悪人ってわけじゃないのが、さらに厄介だよね。それだったら心置きなく悪口言えるのに」
本当にね。と相槌を打ちたくなるくらいメイド達の会話に共感する。
しかし、私がこの会話に参加することは不可能だ。渦中の人物の娘である私が登場したらこの2人は必死に取り繕うだろう。人の悪口という、仲良くなるにはうってつけの話を、私は彼女らとすることができない。
つまらない。
令嬢って、本当につまらない。
そう思い、闇の思考に引っ張られそうになった私をメイドの一言によって引き戻される。
「そういえば、秘密の部屋の噂知ってる?」
「え? 何それ」
「この城のどこかに、どんな怪我も病気も治せる万能薬がある部屋のこと。その薬を手に入れるには、まっしろさんっていう化物に招待されなきゃいけないんだって」
「何それ? 都市伝説ってやつ?」
「まあ、そんな感じ。でもさ、ちょっとワクワクしない?」
「ホントそういうの好きだねぇ。私は魅力が分からないや」
「えー」
徐々にメイド達の声は遠ざかっていく。
都市伝説好きの方のメイドよ。私はワクワクしたぞ。
どうにかして、その秘密の部屋を見つけ出してやろう。
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