第18話 お母様
こんなんでも、小さい頃は私も好奇心旺盛な子供だった。
剣術の鍛錬も、最初は遊びの延長線上てしていた。本当は同年代の子達とおままごとやお人形遊びがしたかったが、お母様がこう言って許してくれなかったのだ。
「サンドリア家に相応しい友人関係を結びなさい」
当時の私には言っている意味が分からなかった。いや、今でも完全に理解しているとは言えない。
おそらく、お母様の言う「相応しい友人」ってのはお金持ちの家の子という意味だろう。将来に利用できるような家柄の子。
しかし、それは「コマ」であって「友人」ではない。
コマは無いと困る。いくら権力があっても動いてくれるコマがなければ何も始まらない。
友人はもっとこう‥‥‥あっても無くてもどっちでもいいテキトーな存在ではないだろうか。1人でもできるけど、いたら楽しくなる存在。
まあ、友人ができたことないから想像の域からは出ないんだけどね。
閑話休題。
そんな面倒臭い家庭環境で育った私はスポーツ感覚で剣を握っていた。
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「ッッッッッッッ!!!」
切り落とされたかと思った。
自分の身長より大きい剣を振り回していたら、誤って自分の左腕を切ってしまった。
この時、本当に痛い場合は叫び声なんか出ないことを学んだ。痛みの他にも強烈の吐き気が併用して思いっきり吐いた。
その日の昼食である貝のパスタは、私の好物でシェフが気を遣って用意していたものだ。私はそのパスタを消化する前に栄養素にすることができずに吐瀉物となってしまった。かつてパスタだったものは綺麗な緑が映える庭を汚す。
吐いても、左腕はもちろん、頭や心臓が痛くて堪らない。
「お嬢様!」
何もできずにその場でダンゴムシのように蹲っていると、しわがれた声が聞こえてきた。
メイド長であるシーフだ。
厳しくも優しい彼女が駆けつけてくれたことに緊張の糸が切れて、私は意識を手放した。
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「‥‥‥」
目が覚めて最初に、左腕が繋がっていることを確認した。
良かった。間違いなく私の左腕だ。
包帯やギブスから大怪我らしいけど、思ったより軽傷みたいだ。
最近、遠くの戦争をしている国で性能の良い義手ができたとニュースで見たので、その影響があり大袈裟に考えてしまったのかもしれない。
「‥‥‥さて、みんなに無事だって伝えないと」
ずいぶん迷惑をかけてしまった。シーフがいるから大丈夫だろうが、お母様がメイド達に八つ当たりしている可能性大だ。早くしなくては。
「メアリー!!!」
耳がキーンとするかな切り声。同じ大声でもシーフの安心感のあるものとは違うヒステリックな印象を受ける。
大股で近づいてくる。
パンッッッッッッッ。
城中に響き渡るくらい良い音のピンタをされた。
「なんでアンタは私を困らせるの!!! いい!? よく聞きなさい! 私はアンタと違って忙しいの!! 怪我!? 別にどうでもいいわよ!!! 今日は新しい紅茶の審査会だったのにアンタのせいで台無しよ! アンタなんか産むんじゃ」
「そこまでです。奥様」
その先のセリフを遮ったのはシーフだ。
何を言おうとしていたかは容易に想像できた。しかし、実際に言われていたら少しはショックを受けていただろう。
「‥‥‥シーフさん‥‥‥あ。メアリー。違うの。こんなこと言うつもりは‥‥‥ッ。ごめんね。まずは怪我の心配よね。痛かったわね。ごめんね。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
それから、壊れたラジオのように謝り続けるお母様をシーフが背中を優しく撫でながら室外へ連れていった。
「‥‥‥ごめんなさい」
誰もいなくなった病室で、お母様と同じセリフを言ってみたが、私のは嘘っぽかった。
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