第17話 新しいオモチャ

「わーい! 新しいお姉ちゃんだー!」


 ヤベ、見つかった。

 できれば、一度フェードアウトして仕切り直したかったがもう遅い。この小さな生き物と向き合わなくてはならない。


 昔から子供が苦手なのだ。どんな対応をしたら良いか分からないのだ。

 小さいとはいえ人間なのだから馬鹿ではないだろうし、私が子供の頃は一人前扱いされないことが悔しかったので、見下した言葉遣いは使いたくない。

 だから、どう接して良いか分からないのだ。


 しかし、私が苦手ということは向こうも私のことが苦手なようで、多くの子供は私から距離を取っていた。ホッとすると同時に寂しさも持て余す存在、それが私の中のイメージだった。

 しかし、目の前の女の子はそんな私にもグイグイくる。


「わたしルカ! ねぇ! お姉ちゃんは強いの!? どんな殺し方が得意!? わたしはねぇ、撲殺!」


 無邪気な話し方で物騒な内容を吐く少女、ルカに私は怯んだ。殺し合いでペースを持っていかれるのはマズい。早くなんとかしなければ。


「あ! 可愛いナイフ持ってるね!! それで刺してみてよ!」


 再びかまされて、このまま切りかかって良いか迷う。

 場の空気は完全に持っていかれているし、ルカの言う通りに攻撃を仕掛けて通用しない可能性を考えるとリスクが高い。


「ねぇねぇ。早く〜」


 そう煽られて、何の勝算も見えないままルカの心臓へ突っ込んでいった。


「‥‥‥」


 精神が乱れていたにしては、良い一撃だったと思う。さっき殺した娘に繰り出せば絶命していたはずだ。

 しかし、ルカには全く通用しなかった。


「あれ? こんなもんかー」


 遊ぶのを楽しみにしていた新しいオモチャが、思ったより下らなかった時のような失望に溢れた表情。


「じゃあ、もういいや。じゃあね」


 ただの殴打。

 そのはずだが、顔に一発もらっただけでも私は膝から崩れ落ちた。


「!!?‥‥‥?、!?」


 脳震盪ってやつか? 身体も脳も動けない。

 そんな中、本能で理解した。

 私は、この子に勝てない。

 小説のような逆転劇はありえない。

 第2撃がきたら、間違いなく死ぬ。


「‥‥‥くラシいなァ」


 回らない舌で悔しいと呟く。


 アレや私を殺した黒幕に復讐できないまま、デスゲームで殺される。2回死んだらどうなるんだろう。私って架空のキャラクターらしいから地獄にも天国にもいけないんじゃないか?


<悪いことしたら、『まっしろさん』に連れていかれますよ>


 思い出したのは、幼い私の世話をしてくれていた、メイド長のセリフだった。

 おそらく、悪いことをした時のことだろう。


 そのメイドは、お母様よりお母様らしい女性だった。仕えている家の娘を甘やかすだけでなく、悪いことは悪いと教えてくれる大人な見本のような人。


 まっしろさん。

 あの当時は怖かったけど、どんな話だっけ?


「エミリーさんに手ぇ出すなァァァぁぁァ!!!!!」


 そこまで考えた辺りで、聞き慣れた声が響いた。


「うわ! まだ動けるんだ!? すごいすごい!!」


 暴力特有の鈍い音をBGMに、私は『まっしろさん』の話を思い出した。



 

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