第14話 神の気まぐれ

「あ、あの! 二階堂さん! 一緒にお昼どうですか!?」


 キラキラ青春ドラマのワンシーンかな? と錯覚するくらいのピュアな気持ちを愛佳先生にぶつけられる。


 しかし、画面の中では放って置けない場面から目が離せない。『死と革命』の悪役令嬢、ユメ・クラマンは何故かエミリーに依存している。

 依存と言っても色々な種類がある。

 相手に頼りきりで負担をかけるタイプから、過剰にお世話しることで欲求を満たすタイプまで様々だ。

 一概には言えないが、ユメ・クラマンは後者に近い気がする。今も、襲いかかってきた他プレイヤーに捨て身の特攻をしている。


<キャキャキャキャキャ!!!>


 防御を度外視しているので、攻撃を受けまくっているが笑いが絶えない。通常、笑顔というのは相手に安心感を与えるものだが、今のユメ・クラマンの表情にそういった効果は皆無だ。なんだったら、凄んだ顔より怖い。


 そういえば、笑顔が誕生したと言われている原始時代は、威圧する目的で笑顔を浮かべていたんだったか。

 怒りが行きすぎて狂気じみた表情になる。


 DCフィルムズが『ジョーカー』を創るずっと前から、笑顔の恐怖は存在したわけだ。

 死ぬことを何とも思っていない馬鹿は、デスゲーム系の作品では昔から強キャラとして描かれる。しかし、こういうタイプは他プレイヤーに束になって攻略されるので、最後まで生き残ることは少ない。

 いつ死ぬか分からないこの女の戦闘中にランチに行くのはリスクが大きい。


「もちろん行きたいんだけど、この場面が一段落してからで良い?」

「はい!」


 気持ちのいい返事だ。メガネ越しでもニコニコしているのが分かる。こんなに可愛い娘に懐かれるなんて、冴えない私の人生に彩りができた。


「‥‥‥」

「‥‥‥」


 でも、直立不動で待たれていると落ち着かない。出ていけとは言えないので声をかけてみる。


「座る?」

「あ。すみません! 気を遣わせてしまって!」


 私が座っている3万円のゲーミングチェアより性能がずっと落ちるキャスター付き椅子だったが、嬉しそうに座る愛佳先生。


 ふぅ。これでちょっとは気がまぎれる。

 再び、画面に向き合う。

 まあ、そうしたところで、私にできることなんて無いんだけどね。


 所詮はマスコットキャラ。一緒に戦うことはできないし、痛みを分かち合うこともできない。でも、それでも、目を逸らしてはならないと思う。

 こんな仕事で汚い金を受け取っている私は、自己中な正義感をすら抱くべきではないのかもしれない。中途半端な人間性は捨てて、エミリー達を人形のように扱うような悪になった方が楽なのかもしれない。


 そう。これは私の自己満足だ。

 ちっぽけなプライドを守るための意味のない行為。

 少しでも自分がまともな人間だと思うための儀式。


 だから、死なないで。


「あ。この子、『死と革命』のユメちゃんですか? なんか死にそうですね」


 そんな儀式に、愛佳先生が入ってきた。

 邪魔しないでほしいと少し不愉快になったが、愛佳先生は私の心の中など知るわけがないのだから罪はない。


「可哀想。あ、でもエミリーちゃんいるじゃないですか」


 己の作品のキャラクターを見つけて、彼女は、いや神様は言う。


「ちょっと強くして、ユメちゃん助けてもらいましょうか」

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