第13話 Reborn

 売れない三十路女性声優。

 私が『闇金ウシジマくん』に登場したら、間違いなく枕営業で心をやられた末に声優として機能しなくなり、闇金かな手を出して人生がメチャクチャになるだろう。


 しかし、現実はこんな私を拾ってくれた。


 それが、今の主な収入源である「カラフル」というアプリの会社だ。

 異世界転生の作品を数多く扱っているこの会社は、新しいタイプのアプリを生み出すことに成功した。

 それは、物語のキャラクターの一部に、本物の心を与えるというものだ。


 もちろん、物語の展開は作者次第なので、心を持ったキャラクターによっての影響は0に等しい。そんな、損な役割を与えられたのは悪役令嬢と呼ばれるキャラクター達だった。


 必ず死ぬように考えられている彼女達は、自分が理不尽に命を落としたことに憤りを覚える。その感情を利用したのが、私が参加しているプロジェクトである「Reborn」だ。


 悪役令嬢同士で殺し合わせて、その模様を配信するのだ。

 「カラフル」のサービスは、基本的に月500円で楽しむことができるが、この「Reborn」は1500円払うことで観ることができる。

 強気な値段設定だが、登録者は増えている。


 そんな、エンタメ業界の闇によって生み出されたプロジェクトによって、私は飯を食うことができている。

 第2回目となるこのプロジェクトは、とにかくギャラが良い。

 エミリーに同情しないわけではないが、私の生活費のためだ。できるだけ長く生き残ってほしい。


「いただきます」


 午前6時。クロワッサンとスクランブルエッグ、コールスローを食べ始める。

 こんなにしっかりした朝食が取れるようになったのも、「Reborn」に参加するようになってからだ。ほんの3年前までは食パン1枚しか食べれなかった。マーガリンやジャムは、特別な日しか使えなかったくらいひもじい思いをしていた。


 しっかり栄養を取り、お化粧に時間をかけてから、今日も「カラフル」へと向かう。

 自分の生活に彩りを与えるために、私は今日も仕事に行く。

\



 まだ愛佳先生の勤務時間まで2時間あるはずだけれど、既にデスクに座って執筆作業をしていた。

 私に気づいた愛佳先生は、立ち上がって深々と頭を下げる。


「お疲れ様です!」

「あ。はい。おはようございます」


 若さが眩しい。直視できずに腑抜けた挨拶になってしまう。代わりにデスク周りに視線を向けると、寝袋が転がっていた。


「もしかして、今日も泊まったんですか?」

「はい! 今のうちに区切りの良いところまで書きたくて」


 仕事熱心なのは素晴らしいけど、きちんと布団で寝るべきだよと老婆心に溢れた言葉が喉まで出かかる。しかし、やりたくてやっている愛佳先生には余計なお世話だろう。


「ん? これ夏用シェラフじゃないですか?」


 そう思っていたはずなのに、気づいたことをそのまま口にしてしまう。


「え? 種類とかあるんですか?」


 キョトンとして聞いてくる愛佳先生。


「そりゃそうですよ。昨日寒かったけど大丈夫でしたか?」

「実家にあったのを持ってきただけなので‥‥‥」


 ため息を吐きたくなる。いくら若くても、このままでは身体を壊す。


「えっと、Amazonですぐに帰るけど」

「ネットショッピングよく分かりません‥‥‥」


 その瞬間、この子は私が支えなくてはと勝手に決心してしまった。


「じゃあ、私が買ってあげるから、この中から好きなの一緒に選ぼう」


 Amazonを開いて愛佳先生の隣にパイプ椅子を持って行って座った。


「良いんですか!? 後でお金を二階堂さんに払う感じで良いですか?」

「良いよー。でね、オススメが‥‥‥」


 それからは、割と楽しい時間だった。

 友達がどんどん結婚して、こうして誰かと談笑することが少なくなっていた。

 やっぱり、可愛い子と話すのは癒される。

 

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