第12話 にゃーさんの中見
[にゃーさん(二階堂沙優)]
狭いアフレコブースで、馬肉を食べている音を出すために、Uberで頼んだ馬肉定食を食べる。
「美味しい! ユメは料理が上手なんだね!」
悪役令嬢のご機嫌を取るために、高い声を吹き込む。
この哀れな悪役令嬢達に対する感情を説明するのは難しい。
娯楽作品を盛り上げるために、最初から死ぬ運命で作られた存在。
可哀想と思うのは失礼だろうか。しかし、やっと自分の意思で行動できると思ったら、こんな悪趣味なゲームに参加しなきゃいけない彼女達が苦労しているのだ。同情してしまうのは仕方ないだろう。
「エミリー、そんなに美味しいのかい? いっぱい食べてねー」
だから、少しでも癒されてほしくて、こんなことを言ってみる。
私にできるのは、これくらいだから。
\
「お疲れ様でーす」
エミリーが寝たので、私の仕事も終わりだ。
起きてくる可能性もあるから、私としては会社に泊まりたいのだが、働き方改革の影響はエンタメ業界にも及んでいる。残っているとさっさと帰れと追い出されるのだ。
「あ。お疲れ様でした!」
エミリーを主人公にしたライトノベル『地味な私が転生したら王子様がかまってくるんだけど!?』を書いている桐島愛佳先生が、わざわざデスクけら立ち上がって挨拶をしてくる。
一応、私の方が年上だから気を遣ってくれているのだろうが、立場はバリバリ愛佳先生の方が上だから勘弁してほしい。
あちらは22歳で、私は30‥‥‥前半だから、仕方ないんだろうけどさ。
愛佳先生は、若いうちから商業デビューをしている優秀なラノベ作家だ。
何故、ラノベ作家が会社にいるのかというと、仕事で自分を縛るためだ。
小説家という人種には、大きく分けて2つある。
いつ仕事をするかは任せてほしいタイプと、仕事の時間を決めてもらってもらわないと書き出せないタイプ。
愛佳先生は後者らしい。
10時から19時までの勤務体制で、このカジノ社で執筆をする義務がある。
目の下にクマを作っている愛佳先生を見ていたら、何かしてあげたくなる。あ。そうだ。
「あの、もし良かったら、これ‥‥‥」
さっき、自販機で買ってまだ飲んでいないレッドブルを私てみる。
「わー。ありがとうございます!」
ニコニコして受け取ってくれる。
最近の若い子には珍しく、他人からの差し入れを喜んでくれるたことに、私も嬉しくなる。
最近の若い子‥‥‥もう私もそんな表現をすることになったことにショックを受けながら、別れの挨拶をして家路につく。
帰ったところで誰も待っていない、ワンルームのアパートへと向かう足取りは重い。
\
「‥‥‥ただいま」
私以外誰もいない空間に言葉を投げるが、もちろん返してくれる人はいない。
コンビニ弁当をそそくさと温めて、がっついて食べる。20代の頃は料理を頑張っていたのだが、30代を迎えてからどうでもよくなった。
唐揚げを頬張っていたら、LINEの通知がきた。
大学時代の友人。もう何年も連絡を取り合っていない子だ。
‥‥‥なんか、嫌な予感がする。
<久しぶり! 同窓会ぶりかな? いきなりでビックリするかもなんだけど‥‥‥結婚することになりました!>
クソ。やっぱりか。
この歳になると、最近会ってない子からのLINEは結婚のご報告がほとんどだ。
もう何年も彼氏がいない、売れない声優である私にとって、胃がキリキリするLINEに返信する。
<えー! おめでとう! え。相手はどんな人!? 教えて教えて!>
全く興味のないけど、そんな文面を送信した。
放っておいたらスマホの光が消えて画面が暗くなる。
その画面に映った自分の顔を見て、ギョッとした。
私、こんなつまらなそうな顔してたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます