第11話 女の子の感触

 お腹いっぱい馬肉を喰らった後、私と女は交代で見張りを任せて眠りについた。


 最初は「見張りなどわたくし1人で充分ですわ!」と謎の意気込みを見せていた女だったが、それで潰れたらそっちの方が迷惑だと懇切丁寧に説明した結果、3時間交代で眠ることになった。


 人間が回復するのに最も適した睡眠時間は7時間と言われているが、そんな贅沢はできない。しかし、1時間ずつこまめに寝るのも効率が悪い。それを踏まえての折衷案である。


 慣れない環境で効果的な睡眠が取れるか不安だったが、夢を見ることもなくガッツリ寝ることができた。


 前世では婚約者候補であったアレの悪夢に日々悩ませれていたので、ここまでの快眠は久しぶりだ。


「おはようございます!」


 女が元気に挨拶してきた。


 婚約者のアレは、機嫌が良い時は朝の挨拶を返すが、調子が悪い時は無視するタイプだった。

 自分の機嫌の良い悪いで挨拶をしたりしなかったりするガキに国を任せて良いのかと、無視される度に思ったものだ。


 その点、この女は頭はおかしいが元気に挨拶してくれる。同じくらい異常者ならアレよりこの女に価値がある。


「おはよう‥‥‥」


 私も挨拶を返したタイミングで、ふと思う。

 そういえば、私は共に暴れ馬を殺した女の名前すら知らないではないか。


 勝者が1人のこのゲームで、不必要な馴れ合いを排除しようとするあまり、最低限の礼儀を忘れていた。これはアレのことを馬鹿にできない。


「‥‥‥えっと」


 まずは自分から名乗るのが筋なのだが、今更過ぎて恥ずかしいのでモゴモゴした話し方になり、目線が定まらない。


「はい! 何ですか?」


 対しての女はハキハキと、けれど優しく聞き返してくる。


 頑張れエミリー・サンドレア。お前はコミュケーションも勉強してきたはずだろう。自己紹介は基本中の基本だ。相手の目を見ろ。それが難しかったら鼻や首辺りを見ろ。

 視線を少しずつ女に向ける。


 ‥‥‥こんなに可愛い人だったのか。

 今まで余裕がなくて気づかなかったけど、長身で目もパッチリしている美少女だ。もう少し優しくするんだったな。


「私の名前はエミリー。貴女は?」


 気がつけば、前世の頃と同じように堂々とした態度で名乗ることができていた。可愛いは偉大だ。


「ユメ」


 ボソリと答える。


「ユメ・クラマンですわ!!」


 2度目は腹の底からの声量だ。それだけなら良いのだが、手まで握ってきたのでドギマギする。


 お偉いさんのおじさんや下心丸見えのボンボンには、しょっちゅう触れられていたが、同年代の女の子との接触は久しぶりだ。


 最後の記憶を辿ると、小学部まで遡るレベル。

 学舎からの帰り道に手を繋いだのだ。ただ、その時の子も遠慮がちだったように思う。

 しかし、ユメ・クラマンは力強く握ってくる。痛いくらいだったが、その手を振り払おうとは思わない。

 今はまだ、久しぶりの女の子の感触を味わうとしよう。


 

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