第3話 死んでからの方が楽らしい
ドレスだけではなく、身体中が血だらけだ。
でも、不愉快ではない。目の前の人間だった肉塊に愛おしさも感じる。
己の手元についた血液を舐めてみる。
‥‥‥美味しい。
アレに身体を弄られている時とは比べ物にならないくらいの快楽が脳を刺激する。
これは、ハマったらダメな奴だ。
アルクレア国の路上で見た、クスリに溺れていた連中を思い出す。目の焦点は合っていないのにギラギラする目つきには、何をしでかすか分からない危うさがあった。
今の私も、あんな目をしているだろう。
やめなきゃいけないのは分かっているのに、身体が言うことを聞いてくれない。まるで犬のように四つん這いになって血を貪る。今だったらあの連中の気持ちも分かる。これは自分の意思だけではコントロールできない。
「‥‥‥リー、ミリー‥‥‥エミリー!」
どこから声を出しているの? と思うほどの高い声をキッカケに意識が戻る。
「大丈夫? なんか怖かったよ」
「‥‥‥あぁ。ごめん。大丈夫」
本当は大丈夫でも何でもなかったが、とりあえずそう返す。
まだ、血の味が舌に残っている。甘くて濃厚で新鮮な人間の味を忘れ去るために、目の前のねこさんのぬいぐるみに意識を集中させる。
にゃーさん。
私の心の支えだったぬいぐるみに似ている、このゲームの案内人。
就寝時には必ず抱っこしていた、私の癒し。
ギュッ。
気がつくと、私はにゃーさんを抱っこ抱きしめていた。
‥‥‥あぁ。フカフカだ。
血だらけの女に抱かれるというのに、にゃーさんは嫌な顔1つせずにじっとしてくれている。
たっぷり5分ほど感触を堪能してから、解放する。
「‥‥‥ごめんなさい。ちょっとどうかしてた」
「いいよ! そういうシーンが好きな方々もいるからさ」
その可愛らしい風貌には似合わない、クソみたいな返しをするにゃーさん。
観客みたいな奴らがいるのか。
そのうち、そいつらもぶん殴ろう。
「とにかく、初勝利おめでとう! ぼくのお給料が上がるよ! ありがとう!」
「いいなぁ」
そう返事したのは私ではない。
テテテッと現れたのは、にゃーさんと同じサイズのタヌキのぬいぐるみだった。
「ぼくの姫なんか、開始早々に死んじゃったよ。もしかしたら減給されちゃうかも」
「大丈夫だよ! 皆さん優しいじゃないか! そんなひどいことしないよ!」
「それはネコさんが気に入られてるからだよ。ぼくなんか‥‥‥」
可愛いぬいぐるみ同士がしけた話をしているのが、ツボにはまる。眉を曲げているタヌキさんに、良い笑顔でフォローするにゃーさんの会話はいつまでも聞いていられそうだ。
「じゃあ、早く戻らないと怒られからいくね」
「うん。おつかれー」
そう言って、タヌキさんはテテテッと去っていく。
あぁ。終わってしまった。
「ふう。とりあえずエミリー、初勝利おめでとう!」
邪気が0の笑顔を見て、私は決心した。
私がこのゲームで結果を出し続けることで、にゃーさんの特になるのなら、これからも殺し続けよう。
こんなにポジティブな気持ちになれたのは、いつ以来だろう。
「にゃーさん、行こうか」
「うん!」
歩きながら、アレクレア国にいた時よりも楽しんでいる自分に気づいた。
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