第2話 私は生きる。お前は……
痛い。
この、わけの分からない世界にきてから、気持ちがフワフワしていてイマイチ緊張感がなかった。でも、この激痛によって生きている実感できた。
ナイフが右腕に刺さった。すぐに抜くと危険だと聞いたことがあるのでそのまま放置する。
令嬢生活では味わうことの無かった刺激に興奮してくる。
これは、性欲に似ている。いや、それ以上の快楽を感じていた。
アレは、度々私の身体を求めた。
そこそこ胸の大きい私は、男受けする身体をしている。
出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいるこの身体を維持するのにも努力してきた。女性としての美意識も理由の1つだが、1番の理由は猿と大差ない17歳の男を手玉に取るためだ。
思惑通り、アレは頻繁に誘ってきた。しかし、自分の快楽が最優先で、テクニックなんて皆無に等しかった。アレがしていのは私の身体を使ったオナニーだ。
でも、見た目が好みの男が私の身体を夢中で貪っているのを見ることで、私の性欲もある程度満たされていたのでWin winだったと思う。カンじているふりするのは大変だったけど。
今気づいたけど、アレと芋女が恋仲だったことから逆算すると、恋愛ごっこをしていたであろう時期にも、私でオナニーしている計算にならないか?
恋愛的には興味ないけど、性の対象にはなったわけか。
「ごめん、致命傷じゃなかったね。次の一撃で楽にしてあげるからね」
薄暗い廊下に、私に似た雰囲気の女が現れたが、私の意識はアレに囚われたままだった。
「私のおっぱいを揉んだ手で芋女の手をつなぎ、私の膣を舐めた舌で芋女の作った手料理を味わう。運命の恋とか言いながら、チンコに逆らえないで好きでもない女を抱く。‥‥‥よく正気でいられるな! 王子という肩書きと見た目の良さしか取り柄の無い馬鹿が調子乗ってんじゃねーぞ! お前なんか、外交官にすら敬語が使えない異常者のくせに!! あの時、私が裏でどれだけフォローしたと思ってやがる!!! 敬語を使わない俺カッケーってか!!? はっきり言うぞ。お前は貴族という狭くて特殊な環境が産んだモンスターだ!!! 全く勉強しないでクラスタ学園に入学できた理由が分かるか?アンタの親父が裏口入学させたからだよ!! 偉そうにクラスメイトを従えてたけどなぁ、あの学校でお前より能力の低い生徒はいないぞ! みんな将来や金のために馬鹿に付き合ってくれてただけだよ! そうとも気づかずに中心人物ぶってるお前を、内心哀れに思っていただろうよ! おい! お山の大将の権力を使ってどれだけ他人を使ったオナニーしたんだよ! 教えてみろ! あのザマじゃ女子の間のお前のあだ名は<自己満オナニー野郎>だったろうな。あと、周りを見下す癖やめろ! 街に出た時のホームレスを見る目、一生忘れないからな! 人間があんなに醜い表情ができるものなんだと知って、それから1週間は寝れなかったよ! ‥‥‥でも、貴族社会の被害者でもあるのかもな。普通だったら、10歳が過ぎた辺りでお前みたいな生き方が気持ち悪いって分かる。でも、周囲がそうさせなかった。貴方様は特別なんだと囃し立てた結果の産物。私達の世界の生き恥。それがお前だ!!!!!」
突然、発狂した私に目の前の女はたじろぐ。
私と同じような髪型をして、私と同じような服装をしている女。十中八九、このゲームの参加者だろう。
「分かった。分かったよ」
隙だらけの私に攻撃を仕掛けてこないマヌケな参加者。
これ幸いと、先ほど投げてきた真っ黒のナイフを拾い上げる。全てが黒いそのナイフは、私を苦しめるものを粉々になるまで切ってくれそうな輝きを放っている。
ナイフを向ける。そこには、床にしゃがみ込み、下半身から分泌物を垂らしているナイフの元持ち主の姿があった。
ごめんね。別にあなたに恨みはないけど、私の目標の犠牲になって下さい。
しゃがみ込み、最も刺しやすく、ダメージを与えやすい部位を探す。
「この下らないゲームに勝ち残って、正ヒロインになってあのクズを地獄に落としてやる。だから‥‥‥」
ナイフを心臓に突き刺す。名前も知らない女は声も発しない。ドブドフと血が流れる音だけが響く。
私は、その血を避けずに服に被る。命を奪う人間に対しての、せめてもの敬意だ。
命が尽きる寸前の女は、不思議とホッとした表情をしていた。
さらにもう一突きする前に、私の本音を伝える。
彼女にだけではなく、アレや私を殺した黒幕、セイサクシャなどの、私をコケにした連中にまで届くように、声を張り上げた。
「私は生きる!お前は死ね!!!!!」
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