第2話 国境都市ロント(1)

 「号外~号外~!」


 分厚い紙の束を肩掛けバッグに入れた少年が、大通りを駆け回る。

無造作むぞうさにばらまかれる紙には『』という見出しの記事が書き込まれていた。


彼の胸には鳥の目をしたバッジがつけられている。

面白い情報を広めることを生業としている情報屋という者たちの証だと聞いたことがある。

そのバッジがあれば、どこの国でも入国許可が下りるようになっているらしい。


「毎度のことながら、騒がしいなぁ。情報屋は」


「まあ、いいじゃないか。届けてくれる内容はちゃんとしたものばかりだし」


談笑だんしょうしていた中年の商人たちがおもむろにその紙をひろう。

「どれどれ。おい!この記事を見てみろよ!」


「なになに、『先日、リステリア公国の勇者が魔王討伐を果たして帰還きかんした』だって?」


「やっぱりそうか!魔王領の空の色が赤黒あかぐろくなくなったのも、魔王が消えたからなのか!」


そういえば、くずれた魔王城から脱出した時、空が青かった気がする。


さらに見てみると、その紙には勇者たちが無事帰還きかんしたとしるしてある。

どうやら、みんな無事のようで安心した。


「あんちゃん!なかなかに嬉しそうな顔するじゃないか!どうだい?スカーレッドボアの串焼き食べるかい?」

ふと、店の店主が身を乗り出しながら話しかけてきた。


「そうだね。せっかくだし2本もらおうかな?」


スカーレッドボアの肉はうまく、魔物の中では最上位に位置するほど。

よく、この街から魔族領までの森の中で採取することができる。

普通のボアよりもブロックがでかく、1串でも多いくらいの量である。



 ここは、人間領と魔族領の国境に位置する都市『ロント』。魔族領に近いがゆえ、高レベルの冒険者が多い。

ロント以外にも魔族領へ行くルートはあるが、ここ以外はおおよそ人間が通れるような場所は少ない。

どうやら、昔の人間が魔族や魔物たちの侵入を防ぐためにわざと地形を壊したそうだ。


その中でもここは、物流ぶつりゅうや冒険者の人数、魔族領までの道のりを含め、一番通りやすい。だからこそ通称は「冒険者ぼうけんしゃ宿やど」とも言われたりする。

実際、他のルートにも通称はあるが、どれも冒険者への警告けいこくのような名前だったりする。

それに比べれば全然安全と言える。

魔王城崩落ほうらく後、魔族領を抜けてここにたどり着いたというわけだ。


「あんちゃんも冒険者なのかい?魔王も討伐されたこんな時期に何しにこの街へ?」

代金を店主に渡すと、そう聞いてきた。


「実は、ここに来る途中でギルドカードを失くして・・・」

ギルドカードは冒険者の身分証のようなものだ。

世界中を旅する冒険者にとって大切なものである。


「そりゃ災難さいなんだったな~!ボア系の魔物にでも食べられたか?」

笑いながらしゃべる店主。まあ、こんな命の次に大事なモノ取られる冒険者は笑われたって仕方がない。


「いやー、火で焼かれて・・・」


「火?ほかの冒険者に間違えて焼かれたか?それかブレスでもはいてくる魔物か?」


「いや、ドラゴンに・・・荷物を積んでいた馬車ごと」

そう正直に話す。すると店主は少しおどろいた様子で言葉が止まる。


「ドラゴンと対峙たいじしたのか。それは・・・ホントに災難さいなんだったな。あれか?魔族領の方に出たっていう赤のやつか?」


「たぶんそれ。ボアの群れごとこんがり焼けて、狩っていたボアも取られてね」

今朝の朝食を狩りしていたところ後ろから現れたやつに獲物えものを全部奪われた。

ドラゴン許すまじ・・・


「でもそいつは確か・・・?」

何かを考え込む。


「ま、まあそんな感じで今はギルドカードを作るためにギルドに行く途中!」

考え込まれてもナニモデナイヨ。


「お、おうそうか!ギルドならこの通りをあと300メトル行った先の中央広場を左にいったところにあるぞ!」

気前きまえよく教えてくれるとはありがたい。


「そっか、ありがとさん。また顔を出すよ!」


「ああ、じゃあ!」

この街、ロントがぞくする国での共通あいさつ。

同じ言葉を返すのが通例つうれいであるため復唱する。


歩き出そうとしたとき、フードの中からが一つ。


「大丈夫だ。ちゃんとお前の分も買ったって」

そう言ってフードの中に串を突っ込むと、食料を待たせ過ぎたせいか、強引にその串を奥に引き込む。


「まあ、コイツの従魔登録もあるし、少し急ぎますか!」



ロント中央広場のところまで来ると、すぐにギルドへの案内板を見つけた。

噴水ふんすいの前にあるそれにはさっきの店主が言っていた通り、左の通りに目印がついていた。

広場も多くの人で賑わっている。

どうやら、さっきの情報屋がばらまいた紙について話している人が多い。

後は、歌を歌う人や宗教に関する演説えんぜつをする人など。

色々な人がいる。


だが、ここに僕を覚えている人はいない。その代わりにこの人たちの平和を守れたことを実感できる。

悲しくはない。笑顔を見れるなら。


「うん、活気があってやっぱりいい街だ」

と、そろそろ太陽が頭の上に来そうなので少し足早あしばやにギルドへ向かう。



扉を開ける前から冒険者でごった返しているギルド。

ここは魔王領に近いからこそ多種多様の冒険者がいる。

その分仕事も多いし、人の数と同じくらい様々な仕事がある。


扉を開けると、左手にある仕事用のチラシが満杯に貼られている。

掲示板けいじばんに入りきらないため、少しはみ出して貼られていたりする。

右手には休憩スペースがある。今日は近接職のやつらが多い。


正面にあるのが受付。少し人が並んでいるためその列に加わる。

ここの冒険者はランクの高いやつらが多い。

よくある追い越し追い越された系の喧嘩は面倒だってこともわかっているようで、きちんと並んでいた。

右手からの品定しなさだめのような目がすごいけど・・・


「こんにちは!仕事の依頼ですか?それとも買取ですか?」

予想よりも早く受付に来られた。


「いや、再ランク認定を受けたいんだけど・・・」


「ランク認定ですか。ちょっとお待ちください!」

受付嬢が何やら後ろの人と話している。

どうやら、受付の場所が別だったみたい。


「あちらの受付へどうぞ」

案内されたところに行くと、軽い説明と必要書類に記入を行った。


「ふむふむ、出身はカラメルなんですね!ってことは魔法職の方ですか?」

確認のためと書類を見ながら受付の人が聞いてきた。


「はい。一応魔法職ですよ」

淡々たんたんと返すと少し困った顔をした受付嬢。


「何か問題でも?」


「それが、今日の講習担当の冒険者は近接職の方でして・・・」

ああ、そういうことか。

どうやら相性を気にしているようだ。


まあ別にちゃんと認定受けに来たわけでもないし。

「ギルドカードもらえたら大丈夫なんで」


「そうですか!今ちょうど登録の試験をやってるんで、そこに案内しますね」

そうして案内された場所にはルーキーが10人とそうでない冒険者が1人いた。


ちょうど休憩中のようだ。


「アトスさ~ん!もう一人いるので、この方もお願いします!」

アトスと呼ばれた冒険者の元へ行く受付嬢。

そのままついていく。


「レーヌ!そいつも新米か?」


「いえ。この人は再認定です!魔法職なんですけど、とりあえずギルドカードの再発行したいってことでした」


「なるほど?それなら最後になるがよろしく頼むな!」

言いながら左手を出す。


「よろしく」

こちらも手を出し握手あくしゅをする。

ザ・近接職といったふるまい。体の大きさ的に格闘家か強戦士きょうせんしだと一目でわかる。


「さあ、休憩もできたし!後の4人。新米だからって手加減はしないからな?かかってこい」

背中から取り出した大斧。盾にも使えそうな大きさである。


そんなことを思いながら目線を横にすると、こちらをずっと見ている冒険者が一人。

もう一人の再認定かな?

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賢者ルトの静かな凱旋 白黒~ @karamonokuro

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