第2話 ここはウクライナくらい遠い場所

「君も混ざりにきたんだろ?」

ぐい、と強い力で部屋の中に引き込まれ一瞬の事で抵抗もできなかった。

「うわっ…えっ!」

「なあアン、ジゼル、この子も混ざりたいんだって」

「えぇーそもそも今日はアンだけの約束だったのに」

「何よ。あんたなんかがリオ様を独り占めできるわけないでしょ」

「うるさい貧乳」

「はぁー?」

小芹合う半裸の美女達をニコニコと笑いながらリオと呼ばれる男は眺めている。

私の脳みそはここから逃げる事、それからレッグホルダーの銃が見つかればきっと捕らえられてしまうだろう…それだけは避けたいという思考でいっぱいだった。

「あの…私、部屋を間違えたようで」

「あらそう?」

「はい、私はこのへんで失礼したいと思います」

「まあ待ってよ…君新入り?」

「え?」

「なんか見た事ない顔だなぁと思ってさ、念の為に確認していいかい?」

冷や汗が伝う。合言葉…メイドに合言葉なんてあるのか。でもこの世界観、あってもおかしくない。それに“様”と呼ばれるくらいなのできっとこの男は地位が高いのだろう。

「“フランネル家に忠誠を誓うメイドの合言葉は?”」

フランネル家…そうか、このお屋敷はフランネル家のものなのか。やばい、情報が少なすぎる。ここはハッタリで行くしかない…

「フランネル家永遠に繁栄せよ…」

少しの沈黙が続いた後、リオは大きく吹き出して笑い出した。

「あはっあははははっは」

私はこの男の予想外の反応に、完全に出方を見失ってしまっていた。

「あんま面白い事しないでよ笑い死ぬかと思った」

「す…すみません新人なもので」

「合言葉なんてねェよ」

グッと首の後ろに激痛を感じ視界がブレる。あ…これ、多分気絶するやつだ。呼吸が浅くなっていく…


 本日二度目の気絶。本当にお疲れさまでした。こんな事ある?豊田市育ちのただのOLよ…無理でしょメイドって…てか“合言葉”無いんかい。なんて鬼畜な嘘…


 目が覚めると冷たい床だった。体を動かそうとするとカシャン、と枷の音がする。

両足首に2つ、鎖が繋がれていた。

「やあお目覚めかな?お嬢さん」

「…あなた、」

「僕を知ってるの?」

「3P好きの変態男…」

「ぶっ、あは、あははは、君は本当に…僕を笑顔にするね。僕を知らない、メイドでもない――いったい君は何者だ?」

こんなに自己紹介が難しい場面、そうそうないいんじゃないか。私の名前は吉田ゆみこ。愛知県豊田市出身。ああ、うそう、車が有名な。そこです。職場は名古屋です。もう名古屋に住んで長いので名古屋の人と言っても過言ではございません…仕事は…

そんな事を話すといい加減頭がおかしいやつと思われてしまいそうだ。そんな事をぐるぐる考えて、結局私から出た言葉は

「質問を質問で返して恐縮ですが、ここはどこですか?」

だった。


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