2.先輩と後輩は毒を吐く

厄介な友達《上》

「──っていうことがあったんだけどさ」

 

 図書室。


 俺は目の前にいる──悪友に先日起きたことについて話していた。

 先日というのは言わずもがな。

 幼馴染、蘭すずなについての話だった。

 

「いいじゃねーか! 付き合ったらいいんじゃねーの?」


「おいお前、ふざけるのも大概にしろ……」


「あっはははっ! わりーわりー、おもろすぎる展開でよ。こんなの笑うだろ!」


 ケラケラと俺の目の前で腹を抱えながら下品に笑っているコイツは俺の"元"クラスメイト。現在は2年6組の生徒でもある。


 ──星崎蓮。


 センター分けで流行りの髪型をしている──量産型野郎だ。


 あまり調子を乗らさないためにあえて、口言はしないがコミュニケーション能力は高い。勉強に関しては如何せん芳しくないのが玉に瑕──って、俺が言えたことではないのだが、これから勉強に手を抜く気は毛頭ないのでそこは安心して欲しい。


 腐っても''関西有数の進学校''と世間で豪語される入学試験を通っているのだから地頭の良さはそれなりにあるはずなのだ。

 それでいて、なんで俺だけこんな目にあって蓮は進級できたのか甚だ疑問に思っている節はあるが贈賄とかそういった社会的問題になりそうなことをやってないといいんだが……。


「おい、聞こえてんだよ! ちゃんと勉強して進級してるわ! まじでギリギリだったけどさ……!」


 少しばかり声が漏れていたらしい。

 蓮は心外そうに口を衝いて出た。


「まじで意外すぎたわ」

 

「礼斗こそ何してんだよ、ホントによ……」


「やめろ。結構マジな話で気にしてるんだよ」


「だろーな……」


 傷口を抉るようなことはやめてくれ!

 確かに留年率は高いと聞いていたのだが、想像以上に今年の代は優秀だったようで。俺以外は全員……今更やめよう、終わった話なんだ。


「でも良いじゃねーか。だって幼馴染と再会出来たんだしなんなら一緒のクラスって運命じゃねーか!! はー、羨ましいな!」


 蓮は如実に落ち込んでいる俺を見兼ねてなのか労いの言葉をかけてくる。

 時にその優しさがナイフのように鋭くなって傷に変わる……同じ言葉でも場合によって変幻自在に姿形を変えるのは人間の進化でもあり、同時に負の面も併せ持つ極めて難解なものだ。


「どうだかなぁ……すっげー我儘だけど」


「ははー、隠しきれてねーぞ? 実は嬉しいんだろ」


「んー、五分五分ってとこ」


 けれど、出会い方はどうであれ会えて嬉しいのには限りなかった。感情の起伏がない、とか散々言われていた自分だけれど、ここで嬉しくないと思えるような薄い間柄でもないし、さすがにそこまで人間が出来ていないわけじゃない。彼女といた十数年という歳月が俺をそうさせたんだと思う。


「なんかお前さっきからすずなさんに対して、よそよそしさ感じるけど幼馴染ってそんな淡白なもん?」


 蓮は話を続ける。


「幼馴染なんだし、てっきりお互いめちゃくちゃデレデレしてて毎日LINEしてるような感じかと思ってたわ!」


「夢見すぎだっつーの、それは……案外、恋愛感情とか持たないもんなんだよ。だから、そんなことも起きないわけで男友達みたいな感じだからな」


「へぇー、やっぱり。んなもんか」


 頬杖をつき、退屈そうに手元のスマートフォンを片手でいじくる。

 そして、なにかを思い出したかのように「あっ」と声を上げた。


「そういえば、お前は知らないかもしれないが、すずなさんってなんか巷では可愛い可愛いって言われてるらしいぞ」


 可愛い? 蘭が……?

 不思議に思い、眉間に皺を寄せる。


「人違いじゃないか?」


「いやいや、マジだから」


「ガチで……?」


「あの子だろ? ロングヘアの。なんか2年の教室でみんな騒いでたぜ……話題持ち切りって感じで。幼馴染なんだし、お前から見ても可愛いって思うだろ」


 意外なことを耳にした。あいつが?

 人は外見で第一印象が決まるとはよく言ったもので可愛いらしく早々に固定のファンがつき始めているようだった。


 俺はかぶりを振る。


「逆だよ。幼馴染だからこそそういう感情は出ないし思わない……てか、さっきから枕詞の『幼馴染だし』ってなんだよ! 神格化しすぎだろ!」


「と、いうと?」


 蓮は興味ありげに椅子と体を若干机の方に寄せて聞き耳を立てた。


「だって、幼少期の頃からもう何年も一緒にいたんだし今更可愛いとかそんな感情抱いたことないな……小学校も中学校でも。さっきも言ったと思うが男友達のような感じだからさ」


「ほうほう……で?」


「アイツと言えば、前だって急に家泊めてくださいとか言い出したり我儘な奴で──」



 昔もそうだった。

 確か、小学2年生くらいの時。


 蘭から突然『2人で映画に行こう!』と誘われた。もちろん、断る理由もなかった。


 今思えば、男女2人で映画。

 小学校の低学年のくせに背伸びしすぎだ。そのくらいの歳なんて外で鬼ごっこやかくれんぼ、それくらいが丁度良いし似つかわしい。


 だが、結論を言うと行かなかった。

 それも、日時が固定だったことがなによりも厄介でその日は運悪くも習い事と被ってしまっていたのだ。


『ごめん、その日行けない』


 渡されたチケットの日付を見てそう言った。

 蘭はごねまくった結果、その後結構拗ねてたっけ? ……小学生らしくはあるけど。

 めちゃくちゃ泣いて、なぜか俺が親から叱咤されまくったのは正直不服なのだが。



 途切れ途切れの曖昧な情景がふと回顧する。

 ああ、もう何してるんだ、俺は。

 話しすぎるのはよくないな……目の前にいる三度の飯より恋愛話が好きなコイツの口角が上がってきている。


「……とにかくわかっただろもう! じゃーな」


「ど、どこいくんだよ!」


「帰る」


 決まりが悪くなった俺はその場から逃げた。


「おい、ただのキメェ惚気話かよ!」


 後ろから声がしたがもちろん、無視無視。

 惚気けてもねーよ……アホ!!





 ※※※


 面白いと感じていただけたら、小説のフォロー、星★などで応援お願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る