第6話 飲み会


お昼のおやつをちょっと過ぎたあたりに起きる。天候は晴れ、目覚めはまずます、体調も普通、夢は特に見なかった。




「…ま、悪魔がガス抜きできたならそれでいっか」




時計を見る。


まだ2時間くらいは余裕がある。



その後は何も食べずに、ただひたすら読書で時間を潰す。




絶食する理由は、

「多分、顧問の先生の奢りだから」

酒は飲めない代わりに、焼き鳥あたりを食いまくる…全然食えないのでは顧問の先生が心配すると思うから。




そして17時30分となり、準備をし始める。


リュックの中にはモバイルバッテリーに充電用のコード、あとは…腕時計。約一年ぶりに持って行く。とりあえずリュックの中に入れておく。


今日はこれから寒くなるから、ジャンパーに手袋を入れておこう。


Mとの待ち合わせ場所は、電車で来るので駅前のコンビニ。ちゃんとLINEしておく。




よし、”これだけ”でいい。準備は整った。






18時ちょうど


駅近くのコンビニにて友達であるMと合流する。


Mは顧問のためにお土産を持参してきていた。流石、6年と半年間も同じ恋人と付き合っているリア充は気遣いが違う。




Mは今春から建設業界に就職する。理由は『建設業界に進む事が夢だったから』らしい。ネットで調べたら色々出てきて不安だったが、それでも選んだのだから尊重したい。まあ大学での苦労は知ってるから、多分大丈夫だと思う。たぶんね。




雑談をしながら、18時30分に同じく電車で来た顧問の先生と合流して居酒屋に入る。数年ぶりだったが、ほとんど変わっていなかった。がっちり握手を交わした。




僕はお酒が飲めないので、シラフの人間である。とりあえず時間管理だけはしておこうと思い、1年ぶり位に腕時計をつけて勝手にタイムキーパーを務める事に。でもそれはちょっとした心がけ程度で、大半は早く飯が食べたかった。




そうして僕たちは飯を食べながら、色々な…飲みの場でしか出来ないような話で盛り上がった。その間、腕時計で時間を確認しながら。




そしてほぼ予定通りに、19時20分からHさん。19時30分からOさんとビデオ通話をした。




Hは現在研究員として活躍しており、将来ノーベル賞を取るかもしれない本物の天才だ(そうOも言っていたし)。「飲み会を開くけど、ビデオ通話できそう?」と、実に数年ぶりにLINEをしたら翌日の夜に返信が来たのには驚いた。そして何より僕を削除してなくて嬉しかった。当時の面影も残っていたし。研究所らしきところから通話に応じてくれた。




Oは、ビデオ通話した瞬間に驚いた。まさか私生活でも眉目秀麗とは…流石プロの役者だなと感じた。あまりの変わりように、僕以外のMや顧問・ビデオ通話越しにHも驚いていた。成長したんだな…としみじみ感じた。




想定より少しだけ電波が悪かったが、特にこれといった問題も無かった。


飲み会はビデオ通話で参加したHもOも含め、皆笑顔だった。




ビデオ通話は19時50分頃には終わり、また3人で飲み食いながら話し始めた。




僕はここ数ヶ月間、多種多様な本を読んでいる。そのおかげか色々な物事に興味関心を抱くようになった。だからMや顧問の先生の話は全て面白かった。顧問に対する感謝の気持ちの裏で僕自身が抱いていたわだかまりも解消された。とにかく、楽しかった。楽しすぎて僕だけ一度も離席しなかった。 




先生は興味深い話もしてくださった。あまりにも興味深い話だったので「覚えておきたい」と思い、先生の隣で時々こっそりとスマホでメモしていたのは多分バレてない…対面に座っていたMにはバレてたけど。




そうして、話と飯は進み、もうそろそろ終電の頃合いに。


僕は近場に住んでいるので大丈夫(飲み会が僕の近所で行われた理由は、僕が今無職だからという気遣いからだと思う)だが、2人は電車で来ている。




終電に間に合わせるには23時5分までに出る必要があるから、22時時55分までが一端の区切り。


そうして、飲み会の金額合わせて”12,900円”は(当初の目論見通り)全額先生の奢りとなった。




その後僕の提案で、三人で写真を撮ることにした。手に持って撮ったので少しブレてしまったのだが、それもまた味があっていいと思った。




先生と別れてから、まだ時間があるMと少しだけ話した。


その際Mが、


「君が顧問の先生と麻雀やギャンブルの話で盛り上がるとは思わなかったよ」と言った。




例の競輪選手が配信でやっていたのがきっかけで、一時期ネット麻雀にハマっていたのだが…その話で盛り上がるなんて思ってもみなかった。当初はルールを覚えるのに苦戦したけど、こんなところで生かされるとは!




それから少しして、Mと別れた。『いつでも連絡して良いよ』とは言われたものの、君って全然LINE見ないじゃん!…でも、それで良いと思う。僕は君とのLINEは”自由帳”だと思っているから(苦笑)


ま、遠方の地でも頑張ってくれ。あと、そろそろ未来の事を考えて良いと思う。マジで。





帰宅したのは日付が変わる少し前。


僕にとってあまりに興味深い話だったので忘れないようにと、飲み会の内容を1時間20分かけて、文字に起こした。


メモや記憶を頼りにし、まさに一心不乱で。…結果、総文字数は4000字を超えてしまった。ま、それだけ面白かったという事で。




折角なので、飲み会に来られなかったHとOにこの文章を送りつけた。勿論一気にではなく、10数回に分けてスクショしたやつを。…出来れば世辞ではなく本心から感謝されていると願いたい。




その後、ようやく着替えや色々な事を済ませる。それが終わり次第、ボーッとする。気がつけば時刻は深夜3時ちょうどだった。




良かった、腕時計とモバイルバッテリー以外の”余計な物”を持ってこなくて。


一瞬だけそう思った後、僕は部屋に置かれている白が基調の物体を眺めた。




「…今日はエアロバイクは無理だな」


エアロバイクは、言わば、室内で出来る自転車である。


去年のクリスマス頃に購入し、継続してこぎ続けた。その結果、合計距離は一昨日で600㎞に到達した。…一応言っておくが、僕は自転車競技の経験は皆無だ。




運動不足解消に役立っているし、体重も薬を飲む前と同じくらいに落ちてきた。本で知識を身につけ、エアロバイクで体力をつける。『こだわり』は、”融通が利かなくなる”という短所の代わりに、上手く利用すると”継続性”という大きな長所になり得るのだ。




でも、今はいいや。少し食べ過ぎたようだしもう深夜だ。今の時間に激しい運動をするのは良くない。少し間をあけて後日またやり始めよう。




いつものルーティンをこなし、寝床につく




飲み会は本当に楽しかった、でも寝て起きたらいつもの日常である。




ふう…まあ、今の僕は孤独ではない。それは間違ってはない。




ふと、飲み会に参加したメンバーを振り返る。




Mは、人手不足著しい建設業界期待の星として。


Hは、この国の未来を担う研究員として。


Oは、人々を魅了するプロの役者として。


顧問の先生は、今どき少なくなった気骨のある教育者として。





皆凄いな、地道に努力して頑張ってるんだな…


でも、僕は何になるんだろう?


このまま置いて行かれるのだろうか?




僕の人生を振り返ると、イジメられたとは言え、家族や友人には恵まれていると思う。




うーん…本を読んで少しずつ知識を付けるしかないか。




小説家……いや、『そっ帝』みたいになりそうだからダメだな。文章能力なんてないし、滑り止めで受かった大学ですら、国語能力は補習を受けさせられる程には落第だったし…


でも、物書きに興味がない訳ではないかな。それに読書のおかげでちょっとは知識がついたはずだから。…前向きに考えて良いかもしれないな、業界調べの一環としてね。



「…とにかく、僕も今できる事を頑張らないと」


そう呟いて消灯し、ゆっくりと目を閉じた。


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