第11話
そしてパレードの当日。
そこには馬車の中でガッチガチになり石化魔法をかけられたのようなエリスがいた。石化魔法覚えてるの?教えてよと緊張を揉みほぐそうとしたが返答はあ、う……のみ。
これはダメなんじゃないかなぁとマクイラさんを見ると悟りを開いたような表情で空を見ていた。大司教でも現実逃避するんだな、こんなことで。
「エリス?エリス?パレードできるか?手を振れるか?」
「…………」
だめだなこれは、流石に中止には出来ないですよね?ああダメそう……魔王がこの街に攻めてきたら多分こんな表情するんだろうなって顔で他の司祭たちが見てる。うーん……仕方ないね、行くか……。
エリスの隣に乗り込み出発を合図すると司祭たちはひざまずきながら拝み始めた。
「救世主様!ありがとうございます!」
「勇者様をどうか!」
それだと俺は勇者より偉くなってるな、まぁエリスは他の人間と会話することも出来ない時あるから……と思っていると空を眺めていたマクイラさんがそっとよってきて。
「この御恩は必ず……なんとかパレードを無事に終わらせてください……」
と真剣な表情で言うものだからええわかりましたと返すことしか出来なかった。
たしかにエリスは緊張してるけどそこまでかね?たまにあるけど。外部から見るともう意思疎通の出来ない化け物みたいなもんなんだろうか?具体的にはよくわからないが勇者の力もあるしな。
大聖堂を場所で出発すると沿道には人、人、人。左も右も建物の上も窓も人まみれ。よくもこんなに人がいたものだと思ったが街1周するだけだしな。通らない場所に住む人間は沿道か建物の屋上に出るしかないか。それにしても爽快だな、まるで自分が偉くなったみたいだ。なぁエリ……気絶してね?
軽く揺すってみてもダメっぽい……。声をかけてもダメ出しこれはいけないですね……。この大きな歓声にやられたのかな?それとも人間の数で?せめて前者ならいいんだけど……。他人に手を振らせる魔法とかない?ニッチすぎるし家庭でも使わなそうだしないか、便利でもないしな。
俺はエリスの背中の方から手を回し、右腕あたりを掴むとなんとか形になるように手を振らせた。不格好だけど本人が起きてても多分同じようなもんだろう。そこは諦めてくれ、ください。
そうしてあやつり人形と化した白目をむいた勇者の右腕を動かし続けて約1時間。ようやく大聖堂に戻ってきた俺達を迎えたのは歓喜の声だった。
え、未だあるのと身構えたものの司祭たちの声であることに気がついた俺はなんとか平静を保てた。エリスが見栄はらなくても良さそうだしな。
「ありがとうございます!クロ様!勇者様!ちゃんと手まで振っていただけるとは……」
「そのことなんですが……」
俺の空気を察したマクイラさんがえ、また何かあったんですかみたいな顔をし始めた。あったんだよ、あと俺が厄介事持ってきてるみたいな感じになるからやめてよ。
「パレード始まってすぐにエリスが気絶しました、アレは私がエリスの手を使って振らせてただけです。まだ気絶してます」
「あ、ああー……そうですか……でも気づきませんでしたし、結果良ければと言うやつですね。オープン馬車じゃなくてよかったです。ここでのパレードは終わりましたのでクロ様には感謝いたします」
「とりあえずエリスを運びますね……」
最大の懸念が終わったから安堵がすごいな。地味に勇者様クロ様からクロ様勇者様になってるし……ひょっとしてエリスって勇者以前に人と関わることが出来ないレベルの社会不適合者だったりする?
流石にそこまでではないか、ただの陰キャだし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます