第5話
本を読む限りでは転移魔法は素晴らしい魔法だった。簡単言ってしまえば行きたい場所にほぼ無条件で行けるということだ。だが、王城などの重要施設には転移魔法を封じる魔法がかかってるらしい。そのため行きたい重要施設の場所には自動的にその入口などに転移させる仕組みがあるらしい。
まぁ今は関係ないだろう、いちばん重要なのは行ったことがない場所に行くことができるのだ。
つまり俺がいきなり王都に行くことも可能であり、魔王城周辺にいきなり飛ぶこともできるわけだ、まぁ魔王軍側も対策してるだろうが。
これは正直すごいことだと思う、俺は前世のその手の作品の知識を元にしていたため一度行ったことがある場所でないと使用できない認識だったのだから。問題はその考えが転移魔法を阻害しているかも知れないことだ。
そう、うまく発動できないのだ。別に呪文を唱える必要もない、直接教えられるか魔法が書いてある本を読めば使えるようになるのがこの世界なのだが……その後は心で念じるだけで発動するはずなのだ……なのだが、なにせ暮らしていた故郷の村にすらいけないのである。そして2時間くらいたったけどエリスはまだ帰ってこないし……あの教え方の感じでは正直望み薄なんだけど……。一旦他の魔法の本読んで覚えて待ってるんだけど。
「失礼します、勇者様、クロ様」
「これは大司教様」
「マクイラで結構ですよ、クロ様……勇者様はどちらに?」
「……転移魔法を教えると行って一人で何処かに転移しました」
マクイラさん、なんともいえない複雑な顔してるな。どうしてそうなるんだみたいな表情だ。多分俺も同じ表情をしてるぞ。
「……私のこともクロでお願いできますか?」
「いいえ、立場上そういうわけには行きません、クロ様と呼ばせていただけると助かります」
「ではマクイラさんと呼ばせていただいてよろしいですか?マクイラ様のほうがよろしいでしょうか?」
「クロ様の立場では国王陛下以外は様をつけないほうがよろしいかと……」
「勉強になります、ありがとうございました」
気まずさのあまりにお見合いの初っ端の会話のような流れになったな……まぁこんな話聞かされたら困るだろう、俺もどうしたらいいかわからない。
「えーと……私が転移魔法を教えましょうか……?」
「本当ですか!?」
「ええ、本は読みましたか?それならすぐかと」
やった!転移魔法を教えてくれる!教会は説法とか孤児院を経営してるし流石に教え方が上手いだろう。
「まず、魔法を使う時を意識してください。ファイアでもなんでもいいです。それを転移魔法に置き換えるだけです。」
「なるほど……」
「そして何処に行きたいか、これですね。例えばあの本棚が3階だから面倒だから転移しようと思うわけです。どうしても使いたい、理由はあると考えてみてはどうでしょう」
「ちょっとやってみます」
そうか、目的ね。なんとなく試したいからここでいいって心持ちで発動させると難しいわけかな?めんどくさいから使うってのはある意味真理だな。
よし、5階にあるらしい地図を取りに行きたい、面倒くさいから!歩くのが面倒くさいから!絶対に使うぞ!転移魔法!
その時自分がすっと消える感覚がし、場所すらわからなかった5階の地図の棚の前にいた。成功だ!早速地図を持って戻ろう!俺は元の場所に戻りたい!階段を降りるのが面倒くさい!
「おかえりなさいませ、成功しましたね」
「ありがとうございます!何度やってもダメだったんで……本当にありがとうございます」
「一度できればもっと気楽に使えるようになりますよ、なんとなく正面の椅子に座りたいと転移魔法を使ってみてください」
「はい!」
正面の椅子に座……ってる……。
「もう完璧ですね、他になにか聞いておく魔法はありますか?」
「転移魔法以外はだいたいなんとかなりましたが」
「……なるほど。この隕石魔法は私は使えないのでむしろ私が教わりたいくらいでして……」
「ああこれですか、空からはるか彼方から石が飛んでくる想像をしてみてください」
「ええと……なぜ飛んでくるのでしょうか?」
隕石ってそういうもんじゃないのか?そういやなんで飛んでくるんだ?でも飛んでは来るよな……。
「ええと……まずこうやって……隕石魔法でそこの庭に落として、ここで地面を地形魔法で深い泥に変えて戻して衝撃を逃がす」
「……」
「見てほしいのですが、この隕石なんですけど空の彼方からたまたま飛んでくるものなのです、いわゆる流れ星です」
「そうなのですか……?」
あれ?そんな知識はない感じか?でも書いてあるくらいだしそこまで深く考えずに使えるような気もするんだけど……隕石って流れ星だよな?違う……?
まぁ使えるから大丈夫だろ!
「とりあえずやってみてください」
「こうですかね?」
ちょっとだけ小さい隕石が庭に落ちてきたのでまた地形魔法で深い泥に変えて衝撃を逃がす、この地形魔法も便利だな。
「なるほど!魔法以外の知識が必要な魔法だったのですね!」
「私が転移魔法が出来なかったのは目的の不足もあったので魔法自体は意外と万能かもしれませんね、もしかしたら応用で新しい魔法が作れるかもしれません」
「ほぅ!クロ様は魔法の才があるようですな、魔法使いなんてありきたりな名前のジョブはありませんし才覚があるのでは?」
「ないのですか?てっきり……」
「大賢者とかはありますが……別に賢者が魔法を使うのが上手いわけでもないですしね」
たしかに……イメージはそんな感じするけどあくまで賢者だもんな。頭が良い人が魔法使えるってわけでもないか。あれジョブなしでも無能ってわけではない?多少明るい未来が見えてきたかも!
「もう少し魔法に関して詰めましょう、書庫にある魔法の本を持ってきます、大司教用の書庫も引っ張り出します、ちょっと失礼しますね」
いやー楽しくなってきた!今のうちに色々覚えておかないと
「クロ君……」
氷の剣で刺すような声にゾクッとした。聞いたこともない声色だ、俺は今日ここで死ぬ。たしかにそう思った。
「なんで大司教様から教わってるの……?」
憤怒の炎に燃えた瞳をこちらに向けたエリスは勇者としての最初の仕事は貴様を殺すことだと言わんばかりに詰め寄ってきた。
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