第51話 世界の終わり⑧ ~主神ルオス最後の戦い(前)~

「それではリフィ行きましょう!!」

「そうね。まさかルオスもここで一騎打ちを申し出るほど恥知らずじゃないでしょうしね」

「それはそうでしょう!いくらなんでもそんな恥ずかしいことは言えないですよ」

「まぁね。ここまで有利な状況で一対一を申し出てないもの。自分の方が不利だからって主神ともあろう方が一騎打ちとか言い出すはずないわよね」


 ヴェルティアとリフィは戦う前にルオスに釘を刺す。もちろん、ヴェルティアもリフィも誰一人として一騎打ちに応じるつもりはない。だが、敢えて言うことでルオスの精神に楔を打ち込もうとしたのである。


「さ、ディアーネ、ユリ、クレナは我々の補助を頼みますね」

「そうそう。私とヴェルティアがメインでやるから三人は支援の方を頼むわ」


 二人の申し出にディアーネ達三人は頷いた。ディアーネ達三人してみれば当然すぎる行動である。


(ほ、よかった。さすがにルオス・・・と戦えるのはヴェルティア様とリフィくらいよね)


 クレナは心の中でそう呟く。クレナもこの世界の人間であり、神に対して一定の敬意を持ってはいたのだが、宝珠アイガスのコソドロから始まり、圧倒的な力で蹂躙される様やその時の反応を見れば自分達人間と何ら変わりが無い存在であることから敬意など既になくなっている。


 ヴェルティアがまず動く。ルオスの間合いに入ったヴェルティアはそのままの勢いで右拳を放つ。


 ドガァァァァ!!


 ヴェルティの気合いの入った一撃をルオスは左腕で防御する。よろめきはしなかったがヴェルティアの一撃の威力を殺しきることは出来なかったのだろう1メートル程の距離を飛んで着地した。


「おお、やりますね!!さすがは神々の頂点!!」


 ヴェルティアは素直な賛辞をおくるがそれはルオスにとって屈辱である事は間違いない。ヴェルティアの言葉は"格上の者が下の者へと向ける"ものに他ならないからだ。


「舐めるな小娘!!」


 ルオスは激高し胴斬りを放つ。放たれた斬撃をヴェルティアは後ろに跳んで躱す。


 ルオスの斬撃の間隙を衝くようにリフィがルオスの左側面から襲いかかった。ルオスはそのリフィの動きを読んでおり、そのまま一回転して、斬撃を放ちリフィの首を狙う。


 リフィは放たれた斬撃をしゃがんで躱しつつ、そのまま逆立ち蹴りを放った。


 ゴゴォ!!


 放たれた逆立ち蹴りをルオスは左腕に受け止めた。


「ぐ……」


 ルオスの口から苦痛を告げる声が発せられた。その声を聞いたリフィはニヤリと嗤う。


 リフィは好機とばかりに蹴った足を床に着きそこを起点に起き上がるとそのままの勢いで上段蹴りを放った。


(バカが!! その足斬り飛ばしてくれる!!)


 ルオスは心の中でほくそ笑むとリフィの足を斬り飛ばそうと斬撃を放とうとした。しかし、その瞬間にルオスの左頬に凄まじい衝撃が発した。

 もちろんその衝撃を与えたのはヴェルティアである。ルオスの意識がリフィに向かった瞬間に間合いに入り左拳をルオスに叩き込んだのだ。ヴェルティアの左拳をまともに受けたルオスは吹き飛ぶとそのまま壁をぶち抜いて隣の部屋へと消えた。


「す、すごい。いくら二対一とはいってもあそこまで圧倒するなんて」


 クレナの賛辞にヴェルティアとリフィは嬉しそうであった。


「よーし、それではいきますよ!!」


 ヴェルティアがリフィと共にぶち抜いた穴から隣の部屋へ向かおうとした時に、ディアーネとユリが声をかける。


「お待ちください!!罠を張っている可能性があります」

「お嬢、リフィ、行くのは安全を確かめてからだよ」


 二人の言葉にヴェルティアとリフィは大きく頷いた。


「なるほど、油断大敵というやつですね。感謝しますよディアーネ、ユリ」

「それもそうよね。よし、じゃあこちらの人形を」

「待ってください。ここはクレナの従士クファータを使いましょう。いいですかクレナ?」


 ヴェルティアの言葉にクレナは頷いた。


「承知しました!!の作戦でいきたいと思いますがよろしいですか?」


 クレナの提案にヴェルティアとリフィはサムズアップで返した。


 許しが出た事でクレナは従士クファータを作り出すと壁の穴に次々と送り込んでいく。

 送り込まれた従士クファータ達はルオスにより次々と斬り伏せられていった。


(こんな弱い分身体を送り込んで何のつもりだ?)


 ルオスは次々と送り込まれてくる従士クファータ達を作業のようにしてどんどん斬り伏せていく。しかし、クレナの手により送り込まれる従士クファータ

は構わず突っ込んでくる。


 ルオスが従士クファータを斬り伏せるのがやや作業へとなり始めている。


 そして、クレナの計画がスタートする。クレナはルオスが従士クファータを処理するのを作業のような気持ちになるのを待っていたのだ。

 

 ピカッ!!


 従士クファータの一体が斬り伏せられた瞬間にまばゆい光が隣の部屋に満ちた。


 一瞬にも満たない時間であるが、ルオスは目を細めた。そして従士クファータが再び送り込まれてきた。


(だから一体何のつもりだ?あの程度の光量で私の視力が奪われるわけはなかろう)


 ルオスは再び訝しんだ。


「よ!!」

「てぃ!!」


 そこにヴェルティアとリフィが別の箇所から壁をぶち破り隣の部屋に突入する。


「な…そうか小賢しい小娘共が」


 ルオスは自分が嵌められた事を悟った。自分が開けた孔からしか従士クファータが入ってこなかったためにそこからしか敵がこないと思わされてしまったのである。


「さーて、続きといきましょ」

「はっはっはっ!!上手く策がはまりました!!」


 リフィとヴェルティアはルオスに向かって走り出した。


「く…」


 ルオスはヴェルティアとリフィに挟み撃ちになった事に対してギリっと唇を噛んだ。


 そして従士クファータは最初の孔から次々と現れた。従士クファータ達はルオスへ殺到する。

 ヴェルティアとリフィもそこに参入し従士クファータ達に紛れてルオスへと攻撃を行うようになった。


「おのれ……」


 後ろから蹴りを入れられ、よろけたところに従士クファータが襲いかかり、ルオスは剣を振るって従士クファータ達を一気に斬り伏せる。だが、それすらもヴェルティアとリフィの掌の上で転がされると言う状況に変わりが無い。


 斬撃の間隙をついてヴェルティアとリフィは容赦ない打撃をルオスへと加えていく。


 そこに壁が三箇所ほぼ同時に弾け飛んだ。


「おーもう始まってるけど、終わりそうじゃな」

「もうちょっと急げば良かったな。ついつい駆除に時間をかけすぎたな」

「おいおいヴェルティア、少しは俺達を待とうとか思わなかったのか?」


 孔から現れたのはもちろん、シルヴィス達であった。

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