第49話 世界の終わり⑥ ~皇女と魔王、その仲間達の蹂躙~

「おっ!!それじゃあ行きましょう!!」

「そうね。いくわよ!!」


 ヴェルティアとリフィの言葉に三人は静かに頷いた。三人がうなずいたところでヴェルティアとリフィが走り出した。走り出した先には巨大な城門があった。


「え?まさか?」


 クレナの言葉は二人が一切スピードを落とすことがなかったためだ。つまりその勢いのまま体当たりで突き破るつもりであることを意味していた。


 ドォォォォン!!


 ベキベキベキ!!


 ヴェルティアとリフィがそのまま城門にぶつかると閂があっさりと折れる音が響き渡り城門が開いた。


「ウソ……たった一度で?え?え?」


 クレナの驚きの声も無理はない。たった今破った城門は間違いなく神門ミルズガルクと同じものである。神門ミルズガルクはルオスの力により外部からは破ることが出来ないということであったのに、あっさりと破られた事に驚かざるをえない。


「何やってるの!呆けてる場合じゃないわよ」

「クレナ、ボサッとするな。死ぬぞ。ここでボサッとして死なないのはお嬢とリフィくらいだ」


 ディアーネとユリがクレナへと声をかける。


「あ、はい!!」


 キィン!!


 クレナが駆け出そうとした瞬間にディアーネの斧槍ハルバートが放たれた矢をはたき落とした。もし、ディアーネが落とさなかったらクレナは命を失っていたことだろう。


「あ、ありがとうございます」


 ゾッとした顔でクレナはディアーネへ礼を言う。


「気を付けなさい。いくわよ」

「はい」


 走り出したディアーネにクレナが続いて都市部に侵入する。そこはすでに地獄絵図が広がっていた。その地獄絵図を描いているのが自分の主とその友人の魔王であった。


「てぇい!!」

「うりゃ!!」


 ヴェルティアとリフィは拳足を駆使して襲い来る天使や神達を容赦なく薙ぎ払っていた。リフィに殴られて吹き飛んだ天使がそのまま壁にぶち当たり弾けて命を散らしていた。ヴェルティアの横蹴りをまともに受けた神が口から血を撒き散らしながら吹っ飛んでいく。


「ユリ行くわよ」

「了解!!」


 ディアーネとユリは城壁嬢へと一足飛びで上がっていく。城壁に到着した二人は斧槍ハルバートと剣で次々と天使達を斬り伏せ始めた。得に二人が優先的に狙ったのは弓を持っている者達である。


「ヴェルティア様、リフィ、先に進まないで!!ディアーネ様とユリ様が城壁の敵を片付けるまでの少しの時間で良いから」


 クレナの言葉にヴェルティアとリフィはサムズアップで返した。


「リフィ、取り敢えずここの方々を斃してしまいましょう」

「そうね」


 クレナの頼みはそれすなわち神達にとって不幸でしかない。ヴェルティアとリフィという暴風がこの場で暴れることを示しているからだ。まだ通り過ぎてくれた方が被害が少ないというものだ。


「この小娘がぁぁぁ!!」


 被害を爆増させる原因となったクレナへ天使達が殺到する。


「げ…」


 クレナに天使達が向かうがそこに偽魔王を筆頭とした黒騎士達が立ちふさがった。天使達に黒騎士達が襲いかかり、激しい戦いが展開される。

 黒騎士達と天使達はほぼ互角であるが、逆に言えば全てを防ぐことが出来ないことを意味する。何体かの天使が黒騎士をすり抜けてクレナに向かってくる。


 そこに偽魔王が立ちふさがる。偽魔王は凄まじい速度で突きを連続で放つ。


 ドドドドドッ!!


 顔面を貫かれた天使達が次々と斃れる。だが全てを仕留めることは出来ない。二体の天使が偽魔王をすり抜けてクレナを襲う。


 キィイン!!


 天使の斬撃をクレナは双剣を抜き放って受けた。


 ……コロン


 足下に珠が転がると天使の視線は一瞬、そちらに向かう。


『あ、みなさんこんにちはいかがお過ごしでしょう?』


 その時、転がった珠から謎のメッセージが響き渡った。天使は突如として発生したメッセージに思考が止まってしまう。これが爆発などであれば天使は即対応したことであろう。だが、今回発生したメッセージは戦闘にまったく関係ないものである。それが逆に戦闘時との落差を生み思考がそちらに向かってしまった。もちろんこれはクレナの術であり、魔力で人形をつくる技術の応用であった。


 クレナは動く。双剣を首と胴に当て、そのまま体を移動させることで天使の喉と胴を同時に斬り裂いた。


「が…」


 天使は自分の身に何が起こったか理解出来なかっただろうだが、自分の体から力が抜け地面に倒れた時に自分がやられたことに気付いた。


 クレナは斃れた天使へ視線を向けることはせずに次の天使へと襲いかかる。クレナは足から従士クファータを生み出すと両側から天使に襲いかかる。

 クレナは人形としか読んでいなかったがヴェルティアが似た術を習得し従士クファータと名付けたことでそれにあやかったのである。

 クレナの従士クファータはヴェルティアのものよりも戦闘力が低い。従士クファータは天使の剣により一体目の従士クファータをあっさりと斬り捨て、返す刀で二体目の従士クファータの首を刎ねた。その瞬間、従士クファータの体がまばゆく輝き天使は一瞬目がくらんだ。


「あばよ」


 クレナは天使の目がくらんだ一瞬の隙を衝き背後に回り込むと喉を斬り裂いた。明らかに致命傷であり天使は傷口を押さえて治癒魔術を施そうとした。

 クレナは容赦なく延髄を斬り裂いた。天使の目から光が消えクレナの勝利が確定した。


「はぁ、はぁ、やった」


 クレナの口から安堵の声が発せられた。


「クレナ、行くわよ」


 ディアーネがクレナに声をかける。いつの間にかクレナの隣にディアーネとユリが立っていたのである。


(え?まったく気配がしなかったんだけど)


 クレナは先程まで城壁の上で戦っていたディアーネとユリが自分のすぐ側にいたことに驚愕する。チラリと城壁の上に目を向けると城壁の上に生きているものは誰もいないようだ。


(やっぱりこの二人も化け物よね。ヴェルティア様とリフィが強すぎるだけで見逃されるけど)


 クレナはゴクリと喉をならした。ディアーネとユリの実力は自分より遙かに格上であるということは知っていたがそれを見せつけられた感じである。


「クレナ、私はいくわよと言ったのよ?」

「も、申し訳ありませんでした!!」

「まぁいいわ。今度返事が遅れたら再指導よ」

「りょ、了解いたしました!!」


 ディアーネの言葉にクレナは直立不動になって答えた。戦場であり得ない行動ではあるのだが、クレナにしてみればディアーネの怒りの方が遙かに恐ろしいのである。


(何だかんだ言ってディアーネのやつクレナを気に入ってるんだよな)


 ユリは苦笑交じりに心の中で呟いた。ディアーネは実力が劣っていても何とかしようと必死に行動する者を好む性格をしているからである。それはヴェルティアという超越者の隣にいて、置いていかれないように常に努力を怠らない自分の価値観と通じる者があるからである。そしてユリも同様であった。


「お待たせいたしました」

「お疲れ様です!!いや~さすがですねぇ~これで後顧の憂いが無くなったということで先に進みましょう」


 ヴェルティアはニッコリと笑って二人の労をねぎらった。


「クレナもやりますね!!天使二人に勝つなんて立派なものです」

「きょ、恐縮です!!」

「ヴェルティア、褒めるのは後よ。先に進みましょう」

「あ、そうでした。クレナは後で褒めますので楽しみにしてください!!それでは行きますよ!!」


 ヴェルティアはそう言うと先陣を切って駆け出した。その際に進行上にいた天使や神達が宙に舞った。


「そこまでだ!!」


 そこに爆走するヴェルティアに向かって大音量で立ちふさがる者がいた。


「我が名はイリュケ!!貴様等へ神罰を与えし者だ」


 イリュケと名乗った神に対して一番早く反応したのはリフィであった。


「紛らわしいのよ!!何よイリュっておばあちゃんの名前とそっくりじゃない!!あんた改名しなさいよ!!愚か者とかそんな感じに」

 

 リフィの抗議の内容にイリュケは流石に思考が追いつかない様子であった。だが自分が侮辱された事に気付いたイリュケは思い切り顔を歪ませてリフィへ言い放った。


「貴様がリゼルフィアか!!貴様等一族はどこまでも礼儀というものをわきまえておらぬな。所詮は礼儀も知らぬ山猿よ」

「プッ……もうダメ!!耐えられない!!あはははははは!!」


 イリュケの挑発にリフィは堪えきれずに笑い出した。リフィの反応にまたもイリュケは困惑した。イリュケが想定していた反応のどれにも当てはまらないものだったから。


「どうしたんです?」

「だって考えてみてよ。こいつらって宝珠アイガスを盗んだコソドロじゃない」

「あー確かにそうでしたね」

「でしょ。コソドロごときが礼儀云々語るのが逆に面白くて。しかもあそこまで偉そうに言えるのがツボで」

「そう思うと確かに滑稽ですね。アレが神様ジョークというやつなんでしょうか?」

「でしょでしょ!!あれは自分では良いこと言ったとか思っている顔なのよ。そう思ったら本当に堪えきれなくて」

「プ…リフィの解説を聞いたら確かに笑えます。あはははっは!!」


 次にヴェルティアが堪えきれずに笑い出した。


「気の毒に…」

「まさかここまで敵に同情するなんて思わなかったなぁ」

「さすがに同情します」


 ディアーネ達の同情の声がイリュケの耳に届く。敵に同情されるほど惨めなことはない。


「殺す!!」


 イリュケは長剣を抜きはなつと同時にリフィに襲いかかる。まるで瞬間移動したかのような速度でリフィの間合いに入ると上段から一気に振り下ろした。


 キィン……


 しかし、リフィは上段斬りを避けるのではなく掌と拳を打ち合わせイリュテの剣をへし折った。


「な」


 イリュケの口から呆けた声が発せられた瞬間に延髄と左膝に衝撃が走った。ディアーネの斧槍ハルバートが延髄に、ユリの剣が左膝をそれぞれ斬り裂いたのだ。イリュケの目がグルンと白目になりそのまま崩れ落ちた。 


「結局、この方何しに来たんでしょうね?」


 ヴェルティアの疑問の言葉がよりイリュケを惨めにさせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る