第48話 世界の終わり⑤ ~夫と友人達による蹂躙~
「お、じゃあ、いくとしよう」
まばゆい光が周囲を照らしたのを見てシルヴィスが言うと両手を天に掲げた。シルヴィス達が転移したところは、位置的にイリュテとエルマースの先制攻撃の影響があまりなかったのだ。ただ、城壁にいる天使達はそうではない。自分達が安全であると思っていた天界に敵が攻めてきたというだけで、衝撃であったのに何の脈絡もなくいきなり小型の太陽が振ってくるわ。超巨大な竜巻が薙ぎ払うわとあり得ない大損害を被り、動揺しないはずはない。
「やっぱりこれだな」
シルヴィスはそういうと巨大な岩石を召喚し、容赦なく城壁へと落とした。それも一つではなくいっきに数十個である。
「ひ…」
「え?」
「あ……」
天使達は自分の頭上に降り注ぐ巨大な岩石を見て思考が完全に止まってしまっていた。そして思考が再び動かすことはなく巨大な岩石により潰されてその生涯を閉じることになったのである。
「よし、いくか」
キラトは剣を抜き放った。魔剣ヴォルシスは本来の力を封じているが、それでもキラトが使えば十分すぎるほどの力を示してくれる。キラトが剣を振るうと数十個の巨岩が斬り刻まれ細切れとなり崩れ落ちる。その空いたスペースにキラト、シルヴィス、リューベ、ジュリナ、七柱の順番で侵攻を開始した。
城壁内は恐慌状態である。巨岩に潰された仲間達を何とか救おうと必死に救助活動を行っているところであった。
「分かっていると思うが一切容赦するな」
キラトの言葉に全員が同意とばかりに頷く。
「それじゃあ行きます」
ジュリナはそう言うと空中に十二本の柱が顕現するとそのまま落下する。
ズンズンズズン……
十二本の柱はそれぞれ炎を発し凄まじい高温を生み出した。
「あ…これは結構な大技」
シルヴィスが防御陣を形成するのと柱から発生した炎が中心に向かって奔るのはほぼ同時であった。十二本の柱から放たれた炎は中心に集まると凄まじい高温となり、全方位に向けてその高温を放射した。その熱にやられた天使達は一瞬で焼死体と化した。
「ぐ……」
「く…おのれ」
神達の中には辛うじて焼死体にならなかった者達もいたがそのダメージは深刻なものである。シルヴィスの視線を受けた七柱達が生き残った神達に容赦なくトドメを刺した。
「お、やっときたな」
キラトの視線の先に神達の一団が現れる。キラトが剣を横薙ぎに振るうと十体程の神の首が飛んだ。
「よし、リューベ行くぞ」
「はっ!!」
キラトの言葉にリューベは喜々として応えると大剣を構えて、キラトと共に神達の中に突っ込んでいった。
キラトとリューベの剣技はこの世界の天使や神では抗うことの出来ないものである。キラトとリューベの剣が振るわれる度に神と天使の命が散る。
「な、なんだこいつら」
「強すぎる」
あまりの強さに天使と神が恐れ始めていた。それも無理からぬ事で一合も斬り結ぶことの出来ないほどの剣士相手に向かっていくのは無駄に命を散らすことに等しい。
「ひ」
一柱が逃げだそうと背を向けた瞬間にシルヴィスが容赦なく背後から撃つ。
シュン!!
その時シルヴィスの頭上に何者かが転移してきた。転移してきた者はそのままシルヴィスへと斬撃を振り下ろした。シルヴィスはそれを見ることもなく横に飛んで躱した。
「よく躱したな」
男はそう言ってシルヴィスに鋒を向けた。
「下種共がよくもこの天界でこのような狼藉を働いたものだ」
男の弾劾に対してシルヴィスの反応はない。
キィィィン!!
ガキィィン!!
そこに二柱がキラトとリューベの斬撃を受け止めているのが目に入る。
「ティレンスはその男を殺せ!!この魔族はこちらでやる」
「はっ!!」
「ティレンス?お前シュレーゼントの元王太子か?」
ティレンスの名を聞いたシルヴィスが露骨に蔑んだ声で問いかけた。
「そうだ!!我が名はティレンス!!シュレーゼントの元王太子だ」
「ふーん、指揮すべき兵や自らの責務を果たさず逃げ出した卑怯者か」
「な…なにぃ!!」
「怒るなよ。俺は事実を指摘しただけだ」
「ふざけるな!!私は貴様等を斃すために敢えて屈辱に耐えているのだ」
「自分を正当化するのに必死だな」
シルヴィスの言葉は嘲りそのものだ。
「さっきも言ったがお前が指揮していた将兵はお前が消えた事をどう思ったかな?」
「く…なにぃ」
「俺達を斃すために敢えて屈辱に耐え再起のために逃げた…そんな戯言を誰が信じるんだ? ん?卑怯者」
「黙れ!!」
「お前の父親は最後までお前を信じていたぞ」
「何?」
シルヴィスの言葉にティレンスはわかりやすく動揺を示した。もちろんシルヴィスの言葉は嘘である。オルガスは死の間際までティレンスの事を一言も語っていない。シルヴィスがこのような嘘をついたのはもちろんティレンスへの嫌がらせである。
「お前、もう人間ではなくなったのだろう?放つ気から見て神となったようだな。しかし、お前が神になってのんびりしている間にシュレーゼント王国は滅亡し、王族は全員処刑されたぞ。それを黙ってみていたのか?救えるだけの力を持っていながら何も行動を起こさなかったのか?な、卑怯者と呼ばれるに十分すぎる理由じゃないか?」
「ルオス様が禁止したからだ!!そうでなければとっくにお前達、アインゼス竜皇国の連中など皆殺しにしてくれたものを!!」
ティレンスの言葉にシルヴィスはさらに軽蔑の視線をティレンスへと向けた。
「なんだルオスが禁じたから助けに行かなかったのか。お前は神になったのではないな。単にルオスの
シルヴィスがそういった瞬間に激高したティレンスが斬撃を繰り出した。速度、鋭さ、膂力の三つを兼ね備えたすばらしい斬撃であった。しかし、シルヴィスはその斬撃を素手で掴んでいた。
「児戯だな」
驚愕の表情を浮かべるティレンスにシルヴィスが冷たく言い放った。
「あ……」
「ぐぅぅぅぅぅ!!」
ドサリ
鍔迫り合いしていたキラト、リューベであったがそれも数秒の話であり、あっさりとキラトは剣ごと真っ二つに、リューベは大剣で押し潰すように凄まじい膂力で少しずつ押し込んでいく。
「ま、まてぇ!!」
神の命乞いなどリューベは無視してそのままさらに大剣を押し込んだ。頭頂部から真っ二つになるのを避けるために体を傾けた。振り下ろす先に頭部はなくなったが、左肩があった。そして体勢を崩した事で力が上手く入らずに一気に左肩にリューベの大剣が食い込んだ。
「それじゃあ」
リューベは
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
神は絶叫を放ちながら崩れ落ちた。
「さて、キラト様、汚い手ですけど二人でやりましょう」
「生き死に汚いも何もないだろう。あの方だってそのつもりだろうよ」
「それもそうですね」
キラトとリューベの視線を受けてもう一柱が構えをとる。キラトの言うあの方はこの一柱のことである。
一柱の意識はキラトとリューベの一挙手一投足の動きに全て集中していた。そのためであろう。ジュリナの存在を完全に見落としていた。ジュリナの
「が…」
次いで心臓をそしてトドメとして頭部を穿った。一柱はピクピクと痙攣していたがすぐに動かなくなった。
「そ、そんな」
ティレンスは呆然とした声を出す。
「どうした?お仲間がやられて顔色が悪くなったぞ?お前は所詮その程度だと言うことだ」
「な、なに……」
「俺の名を教えておこう。俺はシルヴィス……お前が性処理として扱おうとしていたヴェルティアの夫だ」
「ひ…」
「よかったよ。俺の目の前に来てくれてお前だけは俺の手で殺さないと気が済まなかったんだ」
シルヴィスの体に紋様が浮かぶ。そして放たれるエネルギーも段違いどころか桁違いに跳ね上がったのをティレンスは感じた。
ベキベキ!!
シルヴィスはティレンスの剣を握りつぶした。
「ひぃ!!ば、化け物……」
「そうだ化け物だ。貴様ごときでは到底手が届かぬな」
シルヴィスはティレンスの胸部を容赦なく蹴り上げた。ゴキゴキィと骨の砕ける音が周囲に響き渡り上空へと舞った。ティレンスは落下を始めた視界の先に構えをとるシルヴィスの姿を見た。
(ま、待って……く…れぇ)
ティレンスはシルヴィスへ声にならない命乞いを行った。だが当然ながらシルヴィスにそのつもりはない。シルヴィスの放たれた拳がティレンスの顔面に直撃するとティレンスは物理法則を無視するかのごとく急激な角度で吹っ飛んでいった。
キラトが切り刻んだ岩禅の岩に衝突しながらティレンスの体は吹っ飛んでいった。ティレンスの体が止まったとき、すでにティレンスの体は原形を留めていなかった。
「貴様はヴェルティアを侮辱した。極刑に値する」
シルヴィスの言葉はもはやティレンスには聞こえていない。シュレーゼント王国最後の王族であるティレンスは自分よりも遙かに巨大な相手に踏み潰されるという惨めな終わりであった。
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