第47話 世界の終わり④ ~親世代の蹂躙~

「お、合図だ」


 まばゆい光が発せられたことで親世代のチームも動き出すことにした。


「取り敢えず城壁をぶっ壊すとするか」

「じゃ、まかせて」


 シャリアスの言葉に答えたのは妻であるアルティミアである。


 アルティミアは掌に水の珠を作り出すとそれを放る。水の珠は弾けると巨大な水竜へと姿を変える。


『ゴォォォォォォォォ!!』


 水竜の咆哮は大気を振るわせた。水竜は純粋な生物ではなくアルティミアにより生み出された疑似生命体である。にも関わらずその咆哮には聞く者の根源的な恐怖をかきたてるものであった。


 そして、その根源的な恐怖はすぐに現実のものとなる。


 水竜は口を開き、次の瞬間に大瀑布が放たれた。放たれた大瀑布は城壁を破壊しそのまま都市部を崩壊させた。


「おお!!すごいぞ!!」

「ええ、優美な術ね!!」


 マルトとミューレイは興奮したように言う。


「えへへ、そんなに褒められるとてれるわよ」


 アルティミアは嬉しそうに頭をかきながら称賛を受け入れた。マルトやミューレイの反応は純粋な称賛そのものであり、嬉しいという感情を持ってしまうのは当然である。


「お、あっちはシルヴィス君の術だな」


 シャリアスの言葉に目を向けると天空から巨大な岩石が数十個落下しているのが見えた。あれだけの質量の岩石が落ちてくればたとえ神や天使であってもただではすまないだろう。


「お前の娘婿もとんでもないことするよなぁ」

「さりげなく常識人ぶるんじゃない。その手にある戦槌メイスで何をするつもりだ?」


 マルトの言葉にシャリアスが尋ねるとマルトは惚けた表情を浮かべた。


「とりあえず潰しとくか」


 マルトは戦槌メイスを掲げると振るうとその先にさらに巨大な戦槌メイスが現れた。その巨大な戦槌メイスは、貴族の屋敷ほどの巨大さであった。


 ドゴォォォォォ!!


 凄まじい衝撃が発せられ、戦槌メイスが振り下ろされた場所はクレーターとなっておりその威力の程が窺えた。

 城壁を二つの方法で崩壊させた親世代チームは悠々と都市部に入ってきた。すでに城壁を破っている以上、マルトの戦槌メイスの一撃は必要なかったのかもしれない。だが、自分達の力の前には城壁がいかに無力であるかを見せつけることで相手の心を折り有利に戦いを進めようという思惑があったのだ。


「ひぃ」

「ば、化け物だ!!」


 城壁内に入ってきたシャリアス達四人を見た神達の仲から恐怖の叫びが上がった。この恐怖の叫びこそ、親世代チームとこの世界の神や天使達との力関係のすべてであると言っても良いだろう。


「失礼ね」


 ミューレイが光術を放つと恐怖の叫びを上げた神達の頭部が弾け飛んだ。


 ドゴォォォォ!!

 

「うわぁぁぁぁっぁ!!」

「た、たすけてくれぇぇぇ!!」


 周囲で絶叫が響き渡っているのは水竜が容赦なく大瀑布を放ち続けているためであり、その超水圧に耐えれる者はほとんどいない。都市の住民達は次々と超水圧に押し潰されて命を散らしていた。


「これくらいでいいかしら」


 アルティミアはそう言うと水竜が形をうしない水となって地面に降り注いだ。


「アルティミア、あれ・・か?」

「ええ、駆除・・にはこの方法が有効なのよ」


 シャリアスの言葉にアルティミアが答える。その様子は神や天使達に一切の価値を認めていないのが十分に分かる。


 アルティミアは掌をかざし、そのまま雷撃を放った。数十億ボルトにも匹敵するアルティミアの雷撃は射線上にたまたま・・・・いた天使や神達を巻き込んだ。

 巻き込まれた神や天使の体内の水分が一瞬で蒸発し内部から破裂していた。もちろん、神や天使は常時防御陣で自分を覆っているのだが、アルティミアの雷撃の威力が強すぎて何の役にも立っていなかったのである。

 そして、放ったれた雷撃は先程まで水竜が撒き散らした水に直撃すると一気に水を伝って水場全体に広がった。


「ぎゃあああああああ!!」

「ぐぎゃああああ!!」


 あちこちで感電の苦痛を訴える絶叫が響き渡った。


「水を使って一気に動けなくしたのね」

「ええ、上手くいったわ」


 ミューレイの言葉にアルティミアは嬉しそうに返答する。


「そうだ、アルティミア、そのまま雷撃を放っておいて」

「ん?どうるすの?」

「死んだ連中もいるだろうけどまだ生きてる連中もいるからちゃんととどめ・・・をさしておいてやらないと」


 ミューレイはそう言うと光の珠を空中に放つ。ふよふよと光の珠は上昇を続けると光の矢を地面に向けて降り注がせた。


「がっ…」

「ぐ…」

「ひ…」


 短い叫びは貫かれ絶命するまでの最後の言葉なのだろう。感電し続け動けないところに光の矢で貫かれるという地獄のような経験であろう。


「おのれ!!この外道共が!!」

「この美しき天界に不浄な…」


 そこに六柱の神が現れた。それぞれ放つエネルギー量が凄まじいものであり、高位の神であるのだろう。

 だが彼らの前口上は二人目で中断された。

 

 特に哀れであったのは口上を中断させられたものであったろう。マルトが戦槌メイスを振るうと上半身が砕け散り肉片となってばらまかれてしまったのである。

 他の五柱も一瞬で間合いを詰めたシャリアスによって首をねじ切られた者が二柱、ねじ切った頭部を他の二柱に投げつけその一撃で頭部を爆ぜた者が二柱、心臓を貫かれ倒れたところを頭部を踏み潰された者が一柱である。

 現れた六柱は自分が死んだことにすら気付いていなかったことだろう。あまりにも実力差がありすぎた故の悲劇であったといえるだろう。


「なんだ弱いな」

「だな。偉そうに口上を述べていたけど何を言おうとしたんだろうな?」

「どうせ大した内容じゃないだろ」

「それはわかってるんだがな」


 シャリアスとマルトの声には理解出来ないという感情が含まれている。シャリアスとアルティミアが先日天使達を皆殺しにしたが、天界の神達はそれなりの実力者であるという感覚だったのだ。ところが全く相手にならないのだ。簡単に言えば"この程度の実力でよくここまでイキれたな"と言う感覚なのだ。


「二人とも行くわよ」


 アルティミアが二人に呼びかける。すでに近辺には何の声もない。六柱を始末している間にアルティミアとミューレイが片付けたのである。


「とりあえず神と天使達の気配はないわ」


 ミューレイの言葉に全員が頷く。


 実際にこの近辺で生きている者はもういないのだ。


「それじゃあ、後処理をして先に進みましょう」


 アルティミアとミューレイは膨大な瘴気を生み出し、それを死体へ浴びせた。瘴気が死体が覆い姿を異形の者へと変えていく。


「さ、行って」


 アルティミアがポンと手を叩くと異形の怪物達は四方八方へと散っていく。


 散った先で天使や悪魔達を異形の怪物達が駆除することになる。天界は地獄と化すことが確定したのであった。

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