第44話 世界の終わり① ~ご挨拶~

 ヴェルティアとリフィの試合から二週間がすぎた。


 その間にアインゼス竜皇国は軍事行動を再開し、いくつかの国を滅ぼしている。


 天界に攻め込むのは、シルヴィス、ヴェルティア、ディアーネ、ユリ、クレナ、リフィ達魔族七人、シャリアス、アルティミア、キラト、リューベ、ジュリナ、シルヴィスに降った七柱となっている。

 レティシアとシュレンはアインゼス竜皇国軍を率いる総大将と副将の立場になっている。レティシア達が天界に行かないのは一〇〇万の大軍の最終意思決定を行うものが必要だからである。


「いや、さすがにこのメンバーを見れば私達の出番はなさそうなので」


 レティシアの言葉である。 


 このレティシアの言葉に心から同意したのは当然ながら、アインゼス竜皇国軍一〇〇万の将兵達であった。

 しかし、これにより一〇〇万の将兵達はさらに強固な軍となり人族の国が次々と陥落していくことになるのである。


 アインゼス竜皇国軍がこの世界に現れてからまだ一ヶ月経っていないのだが既に人族の国の四割が滅亡していた。


 あと二ヶ月あれば人族の国はこの世界で消えてしまうのではないかという不安が囁かれ始めていた。



「さて、ようやく本調子になりましたね。リフィはどうです?」


 ヴェルティアの言葉にリフィは体を捻ったり、トントンと跳躍したりして自分の承久を確認する。


「そうね。もうすっかり良くなったわ。むしろ体がなまってきてる感じがするわ」


 リフィの返答にシュッと正拳突きを放つと空気を切り裂く音が響き渡った。どうやらヴェルティアもリフィも本調子になったようである。


 そして、それは天界に侵攻する事を示していた。


「パパーーー!!ヴェルティアももう大丈夫だってーー!!」


 リフィがマルトへと声をかける。


「私も本当にいくの?え?」


 クレナが青い顔をして独りごちる。前回のリフィとの試合は何だかんだ言って命の保証はされていた。ところが今回は少数で天界に殴り込むのである。普通に考えて死にに行くようなものである。もちろん、ヴェルティア達が敗れるとは微塵も思っていない。だが、自分が死ぬ可能性が決して低くないことだけは理解していたのである。


「何を言っているのです。あなたはもはやヴェルティア様の私的な部下。ならばついていくのが道理というものです」

「ディアーネ様!!」


 ディアーネに言われクレナは反射的に背筋を伸ばした。クレナにとってディアーネという上司は尊敬に値する実力の持ち主ではあるがそれ以上に恐ろしすぎる上司なのだ。


「クレナはヴェルティア様を守ろうなどと考える必要はありません。それはシルヴィス様の役目ですし、そもそもヴェルティア様が命を失うよな天変地異などほとんどありません」

「……はい」

「我々の役目はヴェルティア様の補助です。補助とはヴェルティア様が不得意なことを補うこと、もしくは手が回らないことを手助けするということです。リフィさんとの試合で分断された私達をクレナは結界を破ったでしょう。あれが補助というものです」

「でもあれ……破ったのはユリ様で」

「そのきっかけを作ったのです。私は価値ある行為であったと思ってますけど…不服ですか?」

「と、とんでもありません!!」

「つまりあなたもいくということで不満は?」

「一切ございません!!」

「よろしい」

「はっ!!大変有り難いご指導ありがとうございました!!」


 クレナはそう言って深々と頭を下げる。ディアーネに対して苦手意識があるのは確かではあるが、自分の役に立てるという可能性はクレナにとって嬉しいことであった。ヴェルティアという主はとにかく面白いのだ。次に何を言い出すかわからない。その言い出した事を実現する能力があるのだ。それが限りなくおもしろいのである。何だかんだ言ってクレナは現在の境遇に満足しているのだ。


「さて、行きますよ」


 ヴェルティアの言葉に従って集合場所へと移動する。


 そこには全員が既に集まっていた。


「マルト、準備は出来たのか?」

「おう」


 シャリアスの言葉にマルトは簡潔に返答した。この二週間で友人関係が深まったのはヴェルティアやリフィ達だけではなく、シャリアスやマルトなどの親世代もそうであった。

 シャリアス、アルティミア、マルト、ミューレイはそれぞれ仲良くなりすっかり家族ぐるみの付き合いになっているのである。


「さて、これから天界に行って暴れる・・・わけだけど、みんなに注意事項があるからきちんと聞いてくれ。歴史的建造物だからとか価値あるものとか気にせずにガンガンやってくれ」


 マルトが中々物騒な事を明るい声で言う。


「パパ、遠慮しなくていいの?」

「いらんいらん」


 マルトの声に全く気負いというものはない。傲慢さも感じられない。単に駆除・・するという感覚であるのは間違いない。


「それじゃあ、いくとするか」


 マルト達家族七人は手を取り合って円を作ると足下に魔法陣が浮かび上がった。アインゼスの関係者達は全員がその魔法陣の中に入る。


 全員が魔法陣に入ったことを確認したところで膨大な魔力が集まるとそれを一気に放出する。

 光の柱が立ち虚空に吸い込まれていく。


 ガシャァァァァァァァァァン!!


 何かが砕ける音が響き渡った。マルト達から天界は結界で覆われており、それを打ち破る必要があることを知らされていた。砕ける音は結界を破ったというよりも打ち砕いた音なのだろう。


「よし、それじゃあ転移っと」


 そして次の瞬間全員の視点がぐにゃりと歪み、それが戻ったときに全員は先程までとは別の場所にいた。


「ほ、本当に来ちゃった」


 クレナが呆然とした声で言う。眼前に広がる光景は確実に下界のものではない。一言で言うと"美しい"である。この美しさは世界中下界を探したところで見つかるかどうか疑問である。


「うーん、久しぶりねぇ」

「そうねぇ~本当に変わりばえしないわね」

「この美しい世界を壊すのは気が引けるのう」

「ゴルザー、表情と言葉の内容が一致しとらんぞ」

「そりゃ社交辞令じゃしな」


 祖父母世代がそういって嗤う。その口調から郷愁の感情よりも"さーて始めるか"という感じに見える。


「それじゃあ。イリュテ、久しぶりにあれ・・見せてちょうだい」

「そうね。宣戦布告にはちょうど良いわよね」


 エルマースのリクエストにイリュテは納得したように頷くと両手を天空に掲げた。遙か上空に炎が集まり始めた。集まり始めた炎はどんどん大きくなっていく。まばゆい光を放ちながら安定する。上空にもう一つの太陽が登場した。


「すごいな」

「すごすぎよ!!なんなのあれ!!」


 リューベの感嘆の言葉にジュリナは興奮したように話す。ジュリナは魔術に造詣が深いためにイリュテのやっていることの偉大さがわかるのである。


「よし、これくらいね」


 イリュテはそう言うと作り出した小型の太陽を落とした。

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