第42話 コソドロ達の悪寒

「ここだな」

「ああ」


 男達が見上げた先に小さな建物が見える。


「本当にこんな所に宝珠アイガスがあるのか?」


 男の一人が仲間達に言う。いや、ひょっとしたら自分自身の問いかけであったのかもしれない。

 仲間達も男の言葉を否定することはしない。それは全員が同意見であったからだろう。


 宝珠アイガスがあるという建物は小さく古いものであった。もっと有り体に言えばボロ小屋・・・・だったのだ。


「ルオス様の求める宝珠アイガスがこんなボロ小屋にか」

「こんなボロ小屋にあるような宝珠アイガスに俺達が動くほどの価値があるのか疑問だな」

「油断するなよ。ここはあの悪魔共の領域である事を忘れるな」

「ああ」


 男達は周囲と罠を警戒しながらボロ小屋へと歩みを進める。


 しかし、男達は何の障害もなく小屋にたどり着くと扉を開けた。


 ボロ小屋の中央に目的の物はあった。


「本当にこれか?」

偽物ダミーじゃないのか?」


 男達の言葉はやや戸惑っている。


 宝珠アイガスは無造作に机の上に置かれていた。しかもその下に置かれているのは布で編まれた鍋敷きである。 

 宝珠アイガス自体は美しい輝きを放っているし、放たれている魔力も凄まじいものがある。だからこそ逆に設置方法との落差が大きすぎてしまい本物であると言う確信が持てずにいた。


「と、とりあえず…持って行こうぜ」

「ああ」

「あいつらにいつ気付かれるかわかったものではないからな」

「ああ、あの六人の悪魔の相手なんか絶対に無理だ」


 男達はそう言うとブルリと身を震わせた。この宝珠アイガスを奪うためにリフィが生まれる前に魔族達に神達は何度も何度も襲いかかったが、一度として成功したことはない。

 それどころかあまりにも実力差が開きすぎており、あっさりと蹴散らされた。しかも魔族達は神達を殺すことをしなかった。言うなれば歯牙にもかけられてなかったのである。ここにいる男達はかつて魔族達に挑み蹴散らされた経験を持つ者も多かったのだ。


「いくぞ」


 一人の男が机の上に置いてある宝珠アイガスを掴む。


 男達は周囲を確認しながら転移術を起動してボロ小屋から姿が消えた。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ご苦労だった」


 ルオスの前に平伏した男達はルオスの言葉に深々と頭を下げる。そのまま手にしていた宝珠アイガスをルオスへと手渡した。


「これが宝珠アイガス……」


 ルオスは恍惚とした表情で宝珠アイガスを眺める。それを見た男達はルオスがいかに宝珠アイガスを望んでいるかを察してしまう。


「ルオス様、それでは我々はこれにて」


 男の一人の言葉にルオスは笑顔を向けて言う。


「うむ、本当にご苦労だった。ゆっくり休め」

「はっ!!」


 ルオスの言葉に男達は短く返答すると一礼してルオスの前から立ち去った。


 扉が閉められたところで、男達は全員冷たい汗を流した。


「はぁはぁ…」

「なんだったんだ?あの寒気は……」

「お前も感じたか? 何というか今までとは違うな」


 男達は声を潜めてそう語り合う。


 宝珠アイガスを受け取ったルオスの雰囲気は間違いなく今までのルオスの者ではなかった。それが何なのか男達にはわからない。


 だが、それが天界に大きな波乱をもたらすのだけは理解出来る。


 男達はもう一度ブルリと身を震わせた。

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