第41話 事態が動く

 ヴェルティアチームとリフィチームの試合はヴェルティア達の勝利に終わった。


 観客達は一進一退の攻防、二転三転する状況の変化を楽しく観覧しており、試合が終わった後も興奮冷めやまぬ様子で試合の感想を言い合っていた。


「いや~すごい試合だったな」

「ああ!皇女様達が勝ったとは言え紙一重の状況だったな」

「あそこでディアーネ様とユリ様が立ち上がるなんて思ってもみなかったな」

「あの方々は一瞬リフィ嬢の意識を逸らすためだけに立ち上がって叫ぶ!!中々出来る事じゃないぜ」

「そしてその作られた好機を逃すことなく勝利を掴んだ皇女様はさすがだ!!」

「おうよ!さすがは皇女様だぜ!!」

「リフィ嬢もすごかったな」


 兵士達は酒と一緒に楽しく試合談義に花が咲いていた。その一方で指揮官達はそれに加えて軍の訓練にまで話が進んでいた。


「リフィ嬢への作り出した人形は新兵の訓練に使えるのではないか?」

「それは言えるな。それに人形の強さはリフィ嬢が調整できると思う。それなら兵士達の練度によって強さを変えることが出来るのではないか?」

「うむ、上申書を出してみよう。上官達も今回のリフィ嬢の人形達の訓練に用いることの有用性は認識していることだろうしな」

「ああ、そうなると一体どれだけの報酬を支払えば良いのかリフィ嬢に確認してみるのがいいな」


 指揮官達はヴェルティアとリフィの試合から新たな訓練方法について考えていた。軍の指揮官ともなれば兵士としての能力以外が求められているのである。


 そこに一際大きい歓声が上がった。


「どうしたんだ?」

「皇女様達が出てきたんだって」

「本当か!!」


 ヴェルティア達を一目見ようと兵士達が動き出す。しかしながら一〇〇万もの軍勢であるのですぐに混雑してしまい見ることはかなわないことは誰もがわかっている。だがそれでも一目見たいという気持ちを抑えきれなかったのである。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「皇女殿下!!」

「我らの戦女神!!」


 兵士達の大合唱が始まった。大気を振るわせるほどの大合唱である。


「やぁやぁ、みなさん!!歓声ありがとうございます!!」

『うぉぉぉぉぉぉ!!』


 無駄によい笑顔でヴェルティアが兵士達の歓声に応えると歓声の大きさが一気に跳ね上がった。


「すごい人気ね」


 リフィがヴェルティアへの歓声に少々引きながら言う。


「おお!!魔王様だ!!」

「リフィ嬢だ!!」

「おお!!直に見ると可憐な美少女だぞ!!」

「本当だ!こんなに可憐な少女が皇女様と互角に戦ったのか!!」


 今度はリフィへの称賛の声が上がった。その歓声の大きさに今度はリフィは戸惑った表情を浮かべた。


「えへへ、てれるなぁ」


 リフィは次の瞬間に露骨に嬉しそうな表情を浮かべた。小さな村というよりも三世帯家族で暮らしているので、基本他の人間達と話す経験はあんまりなかったのだ。


「さて、みなさん。気持ちは分かりますがこれより陛下達に報告いたしますので」


 ディアーネの言葉に兵士達が背筋を伸ばして一礼する。


「おい!!道を開けろ!!」

「ディアーネ様のご命令だ!!」

「白バラ様のご命令だ!!道を開けろ!!」


 兵士達の言葉にディアーネも苦笑を浮かべると同時に"白バラ"という言葉に内心首を傾げてた。


「あはは、ごめんね~みんな道を開けてね」


 ユリが言うと今度はまた兵士達が動き出す。


「黒ユリ様のご命令だ!!何をしてるんだ!!」

「道を開けろ!!」

「お通ししろ!!」


 今度はユリが首を傾げる。状況から考えて黒ユリが自分のことであることは分かっているのだが、自分は今まで一度もそのように言われた事はないので首を傾げざるを得ない。


「ねぇ、ヴェルティア?ディアーネさんとユリさんって何者?ひょっとして将軍とかそんな地位の人?」

「うーん、貴族出身なんですけど軍では特別な地位にあるわけではないんですけどね」

「そう?兵隊さん達の態度って明らかに上位者に対するそれよ」

「不思議ですね。まぁこのヴェルティアの専属侍女と護衛武官ですから有名なんでしょう!それはある意味この私の功績とも言えますね」

「うーん、何かそんな感じじゃないのよね。あの二人って何か兵士のみなさん達に神聖視されている感じがするのよね」

「つまり私も神聖視されているというわけですね!! 皆の憧れである以上当然です!!」


 ヴェルティアが高笑いを始めた所でリフィも笑った。


(ヴェルティア様って本当に自己肯定オバケよね。まぁ、あそこまで実力もあり、美しさも兼ね備えてれば普通に自己肯定感もたかまるというものよね)


 クレナは心の中でそんなことを考えながら呟いた。


 道を開けられたヴェルティア達一行は家族の待つ場所へと到着する。


「おお、ヴェルティア!!すばらしい勝負だったぞ」

「お疲れ様」

「お姉様、さすがです」

「おお!! お父様、お母様、レティシア!!どうでしたか?この私の活躍する姿はすばらしかったですか?当然です!!」


 家族との再会にヴェルティアは得意気に言う。


「さて、シルヴィス!! あなたの愛する妻の活躍見ましたか?やはり惚れ直しましたか!?うんうん!!当然です!!」

「まだ何も言ってないんだけどな」

「はっはっはっ!!シルヴィスの本心は私は口に出さなくても理解出来ます!! まさに以心伝心というやつです!!」


 ヴェルティアはシルヴィスに抱きつきながら楽しそうに言う。その楽しそうな表情を見るとシルヴィスも否定する気が無くなってしまう。


「リフィもよくやったぞ」


 マルトの言葉にリフィは嬉しそうに頷いた。


「うん、結果は負けちゃったけど面白かったわ」


 リフィの返答に魔族の六人は満足そうに頷いた。


「あ、そうそう。誰かが宝珠アイガス持ち出した・・・・・みたいだぞ」


 マルトの言葉にその場の空気が凍った。

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