第37話 皇女VS魔王④

「つまり!!ディアーネとユリはここにこれない。そしてリフィは偽魔王と黒騎士を私達にぶつけることができるというわけですね!!」

「そういうこと」

「すばらしい!! この私が罠にはまるなんてそうそうある事ではありません!!そう考えるとリフィは稀代の策士と言えるでしょう!!」

「はっはっはっ!もっと褒めてちょうだい!!」


 ヴェルティアの賛辞にリフィは心から嬉しそうである。


「しかーーし!!、ここであきらめるわけにはいきません!! この不利な状況を覆してこそ、みなさんの憧れであるヴェルティアのすべきことなのです!!」


 ヴェルティアは力強く宣言する。その宣言はどこかズレているようでもあり、どこか真理を衝いているようでもある。


「さすがヴェルティアね!!この不利な状況であっても心折れないどころか微塵も揺るがない!! それともこの有利な状況を覆すための手段があるわけ……」


 リフィの言葉の途中でヴェルティアが動く。一瞬でリフィの間合いに入ったヴェルティアは右拳を放つ。

 凄まじい速度で放たれた右拳をリフィは腕で逸らすとそのまま踏み込んで肘を放つ。ヴェルティアもまた同等の速度で放たれたリフィの肘を屈んで躱すとそのまま逆立ちして蹴りを放った。

 ヴェルティアの蹴りは下方からリフィの頭部を狙ったものであるが、肘を放った直後と言うこともありリフィは大きく避け、そのまま側転で距離をとった。


 互いに一拍置いてそしてニヤリと笑う。


「え?見えなかったんだけど……」


 クレナがボソリと呟いた。クレナもまたこの世界では間違いなく超一流に分類される実力の持ち主であるが、二人の戦いにまったく踏み込める気がしないのだ。


「やっぱりリフィは強いですねぇ」

「ふっふっふっ、いや~ヴェルティアに褒められるとてれるわ」

「やはり、そうなんですね!!いや~リフィを褒めたらてれるということはやはり私という超一流に褒められたからというもの!!つまり!!私も超一流なのです!!」


 ヴェルティアの宣言にリフィも楽しそうに笑った。


(今ならいけるかしら?)


 クレナは自分がやるべきこと・・・・・・を既に見定めている。そのために動こう押した瞬間、押し潰されそうな圧力を感じた。圧力の発信源はもちろんリフィだ。


(ダメ…動けない。動いたらやられる)


 クレナはゴクリと喉をならす。ヴェルティアと戦いながらも周囲に記を配れるだけの余力があることに戦慄せざるを得ない。


「それではこちらも本気を出しましょう!!」


 ヴェルティアはそう言うと拳を大きく振りかぶった。振りかぶった拳がふっと消えるのをクレナは見る。


(え?)


 クレナは自分の動体視力では捕らえきれないと考えたのではあるが、実際そうではないことを次の瞬間にわかった。ヴェルティアの拳が何かの柄を掴んでいるのが見えた。ヴェルティアの手は実際に異空間に突っ込まれていたために実際に消えていたのである。


 バリバリバリバリ!!


 空間にヒビが入り、ヴェルティアが取り出したのは巨大な金属の塊である。その金属の塊は俗に言う"棍棒"というものでああるが、その巨大さは常識を遙かに上回るものであった。何しろヴェルティアの身長の倍はあろうかという長さの金属の塊であり、太さであればヴェルティアの三倍はあろうかという超巨大なものだ。普通の人間ならば十人いても持ち上げることすら叶わないであろう。。


 ヴェルティアの棍棒は空間の壁を砕きながら抜き放たれ黒騎士に直撃した。その威力は凄まじいものであり、一撃で黒騎士はグシャリと砕けてそのまま吹っ飛んだ。


「うそーーーー!!何あれ!?」


 クレナは思わず叫んでしまう。自分の体格を遙かに上回る棍棒の登場は流石に予想外すぎたのである。


「おお!!ついにヴェルティアも本気というわけね!!」


 一方でリフィは嬉しそうに言い放った。


(この二人、やっぱりおかしいわ)


 クレナは自分の身長を遙かに上回る巨大な棍棒を武器として選択したヴェルティアの思考とそれを喜ぶリフィ、空間の壁を破壊して取り出すという離れ業を当たり前のように行ったヴェルティアもそれを当然のことであるとして受け入れてしまっているリフィの態度に"え?それくらいできるでしょ?"というようなリフィの心情を聞かされた気分である。


「ふっふっふっ。どうですか!!どうですか?この"大岩丸だいがんまる"は!!」

「かっこいいわ!!」

「そうでしょう!!そうでしょう!!かっこいいでしょう!!」


 ヴェルティアは大岩丸と名付けられた巨大な棍棒を自慢し、リフィは目をキラキラさせて讃えている。

 巨大な棍棒を自慢し、それを格好良いとキラキラさせるという美少女二人の姿はかなりシュールなものであるが、二人としては何の問題も無いのである。


「さて、大岩丸を手にした私はまさに"皇女に金棒状態"なわけです!!」

「ふ、さすがね本当にまさに皇女に金棒状態!!これは私も本気を出さざるを得ないわ」

「なんとリフィも切り札があるのですか!!」

「もちろんよ!!」


 リフィはそう言うと青い鎧を纏った騎士達が六体現れた。


「おお、今回は青ですか!!」

「ええ、こいつらは魔王の親衛隊という設定なのよ。私の正体がバレてなかったら、この代理者の護衛として戦わせようと思っていたのよ」

「なるほど、ここにきて出すといういうことは間違いなく今までの騎士立ち寄りも強いと言うことですね!!」

「まぁそういうことよ。でもこいつらはそれだけじゃないのよ」

「ほう、それは特殊な能力があるということですか?」

「察しが良いわね。そういうことよ」

「それは楽しみですねぇ」


 ヴェルティアは大岩丸を構えた。


(よし!!今だ!)


 リフィがヴェルティアへの意識を集中させた瞬間にクレナはバックステップして二人から距離をとると一目散にクレナは逃げ出した。


「上手いタイミングね」

「でしょう!!本当にクレナは頼りになります」

「あなたに意識を集中させた瞬間に動くから相当できる娘ね」

「はっはっはっ!!しかしどこに行ったんでしょうね?」

「え?わかってないの?逃げたとかじゃないの?」

「いや~それはないでしょう!!」

「信頼してんのね」

「もちろんです!クレナは自分の出来る事を必死に考えて行動するのです!!」


 ヴェルティアの言葉にリフィは楽しそうに笑った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る