第36話 皇女VS魔王③

「ちょっとヴェルティア様~苦しい!!」


 首筋を掴まれていたクレナがヴェルティアへと救いを求める。


「おお!これは申し訳ありませんでした!私としたことが!!」


 ヴェルティアは素直にクレナに謝罪を行うと手を離した。


「はぁはぁ…危うく死ぬとこでした」

「大丈夫です!! 人はこれくらいじゃ死にません!!クレナも大丈夫だったじゃないですか!」

「私が苦しさを主張しなかったら今頃死んでましたよ」

「はっはっはっ!!クレナは本当に冗談が好きですね~」

「いや、本当のことです……」


 クレナの心からの呟きをヴェルティアはいつものように軽く流す。


「さて、それでは暴れるとしましょう!!」

「え?」


 ヴェルティアの言葉にクレナは素で聞き返してしまう。今までも十分すぎるほど暴れているとクレナは思っていたのだが、ヴェルティアの感覚ではそうではないらしい。


「よーし!!それではいきますよーー!!」


 ヴェルティアは気合いを入れると襲ってきた敵兵の首をむんずと掴むとそのまま壁に向かって投げつけた。


 ドゴォォォ!!


 凄まじい速度で飛んだ敵兵は壁をぶち破った。


「おっ!開きましたね!!行きますよ!!」

「あ、はい」


 ヴェルティアが移動を開始するとクレナもついていく。建物の外に出た二人は、キョロキョロと周囲を見渡した。


「えーと、あそこに行きますよ」


 ヴェルティアが指し示した建物は自分達が出てきた建物の背後に荘厳な建物があった。


「あそこですか?」

「ええ、リフィはあそこにいます」

「やはり、あの荘厳な建物だからですか?」

「リフィ自身は基本贅沢はしないのですけど、こういう遊び・・には本気になるタイプだと思うんです!」

「あー何というか……ヴェルティア様と気が合うのもわかる気がします」

「その通り!! この試合はだからこそ楽しいのです!!」

「はぁ」

「いいですか?これほどの規模の遊び!全力で楽しまなければ損というものです!!はっはっはっ!!さぁクレナもご一緒に!!」

「やりませんよ!」

「ええっ!?どうしてですか!?」

「いや、楽しむ余裕なんてありませんよ。気を抜いたら即あの世行きです」

「なんと!?クレナほどの強者であっても余裕がない。しかし私はある!!やっぱり私優秀ですねぇ~。クレナも私を讃えて良いのですよ!!」

「え…あ、はい。スゴイデスネ」

「そうでしょう!!そうでしょうとも!!はっはっはっ!!」


 ヴェルティアは褒められた事にご満悦である。そこに数十本の矢が二人に降り注いできた。


「おお!?なぜこの場が?」

「間違いなくヴェルティア様の高笑いのせいだと思います」

「なんと!?」


 ヴェルティアは明らかに驚いた表情を浮かべた。


「まぁ、仕方がないですね。行きますよ!!」


 ヴェルティアは腕をぶんぶんと振り回し、襲ってくる敵兵達を殴り飛ばし始めた。


「うーん、純粋な戦闘力で私が役に立つのは不可能ね……私が手助けできるのは別のことね」


 クレナは心の中でずっと思っていたことを口に出した。すると不思議なもので自分がやるべきことが見えてきた気がしたのである。


「取り敢えず。行きますよ!!」

「はい!!」


 ヴェルティアが敵兵達を薙ぎ払いながら突き進みのをクレナはついていく。


「てぇい!!」


 敵兵を蹴散らしながら目的の建物の扉をヴェルティアは気合いを込めて蹴飛ばすと、その威力に耐えかねた扉が弾け飛んだ。


「あれ?この建物って何か他のと違いませんか?外は荘厳ですけど……内部は何というか作りかけというか」


 クレナの疑問にヴェルティアも首を傾げた。確かに今までの建物と違って未完成な印象を二人は受けたのである。


「うーん、ひょっとして時間が足りなかったんでしょうか?」


 クレナの言葉にヴェルティアは納得したように頷いた。


「その線もありますね。あと他にもあります」

「え?」

「リフィとしてはやはり私と戦うことを想定していたと思うんですよ」

「それはそうだと思います」

「私とリフィが戦ったらこの建物って持ちませんよね?」

「だと思います」

「じゃあ、豪華にするとかの完成度を高めてもあんまり意味ないと思いません?」

「逆に言えば…リフィさんはここでヴェルティア様と戦うつもりであると…そしてここにリフィさんはいるというわけですね」


 クレナがポンと手を叩くとヴェルティアもうんうんと頷いた。


「というわけで…」

「え?」

「リフィーーーー!!来ましたよーーーーー!!」

「えええええ!?」


 ヴェルティアのまさかの呼びかけにクレナも驚きの声を上げた。さすがにこんな呼びかけにリフィが応じるとは思わなかったのである。


「もう、雰囲気ぶちこわしじゃない!!」


 そこにリフィが怒って出てくる。


「あ、リフィ!!それでは勝負と行こうではありませんか!!もう準備は良いですか?良いですよね?それじゃあいきますよ!!」

「待った」

「えーーー!?どうしてです?」


 ヴェルティアが露骨に残念がる。


「ふふふ、それはねーー私の策が上手くいったから自慢するためよ!!」

「な、なんと!?リフィの策が上手くいったと言うことは我々は罠にはまったと言うことですか!?」

「その通り!!」


 リフィは腰に手を当てて得意満面の笑顔を浮かべた。


「そ、それで我々は一体どんな罠にかかったというのです!?」

「ふふふ、それは分断よ!!」

「でもディアーネとユリと分断されたとて我々が敗れたと決定したわけではないです」

「それはもちろんよ。でもこれならどう」


 リフィは手を叩くと足下に魔法陣が発生し、偽魔王と近衛の黒騎士が姿を見せた。


「おお、そういうことですか!!」


 ヴェルティアが感嘆の声を上げる。偽魔王はリフィの人形達の仲でもトップクラスのものであるのは間違いない。それがリフィの守護に回れば中々厄介だったのだ。そのためにディアーネとユリの二人で抑えるという作戦をとったのである。だが、ここに偽魔王と黒騎士がいて、ディアーネとユリがいないというのはかなり不利な状況になったと言える。


「しかし、あなたの仲間のディアーネさんとユリさんって本当に強いわね。もう少しで負けるところだったわ」


 リフィは素直にディアーネとユリの強さを褒め称えた。


「うーん、仕方ありませんね!! それでは始めましょう!!」

「そうこなくちゃ!そうそう、ちなみにこの建物は結界で覆っているからあの二人もそうそう入ってこれないわよ」

「なんと!! そこまで考えてましたか!! やりますねぇ!!」


 ヴェルティアは嬉しそうに言った。

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