第35話 皇女VS魔王②

「わわわ!!」


 クレナは背後から次々と飛んでくる矢を防ぎながら背後から襲ってくる敵兵の対応を行う。


「ここに近づく敵兵を食い止めなさい!!」


 クレナは人形を作ると門に一列に並べて敵兵を迎え撃つ。


「えーと、ヴェルティア様は…ってもうあんなところ!?」


 クレナが再び進行方向へと目線を向けた時にはヴェルティアは既に遙かに前進していた。というよりもヴェルティアが強すぎて敵兵達がまったく相手になっていないのである。そしていつの間にかディアーネとユリもヴェルティアに合流している。


「えーー!?いつの間に」


 クレナが壁上を見ると既に敵兵達はいなかった。どうやらディアーネとユリがすべて斃したらしい。


 一瞬であるがクレナが呆けた所にディアーネと目が合った。その瞬間にクレナの前身から冷たい汗が噴き出した。


「や、やばい!! 急がないと!!」


 クレナは腰に差した双剣を抜き放つとヴェルティア達に追いつくために駆け出した。ディアーネにサボったと思われればどのような説教が待ってるか分かったものではない。


「うー超人を基準にしないでほしいわ。私は人間に過ぎないんだから!!」


 このクレナのぼやきはシルヴィスの術を通してアインゼス竜皇国軍の将兵達のもとに届けられ、将兵間で共感の嵐が吹き荒れている事をクレナは知るよしもない。


「てぇい!!」


 ヴェルティアは襲ってくる敵兵をまとめて薙ぎ払った。一気に数十体の敵兵が吹き飛ぶと壁にぶつかって塵となって消えていった。


「ヴェルティア様、あそこに向かいましょう」


 クレナが合流したところでディアーネが指し示した所は中央の建物の入り口である。屋外で戦うのは圧倒的に不利なのである。


「そうですね。一呼吸入れるとしましょう!!」


 ディアーネの提案をヴェルティアは即座に受け入れた。


(私のため……よね?)


 クレナはディアーネの提案が自分のためのものであることを即座に悟った。なぜならヴェルティア達三人は息一つ乱してる様子はない。クレナも限界にはほど遠く余力は十分にある。だが、息が上がり始めているというのも事実である。


「それじゃあ、行きますよ!!」


 ヴェルティアは建物へ向かって突き進む。敵兵達は一瞬もヴェルティアを止めることは出来ない。


「そろそろ、何か仕掛けてくるはずよね」

「ああ、お嬢にとって、この敵兵達はたとえ何万人がかかってきても消耗しないことはリフィさんも分かっただろうからな」

「となると……普通に考えて私達の分断かしら」

「その線が濃厚だよな。あとは罠かな」


 ディアーネとユリはヴェルティアの両隣をフォローしながら言葉を交わす。


「入りますよ」


 ヴェルティアは扉を蹴破ると建物の中に入る。中に入った瞬間に敵兵達が相当数いたが数秒後にはすべてヴェルティアにより駆逐された。


「クレナ。扉を閉じて人形達に抑えさせなさい」」

「は、はい!!」


 ディアーネの命令をクレナは即座に実行する、生み出した人形達が扉を抑えると取り敢えず一息をつくことができた。


「ふぅ…」


 クレナが息を吐き出す。ドンドンと扉にぶつかる音がするが、クレナの人形が抑えているので破られる様子はない。


「ヴェルティア様、あそこの部屋に。見つかるまで少し時間が稼げると思います」

「うーん、あそこよりあっちの部屋がよさそうです」

「承知しました」


 ディアーネはあっさりとヴェルティアの言に従った。これは盲従したわけではなく、ヴェルティアの野生の勘を信頼してのことである。ヴェルティアは集中時には妙な勘を発揮して罠などを避けるのである。そのことを知っているディアーネとすれば反対する理由などないのである。


「たのもーーーー!!」


 ヴェルティアは勢いよく扉を開けるとそこはそれなりの広さの部屋であった。


「さて、一息入れましょう」


 ヴェルティアの言葉に全員が頷くと亜空間から取り出した水筒の水を口に含んだ。


「これからどうするんです?」


 クレナの問いかけにヴェルティアは即座に答える。


「もちろん、リフィを探します。リフィはおそらく私達を分断する作戦に出ると思うんです。そうなるとこちらとすればそれに乗ろうと思います」

「え?」

「そうですよ。リフィが求めているのは私との勝負です。そのために邪魔なのはディアーネ、ユリ、クレナです。だから分断にのります」

「な、なるほど」


 ヴェルティアあの言葉にクレナは納得の声をあげる。だが、自分がディアーネとユリと同格とはとても思えないのである。あまりにも実力差がありすぎるからだ。


 ドン!!


 ヴェルティアが言い終わった瞬間に扉が蹴破られそうになったが、ディアーネが即座に斧槍ハルバートの柄で止めた。


「はい、それじゃあ休憩終わりです!!ディアーネ、ユリこれから大物が来るでしょうから頼みますよ」

「お任せください」

「こっちは任せてくれ」

「クレナは私と共に来てもらいますよ」

「えぇ!?」


 ヴェルティアの言葉にクレナはあり得ないほど狼狽した。ヴェルティアと共に行くということはリフィという魔王との戦いに巻き込まれる事を意味するからである。


 シュンシュシュシュン!!


 その時、扉が切り刻まれ細切れになって崩れ去るとそこにはリフィが操っていた偽魔王とその近衛の黒騎士がいた。


「ヴェルティア様、ここは我々にお任せください」

「お嬢、ここは私達に任せてくれ」


 ディアーネとユリが偽魔王と近衛に相対する。


「それじゃあ、頼みますよ!!」


 ヴェルティアは二人に声をかけると壁を思い切り殴りつけた。ただの一撃で壁が吹き飛ぶとクレナの首をむんずと掴みそのままヴェルティアは部屋の外に出た。


 偽魔王がヴェルティアを追いかけたが、ディアーネの斧槍ハルバートの一閃に飛び退く。


「さて、やるわよ」

「ああ、流石にこいつ以上の人形はないだろうからここで叩かないとな」


 ディアーネとユリは構えをとった。


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