第34話 皇女VS魔王①
「これはこれはみなさん初めまして」
マルトがニコニコしながらアインゼス竜皇国の面々を出迎えた。
「こちらこそ、わがままを聞いていただきありがとうございます」
シャリアスもまたニコニコとしながらマルト達へと返す。シャリアスがわがままと言ったのは、アインゼス竜皇国軍一〇〇万を受け入れてくれたことである。普通に考えて一〇〇万もの大軍を自分達の領域に入れて不安にならないわけはない。
「いえいえ、我々も楽しみな一戦ですからね」
「そうですな。みなさんは相当な腕前、当然ながら娘さんの腕前もわかるというものです」
「それはこちらも同じ事です。みなさんの飛び抜けて強い方がおりますな。ヴェルティアさんの互角な方々がこんなにいるなんて世界は広いものです」
シャリアスとマルトはそう言って互いに笑った。互いに絶対的な実力者である事をこの段階で察しているのだ。
その後、両陣営は互いに自己紹介を行った。
自己紹介が終わったところで、シャリアスが高級士官達に兵達を休ませ、酒や料理を振る舞うように指示を出す。アインゼス竜皇国軍は現在シュレーゼント王国を滅ぼした後にわずか十日で七国を滅亡させており、久しぶりの休息なのだ。
「それでは敵が来たときのためにと」
アルティミアはそういうと竜皇国軍を守るために巨大な結界を張った。これだけの広範囲を覆う結界を張ることはシルヴィスであっても不可能である。
「あらあら、アルティミアさんの結界はすばらしいわね。これほどの広範囲の結界をあっさりと張れるのはすごいわ」
ミューレイの称賛にアルティミアは嬉しそうな表情を浮かべた。
「そうね。客人ばかりにやらせるのは恥ずかしいからミューレイも張っておきなさい」
「はい」
エルマースの言葉にミューレイも即座に返答した。
「えい!!」
ミューレイはかけ声をかけるとアルティミアの張った結界を覆うようにもう一つ結界を張った。
「あら?珍しい結界ですね」
「おわかりになられました!! これはあらゆる攻撃を跳ね返す"
「それはすごいです!!術だけでなく物理攻撃であってもはじくことができるなんて!!」
「何を言っているんですか!!アルティミアさんの張った結界の精巧さ!!純粋にこれを破るにはそれ以上の衝撃で打ち破るしかない。しかし、この強固さを考えればその衝撃力を生み出すことは事実上不可能です」
アルティミアとミューレイはお互いの技術に惜しみない称賛をおくるこの二人にしてみれば自分以外にこれほどの結界を張ることの出来る能力の持ち主に会ったことがないのである。
「うむ、これで大丈夫だな。将兵達に警戒を解くように伝えてくれ。お前達もこのイベントを楽しむがいい」
「はっ!! ありがとうございます!!」
シャリアスの言葉に高級士官達は嬉しそうに礼を言って下がっていった。
「ヴェルティア、リフィさん、勝負開始はもう少し待ってくれないか。今調理係が食事を作ってるんだ」
『わかりました!!』
『私も構わないです。準備が出来たら教えてください』
「わかった。ありがとう」
シャリアスは二人に了解をとると今度は全将兵に向けて言葉を発する。
「シャリアスである。各将兵に食事と酒が行き渡り次第、ヴェルティアとこの世界の魔王であるリゼルフィア殿との試合が始まる。日頃の連戦に疲労が溜まっていることだろう。既に全将兵を結界で守っている。外敵の心配など無用だ。鋭気を養ってくれ」
シャリアスの言葉に将兵達のあいだから歓声が上がった。一〇〇万の大軍の歓声は大気を振るわせた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うう……どうしてこんなことに」
クレナが小さくぼやいた。超人達の戦いに巻き込まれる己の不運を嘆いているのだ。もちろんクレナも自分の実力が低いとは思っていない。この世界では上澄みの部類に入ると自覚はしているのだが、それもヴェルティア達という超人に比較すれば弱者も弱者だ。
「はっはっはっ!! 浮かない顔をしてどうしました?」
「ヴェルティア様、私なんて何のお役にも立たないですよ」
「大丈夫です!!私が保証します!!クレナは絶対に役に立ちます」
「無理ですよ」
クレナのぼやきを止めたのはディアーネである。
「クレナ、ヴェルティア様のお言葉に異を唱えるその意味をきちんと理解しているのでしょうね?」
「ひぃ!!とんでもありません!!」
ディアーネの言葉にクレナは即座に気をつけの姿勢をとる。
「クレナ、ヴェルティア様が走れと言ったら?」
「どこまでですか!!」
「ヴェルティア様が飛べと言ったら?」
「どの高さまでですか!!」
「今後もその精神を忘れないように」
「しょ、承知しました!!ご指導ありがとうございます!!」
クレナはディアーネにそういうと深々と頭を下げた。完全に軍隊の情感と部下の関係そのものである。
「まぁ、クレナが不安がるのはわかるけどさ、もう少し肩の力を抜けって」
「ユリシュナ様」
「そもそもリフィさんが殺すまでやるわけないって」
(そりゃ、お三方はそうでしょうけど私は超人じゃないんですよ)
「そう不服そうな顔をするなって」
ユリが苦笑しながらクレナに言う。クレナはユリの言葉に身を振るわせた。ユリはディアーネと違って脅すような態度をとることはない。だが、ヴェルティアに害を及ぼそうとする場合には一切の容赦をするようなことはない事も理解している。
「はっはっはっ!!うんうん、我々のチームワークでこの試合勝ちましょう!!」
「お任せください!!」
「了解!!」
「が、がっがんばります!!」
ドーーン!! ドーーーン!!
クレナが言ったところで、合図の花火が上がった。
城壁の上の兵士達が一斉に弓を番え、躊躇いもなく放つ。数百本の矢が一斉に四人に降り注いだ。
「くっ!!みんなをガード!!」
クレナが魔術で人形を作り出す。生み出された人形は巨大な盾をもっており、人形達はヴェルティア達の周囲に立ち降り注ぐ矢を受け止めた。
盾に突き刺さった矢は十秒ほどすると塵となって消え失せた。どうやらこの矢は魔力を物質化したもののようである。
「よし、いきますよ!!ディアーネは左からユリは右から壁上の敵兵を倒してください」
「はっ!!」
「了解!!まかせてくれ!!」
「クレナは人形を出して背後を守ってください」
「え?あ、はい了解しました!!」
ヴェルティアが指示をだすと駆け出した。ほぼ一瞬で二百メートル程の距離を突き進むと門の前に到着した。ヴェルティアはそのままの勢いで門に体当たりをする。
ドゴォォォ!!
ヴェルティアの一撃で門は大きくひしゃげたが、まだ辛うじて耐えている。
ヴェルティアが門に体当たりすると同時にディアーネとユリが壁を一気に駆け上っていく。敵兵達は二人が駆け上ると同時に弓を捨て、一斉に抜刀して二人に斬りかかってきた。
ディアーネの
「よーし、それでは破りますよぉぉぉ!!」
ヴェルティアは拳に魔力を込めるとそのまま容赦なく門に放った。破城槌よりも遙かに威力のある拳に門は耐えかねて弾け飛んだ。
するとその眼前に弓兵が弓を番えて待ち構えており一斉に放ってきた。
「くっ!ヴェルティア様をガード!!」
クレナの人形が盾を構えて矢を受け止めた。その時、背後に備えていた人形達の盾に矢が次々と突き刺さった。
「え?背後から」
クレナが後ろを見ると背後に数百体の敵兵が展開されていた。
「おお、最初から背後を取ってきましたか!! やりますね!! まぁこういうときはこれに限ります!!」
ヴェルティアは弾け飛んだ門の片方を取り外すとそのまま前方に置いて矢避けにするとそのまま双掌打で門を押すと、門は凄まじい速度で敵兵達にぶち当たり敵兵達を吹き飛ばした。
「え~なんてインチキ」
クレナの呟きを責めるものは誰もいなかった。
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