第33話 挑戦状
五日が過ぎ、ヴェルティア達は"ティフィンガルド"へ向かって出発した。マルト達の情報でティフィンガルドは徒歩で五日の距離であるということで五日目で出発したのである。
道中は平和そのものであり、ヴェルティア達はただの一度も戦闘行為を行うことはなく無事にティフィンガルドへと到着した。
「ほう、これは立派な城郭都市だな」
シルヴィスがティフィンガルドの感想を言う。シルヴィスの言ったとおり、ティフィンガルドは急ごしらえの都市であるはずなのに、立派な城郭都市であった。
黒色の城壁にぐるりと囲まれた荘厳な城郭都市であるというのが見た者の正直な感想だ。
「これだけの城郭都市を突貫工事であったとしてもわずか十日前後で作り上げるのはすごいですね」
ディアーネの言葉にユリも頷いた。
「それでは……」
ヴェルティアが門の前まできたところで大きく息を吸い込んだ。
「こんにちはーーーーーーーーーーーーー!!ヴェルティアでーーーーーす!!勝負しに来ましたーーーー!!」
ヴェルティアの呼びかけに門の上から数十人の人影が見えた。全員が武装しており友好的な雰囲気は一切放っていない。
「恥知らずの侵略者共よ。このティフィンガルドは決して
指揮官らしき人影が宣戦布告を告げてきた。
「どうやら、ここで一戦交えないといけないという考えみたいだな」
シルヴィスの言葉にディアーネとユリも頷く。そしてクレナ達も戦闘が行われるということで一気に緊張が高まった。
「リフィーーーーーー!! 挑戦状を持ってきましたよーーー!! 開けてくださーーーーーーーい!!」
そこに空気を読まないことには定評のあるヴェルティアが大音量で叫ぶ。
ヴェルティアの言葉に門の上の者達は明らかに慌てているようであった。
「どうしたんですかーーーーーーー!! 早く勝負しましょう!!」
ヴェルティアのさらなる追い打ちに門の上の者達が頭を抱えて蹲ってしまった。どうやらリフィが操作しているようで、すでに自分が死んでいないことが知れ渡っていることの羞恥にもだえ苦しんでいるようである。
「気の毒に……」
「ええ……」
「お嬢に悪気がないのがまた……」
シルヴィス達三人の言葉にはリフィへの同情があった。
「わーーーーー!! わーーーーーー!! ちょっとなんでバレてるのよ!!」
そうすると門の上に一人の魔族の少女が現れるとヴェルティアへ抗議を行う。
「あーーー!!リフィーーー!!ここですよーーー!!」
ヴェルティアはぶんぶんとリフィへ手を振って呼びかけた。
「あーーーもう!!」
リフィは門の上からフッと飛び降りた。リフィはフワリとヴェルティアの目に着地する。
「さぁ、リフィ!!挑戦状です!!受け取ってください!!」
ヴェルティアはリフィに懐から取り出した手紙を手渡した。不満気な表情を浮かべたリフィが手紙を読み始めると途端に顔をしかめた。
「ねぇ、読めないんだけど」
リフィの言葉にヴェルティアは首を傾げた。
「おい、お前まさかアインゼス語で挑戦状書いたのか?」
「もちろんです!!」
シルヴィスの問いかけにヴェルティアは元気よく答えた。その返答にシルヴィスはペチィとヴェルティアの額をはたいた。
「お前、アインゼス語をこの世界の人達が読めるわけ無いだろ」
「はっ!!」
「取り敢えず無礼を謝罪しろ」
「リフィ!!申し訳ありませんでした!!」
シルヴィスの言葉にヴェルティアは素直に謝罪する。この辺りの素直さはヴェルティアの美徳である事は間違いない。
「あ、いや、いいんだけど。これなんて書いてるの?」
リフィは挑戦状をヴェルティアに手渡した。受け取ったヴェルティアは挑戦状を読み上げる。
「『挑戦状!! リゼルフィア=アリテミュラ殿!! このヴェルティアと一戦交えましょう!!』以上です!!」
「すごいシンプルだった」
「それで返事は?」
「もちろん受けた……なんだけどヴェルティアはどうして私が生きてると思ったの?もしかしてパパやママ、おじいちゃん、おばあちゃん達が口をすべらしたの?」
リフィが言い終わると同時に魔法陣が現れ、そこからマルト達六人が姿を見せた。
「普通にヴェルちゃんはリフィが入れ替わったことに気付いてたわよ」
「え~本当に?パパやママがバラしたんじゃないの?」
「そんなことしないわよ。まったくもう少し親を信じなさい」
「じゃあ、どうして私に教えてくれなかったのよ」
「今日は良い天気ね~」
「あーーーーママやっぱり楽しんでたんだ!!ひどーい!!」
「だって久しぶりにこんな楽しいお客さんがくるんだもの。楽しまなきゃ損よ」
リフィと母ミューレイの会話はとてもこの世界有数の実力者の会話ではない。ありふれた親子の会話である。
「ではリフィ!!やるとしましょう!!」
ヴェルティアが胸の前で両拳をぶつけた。
「うーん、ちょっと待って」
「えええ!?どうしてですか?」
「えっとさぁ、私これ作るの結構苦労したのよ」
リフィは視線をティフィンガルドへと視線を向けた。
「私としてはその都市攻防戦というやつをやってみたかったのよ」
「なるほど……一理ありますね。普通に闘技場で戦うと言うのも面白いですけど、こちらの
「でしょ!!でしょ!! せっかく作ったんだから楽しんでもらいたいじゃない!!」
「でも、ここに傭兵のみなさんを投入するというのも違う感じなんですよね」
「そうね。下手したら死んじゃうものね」
「そうなんです!! そこで私とシルヴィスとディアーネ、ユリの四人でここの都市の攻撃を行いたいと思います!」
ヴェルティアの提案にリフィは納得の表情を浮かべかけたところで待ったの声がかかる。
「俺が入るとバランスが壊れるぞ」
待ったの言葉はシルヴィスからであった。シルヴィスの見立てでは、ヴェルティアとリフィの実力は互角である。そこにシルヴィスが入ってしまえば間違いなく余裕でヴェルティア側が勝ってしまう。もちろんこれが戦争であれば躊躇無く参戦するのだが、これはヴェルティアとリフィの試合である以上ゲームバランスを壊すべきではないと思ったのだ。
「あー確かにあなたってヴェルティアと同レベルね。さすがに私もあなた達二人を一度に相手取るのは不可能よ。一人変えてもらえない?」
「それならクレナですね」
「えええええええええ!!」
急遽名指しされたクレナが叫んだ。クレナにしてみれば蟻が巨人の遊技場に放たれるようなものであり、踏み潰される未来しか見えない。
「クレナなら大丈夫です!!」
「まぁクレナなら死ぬことはないわね」
「ああ、お嬢も中々良い人選をしたね」
「え?ちょっと」
クレナは顔を青くして救いを求めて周囲を見渡した。魔族六人はニッコリ無駄に良い笑顔でサムズアップ、傭兵達は同情心をたっぷりふくんだ視線、シルヴィスはまぁ大丈夫だろうという表情である。
「いやー楽しくなってきました。それでルールはどうします?」
「そうね。降参した方が負けでいいんじゃない」
「なるほどそれはシンプルで良いですね」
「じゃそれで」
ヴェルティアとリフィの取り決めは限り無く緩い。取り決めが緩いと言うことはそれだけ取るべき手段が増えると言うことである。
「あ、そうだ。これから見物人が来るんだけど待ってもらっていいかな?」
シルヴィスの言葉にヴェルティアもリフィも頷いた。
「よかった。それで見物人達が見えないと面白くないから、ヴェルティア、ディアーネさん、ユリさん、クレナさんの目に術をかけさせて欲しい」
「目に術ですか?」
「ああ、四人の視界を投影するんだ。そうすればリフィさんの方の陣営がどのような配置になっているかはお前が見ない限りわからない」
「なるほど!!それなら場内での私達の戦い振りもわかりますね」
「そういうことだ」
シルヴィスの言葉にヴェルティア達は理解を示すとシルヴィスは即座に四人に術をかける。
「よーし、それじゃあ私は迎撃の準備をするわ。あ、それから一〇〇万人も集まるのだけど時間ものすごくかからない?」
「その辺は大丈夫です!!シルヴィスが何とかします!」
「了解~それじゃあ、準備できたら合図してね」
「わかりました!!」
リフィはフッと姿を消した。
それからⅠ時間後に転移門を通ってアインゼス竜皇国軍一〇〇万が姿を見せた。
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