第31話 閑話 ~シュレーゼント王国最後の王妃が処刑されるまで②~

「陛下、シュレーゼント王国の王妃を捕らえたとのことでございます」


 報告を受けたシャリアスは静かに頷いた。


「そうか。連れてきてくれ」

「御意」


 シャリアスの命令を受けて部下が下がる。


「本当にうちの兵達は優秀ね」

「ああ、利用価値があるかどうか決断してくれということだろうな」

「それで、どうするのです?」

「基本は殺すだ。生かしておく理由はないからな。だが、他に使い途があるなら生かしておいても良い」

「あらあら」


 アルティミアは苦笑交じりに言う。シャリアスのいう"使い途がある"というのは、アインゼス竜皇国の重鎮レベルの能力が必要なのだ。つまり、事実上不可能なのだ。


「陛下連れてきました」

「ご苦労」


 シャリアスの言葉に、兵士が王妃を連れてきた。


「アインゼス竜皇国、竜帝シャリアス、こちらはあ我が妻である竜妃アルティミアだ」


 シャリアスの言葉に王妃はゴクリと喉をならした。ここまで連れてこられる間に王城での死体を見ており、王妃とすれば恐ろしくて仕方が無いのである。


「はじめて御意を得ます。シュレーゼント王国王妃である、レイリアス=シシアン=シュレイゼスにございます」


 王妃はシャリアスとアルティミアへ名乗ると一礼する。


「まず、アインゼス竜皇国がこのような暴挙に出た理由をお答え願えますか?」


 王妃は怒りを込めた声で二人へ尋ねる。


「簡単な事だ。シュレーゼント王国が気に入らんから滅ぼしただけのことだ」

「え?」


 シャリアスの返答に王妃は二の句が継げなかった。てっきり先程の宣言通り、ヴェルティアへの加害行為への報復である事を言うと思っていたのだが、虚を衝かれた形である。


(あらあら、この程度の揺さぶりに虚を衝かれるなんて落第ね)


 アルテミュラは心の中でそう結論づける。そしてこの段階で王妃の命運は尽きたと言っても過言ではない。


「貴様等はアインゼス竜皇国に喧嘩を売ってきた。我々はそれを買っただけのことだ。その結果お前達が敗れ滅び去る。それだけのことだ」

「あ、あなたは民を苦しめることに罪悪感はないのですか!!」

「ない」

「う……」

「どうした?お前らが異世界人を人間扱いしなかったように我々もお前達を人間扱いしない。それの何が悪い?まさか自分達は許されるが我々には許されないと本気で思っているのか?ん?」


 シャリアスの念押しに王妃は言葉を紡ぎ出すことができない。


「そ、それは……」


 王妃の言葉を受けてシャリアスはニヤリと嗤う。その嗤みに王妃はあからさまに怯えた表情を浮かべた。


「魔族の方々は別にお前達に興味は無いぞ」

「え?」

「娘からの情報でな。お前達が神と共謀して拉致して送り込んだ異世界人達を殺すことなく、土地を与えてそこで暮らしているそうだ」

「な…」

「お前達は魔族の方々をどのような存在と考えていたんだ?お前達が無礼な事をしても許してくれていた寛大な方々だ。お前達はその寛大さに甘えていただけだ」

「そ、そんなことはありません!!我々は世界の平和のために」

「世界の平和を乱しているのはお前・・だ」


 シャリアスは敢えて"お前"という表現を使う。


「な、なぜ……私なの?」

「お前には決定権があるからだ」

「私が決めた事ではないわ!!」

「決定権を持っていることには変わりない。今回のシュレーゼント王国の行動にお前は決定権を持っている以上、お前を処刑・・する」

「な…」


 シャリアスの口から無慈悲な言葉が発せられた瞬間に騎士が王妃を取り押さえた。


「ひ……」

「王妃であったということで使えるかと思ったがまったく及第点に達しなかった。生かしておく理由はない」

「ま、待って」

「お前はこう主張しようとしたのだろう?」

「え?」

「民に犠牲が出たことを理由にして我らの行動を悪とすることで交渉のきっかけにしようとした。その上で自分を生かしておくことでシュレーゼント王国の支配権の正当性を与えることで生き残ろうとしたというところだろう?」

「……」


 シャリアスの言葉に王妃は答えることができない。捕まりシャリアス達の目の前に引きづり出されるまでの間に王妃が考えた筋書き通りだったからだ。


「興ざめだな。お前の夫も教皇も同じ事を言っていたぞ。我らは別にシュレーゼント王国の支配など考えていない。こんな三流国を支配したところで何の意味も無いからな」


 シャリアスの言葉に王妃は沈黙せざるを得ない。


「二度と異世界人を拉致などというふざけたことを考えないように支配者層・・・・は根絶やしにしておかねばな」

「ひ」

「さて、話は終わりだ。お前が役に立つ人材であれば生かしておこうとも思ったが、そのような人材ではなかったようだ」

「ま…」


 シャリアスの宣言に王妃は頭が真っ白になった。自分はこれで終わりなのか?理不尽な圧倒的な力の前に押し流されるしかないのか?次々と浮かんでは理不尽に対する怒りが湧き出るが、それ以上に絶望が浮かんでくる。


「お待ちください」


 そこにアルティミアが声を発した。その声にシャリアスは視線を向ける。


「始末は私がつけましょう。王妃の立場ですので、死は免れませんがせめて苦痛は最小限に」


 アルティミアがパチンと指を鳴らした瞬間に王妃の力が抜けた。


「王妃は死んだ。あとは斬首して晒しておけ」

「御意」


 シャリアスの言葉を受けた騎士達が既に亡骸となった王妃の死体を引きずっていった。


「随分優しいな」

「ええ、国王ほどの罪はないと判断しましたゆえ」

「ふ、我が細君は慈愛に溢れてるな」

「ふふ」


 二人はそう言って笑うと次の侵攻先を選出する。


 二人の頭赤等は既に王妃の事は過去の出来事となっていた。

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