第29話 シュレーゼント王国滅亡

 シルヴィスとわかれたアインゼス竜皇国軍一〇〇万はシュレーゼント王国の王都を目指し進軍している。その途中にある貴族の領地は文字通り粉砕された。庶民にほとんど被害はなかったが貴族の関係者は容赦なく殺されている。

 アインゼス竜皇国軍の奔流は容赦なくシュレーゼント王国の支配者層を押し流し、踏み潰していった。その際にインフラなども踏み潰したために後に残った領民達も相当な苦労を背負い込むことになるのであるが、そんなことはアインゼス竜皇国にとって知ったことではない。

 自国の皇女を拉致し、本来自分達がやらればならないはずの魔族との戦いを皇女に押しつけるという無礼千万なことをしておいて被害者面するような連中の今後を心配してやる義理などないのである。


 アインゼス竜皇国軍はわずか二日で王都へ到達した。突如現れた大軍団に王都の民達は次々と逃げ出していくが、既に竜皇国軍は王都へ通じるありとあらゆる道を封鎖しており、貴族の関係者であることが分かった段階で処刑された。この措置に全員が震え上がる。突如現れた大軍団がどうして貴族達だけ処刑するのか理解の外であるのだ。


「アインゼス竜皇国竜帝シャリアスである」


 その時、王都の住民の耳にシャリアスの言葉が響く。全員がその威厳ある声に背筋が伸びる思いである。


「貴様等シュレーゼント王国とキルミュリス教団は共謀して我が国の皇女であるヴェルティアを卑怯にも拉致し魔王との戦いを強いている」


 シャリアスの宣言にビクリとして周囲の者達の表情を確認し合う。


「お前達は本来は自分達がやらねばならぬ事を拉致した我が娘に押しつけた。しかも、意気揚々と出陣しておきながら我が娘だけを魔族の世界を送り込んだ」


 次いでもたらされた情報に王都の住民達はさすがに驚く。王都の住民は国王、王太子、教皇をはじめとした国や教団のトップが参加しているのだから、当然ヴェルティア達と同様に討伐に向かっていると思っていたのだ。


「このような卑劣な事を恥ずかしげもやるのが貴様等だ。国王、教皇を初めとした討伐軍はすでに粛正済み・・・・だ」


 さらにもたらされた情報に住民達は顔を青くした。これは自分達の指導者を失った悲哀だけではない。自分達のこの苦難を救うための依り代がいないことを嘆いているのである。


「お前達は調子に乗りすぎた」


 そして、シャリアスから決定的な宣言が為された。


「お前達は遊び感覚で異世界から無関係の者を拉致し勇者だなどと祭り上げて死地に向かわせた。そしてその醜悪さをまったく理解していない。唾棄すべき者達だ。お前達の中の一人でも異世界から拉致してきた無関係の者達に死地に向かわせる事を恥じたり、罪悪感を覚えた者達がいたか?いないであろう。貴様等が拉致してきた者達にも家族がいた。友もいた。年老いた親がいたかも知れない。幼子がいたかもしれない。奪われた者達の哀しみに思いをはせた者達が貴様等の中に一人でもいたのか?クズ共め!お前達が生きている限りこれからも異世界人を拉致し続けるだるう。だからお前達を滅ぼす」


 シャリアスの宣言に震え上がった。話の内容ではないシャリアスの声に含まれる激情に震え上がったのである。


「今回、皆殺しにするのは貴族階級や公権力に携わる者共とその家族だ。貴様等は異世界人を拉致を止める立場であったとみなす・・・。それ以外の者共は粛正の対象としてやろう。ただし保護もせぬ。勝手に生きるがいい、のたれ死ぬならのたれ死ね」


 シャリアスの言葉にほっとした表情を浮かべたのは一般市民である。少なくとも今回殺されることはないという安堵があったのである。


「さぁ、道を開けろ!! 俺は貴族でも役人でも何でも無い!!助けるといったはずだ!!通せ!!」


 一人の男がアインゼス竜皇国の兵士達に得意気に言い放った。どうやら先程のシャリアスの言葉を拡大解釈したようで自分を殺せない・・・・と勘違いしたのである。


「そうよ!!道を開けなさいよ!!侵略者!!」

「そうだ!!どけぇ!!」


 男の言葉に勘違いした者達が兵士にくってかかった。


 シュン!!


 指揮官の剣が一閃され、くってかかった男の胴が両断された。それを皮切りに兵士達がくってかかった者達に容赦なく槍と突き立てていった。そこに老若男女の区別はない。この苛烈な処置に住民達は一気に静かになった。


「もう騒がんのか?」


 指揮官の言葉に住民達は言葉を発することができない。立った今、命の安全性が確保されたと思ったらこれである。


「お前達は完全に勘違いしている。陛下は"保護もせぬ"といったではないか。貴様等の生殺与奪を誰が握っているかを確認して言動には気を付けるべきではないか?」


 指揮官の言葉に住民達はゴクリと喉を鳴らした。


「クズ共め、我らがお前達を殺すのに躊躇うとどうして思えるのだ?陛下が粛正の対象外としたのは人道的な考えからではない。お前達などどうでも良い・・・・・・のだよ。先程の陛下のお言葉を貴様等は勝手に解釈したようだな。ああ、勝手に解釈すれば良い。だがわれらがそれに従ってやる義理はない」


 指揮官の言葉に住民達はガタガタと震えその場に蹲ってしまった。その様子は奴隷が主人に慈悲を抗す姿そのものであった。

 そして至る所で似たような事例が続出し、多くの勘違いした者達が処刑された。


 このような状況では戦争になるわけはない。


 結局一戦もすることなくシュレーゼント王国の王都は陥落し、王妃を初めとした王族、貴族達は即座に処刑された。


 人族の中でも大国に位置づけられていたシュレーゼント王国はその歴史の幕を閉じたのである。

 

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