第28話 シルヴィスと魔族達の邂逅

 ヴェルティアから自分の夫であると紹介されたシルヴィスへのクレナや傭兵達の反応は好意的なものであった。これはヴェルティアが傭兵達にとって気前の良い雇い主であり、加えて自分達を対等に扱うこと、そしてヴェルティアという規格外の実力者への尊敬の念が理由である。

 ヴェルティアはシルヴィスと合流する前までに自分の夫であるシルヴィスのすごさを語ったことで元々の評価が高かったのである。


 そして魔族の領域に入った早々に、ヴェルティアと魔王の人形との戦いを見てその実力の規格外さがより際立ち、そのヴェルティアの夫であるシルヴィスに対して"あのヴェルティア様と結婚しているとんでもない人がいる"という評価になったのはそう不思議な事ではないかも知れない。


 ある意味、ヴェルティアへの誹謗中傷とも言えるのではあるが、クレナ達にしてみれば本気でそう考えている。それはアインゼス竜皇国の民達でも同じであることを考えれば彼らの考えは普通の反応なのかも知れない。


 またシルヴィスも礼儀正しく人に接するし理由無く他者を見下すことはしない。シルヴィスが塩対応するのは基本的に相手が無礼な態度で見下してくるような事をしたような場合である。


 傭兵達への挨拶を終えたシルヴィスは続いて魔族達に会いに行くことになった。


「お~ヴェルティアさん、その人が旦那さん?」


 和やかに声をかけてきたのは現魔王リフィの父親であるマルトである。この人物は大ざっぱな性格をしている人物であり、少々の事であれば笑って許すタイプである。


「はい!! 私の夫であるシルヴィスです!!」

「お~中々の男前じゃないか。ヴェルティアさんもいい男を旦那さんにしたね」

「はい!!いや~てれますねぇ。やはり私のような完璧な淑女にはシルヴィスのような立派な夫が似合うのです!!」


 ヴェルティアは誇らしげに言うとマルトも楽しそうに笑った。


「おい、ちゃんと紹介しろって俺はこの方達と初対面なんだぞ」

「おおっ!!そうでした。私としたことがやはりシルヴィスに久しぶりに会えたことで私は相当浮ついているようです!!やはり愛というのは人を狂わせるものです」

「さりげなく愛のせいにするな。お前はいつものことだろうが」

「てれないでくださいよ~はっはっはっ!!」

「黙れ」

「いひゃいれす」


 シルヴィスがヴェルティアの頬をいつものように摘まむとこれまたいつものようなヴェルティアの反応であった。


「ははは、これはこれは仲の良いところを見せつけられたな。お~い、ミューレイ」

「やりませんよ」

「えええっ!!」


 マルトとその妻のミューレイが変なやりとりをしていた。


「なんと!!ミューレイさん!このようなやりとりを何故避けるのです?」


 ヴェルティアが心の底から不思議そうに尋ねた。


「ふふふ、ヴェルちゃん、甘いわね」

「なんと!?私が甘いですか?」

「こういう風にじらすことで二人きりの時に甘えると効果が倍増するのよ!!」

「おお!! そのような意図があったなんて……私もまだまだ修行が足りません!!」

「いいのよ!まだヴェルちゃん達は新婚なんでしょう?ならそんな駆け引きなんか必要ないわ!!ガンガンイチャイチャするのよ!!」

「なるほど!!よくわかりました!!これからもシルヴィスとイチャイチャすることにします!!」


 ヴェルティアはそう言うとミューレイは無駄に良い笑顔でサムズアップを返す。


(あのディアーネさん、ユリさん、ひょっとしてこの世界の魔族の方々ってこんな感じなんですか?)

(はい。驚くべき事にみなさま似たような感じです)

(あ~なんというかお嬢と波長がよく合うんだよ……)

(それじゃあ現魔王のリフィという娘も?)

(基本的には似た感じがします)

(それは中々……)


 シルヴィスは二人からの情報から魔族が七人しかいないのは知っていたがほっとしている自分がいることを自覚していた。

 どうやらこの世界の魔族七人はヴェルティアと波長がものすごく合うのだ。もちろんシャリアス達も家族である以上、ヴェルティアと波長は合う。だが、統治者としての意識があるためそこが歯止めになっているのだ。

 だが、この世界の魔族は統治者ではないので、その辺りの歯止めはない。


(これは止めるのって中々大変だろうな)


 シルヴィスは心の中でそう苦笑する。別にシルヴィスと手この空気感は嫌いどころかむしろ好きである。だがそれで世界が滅びるようなことがあったらさすがに止めようと思っている。ちなみに世界が滅びるとは文字通りの意味であり現政権が現社会制度が崩壊などのレベルではない。


「さぁシルヴィス!!」


 ヴェルティアはそう言ってシルヴィスに抱きついてきた。この辺りは年長者の言に素直に従うヴェルティアらしい。


「ダアホ!話が進まないだろうが」


 シルヴィスはそういってヴェルティアの額をペシッと叩く。


「そう!! その本当は抱きしめたいのに周囲の視線を気にして敢えて窘める姿勢!!こういうのが若い二人には似合うのよ!!」

「解説やめてくれません?」


 ミューレイはうんうんと何か納得しているように言う。すかさずシルヴィスからツッコミが入り、なぜかミューレイはシルヴィスにサムズアップを返す。


 それから、マルトとミューレイのそれぞれの親たちが姿を見せると似た様なやりとりをすることになった。

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