第27話 最強夫婦の合流

 ドゴォォォォォォォ!!


 シルヴィスの蹴りにより神門ミルズガルクは耐えきれずに弾け飛んでしまった。


「いくぞ」

『はっ!!』


 シルヴィスの言葉に七柱は端的に答える。先日のシルヴィスとの懲罰により完全にシルヴィスに服従しているのである。

 一度、アインゼス竜皇国の兵士に横柄な態度を取ったのだが、後にそれを知ったシルヴィスに非常に厳しい教育的指導を受けて、兵士の方にシルヴィスが謝罪に赴いた。シルヴィスの謝罪を受けた兵士は逆に恐縮しっぱなしであった。

 その一方で七柱への不当な扱いをするような事に対してはシルヴィスは断固抗議を行った。シルヴィスは上下関係ではなく対等な関係であるという価値観が強い。シルヴィスは七柱に苛烈な態度で臨むのだが、それは立場から来るものである。

 そのことを少しずつ七柱は感じ、シルヴィスへ忠誠を持つようになっていた。


「シルヴィス様、我らが周囲を確認して参りましょうか?」


 一柱がシルヴィスに尋ねる。


「いや、ヴェルティアの位置はわかる。いくぞ」

「はっ!!」


 シルヴィスが駆け出すと七柱も後に続く。シルヴィスの移動の速度はもちろん全力ではない。だが、それでも七柱の実力では全力であってもついていくのはやっとである。


「あそこか」


 シルヴィスの視線の先には兵士達がのんびりと過ごしている。敵地という雰囲気ではないのは、やはり前情報通り、ヴェルティア達は魔族と友好関係を築いた故であろう。


 すると、ヴェルティアが姿を見せると手をぶんぶんと振った。


 どうやらシルヴィスがこちらに向かってくる事を察したので出迎えにきたようである。


「シルヴィス!!」

「ヴェルティア!!」


 シルヴィスはそのままヴェルティアを抱きしめた。


「ふぇ!? シルヴィス一体どうしたんです?」

「心配したんだぞ」

「えへへ」


 シルヴィスとヴェルティアはしばらく抱き合っている。ヴェルティアの実力を考えれば傷つける事など不可能である事は頭では分かっているのだが、心配するのは当然である。

 また、ヴェルティアも何だかんだ言ってシルヴィスに会えなかったことに対して寂しかったのである。


「シルヴィスがここに来たと言うことは仕事は終わったんですか?」


 ヴェルティアが尋ねるとシルヴィスは抱擁を解き、首を横に振った。


「おりょ? 珍しいですね。シルヴィスがやるべきことを後回しにするなんて?」

「ああ、お前に会いたくなってな」

「なるほど、やはりシルヴィスには私という半身がいないと寂しくて仕方がないというわけですね!!」

「ああ、どうやらそうらしい。お前もだろ?」

「もちろんです!!」


 シルヴィスとヴェルティアはそう言って互いに笑う。その様子を周囲の者達は微笑ましく見ていた。


「さて、お二人とも見せつけるのはその辺にしてしてください」

「そうだよ。一応ここは公的な場所である事を忘れないでほしいよ」


 ディアーネとユリがニヤニヤしながら言う。ふたりとしても主夫婦が仲良いことは望ましいのであるが、それでも皆の目があることも分かって欲しいというものである。


「あ、お二人とも。お久しぶりです。ヴェルティアを守っていただいて本当にありがとうございます」


 シルヴィスがディアーネとユリに礼を言うと二人は微笑んで一礼する。


「そうそう、シルヴィス聞きたいことがあるんですけど」

「なんだ?」

「二、三時間前にお父様とお母様が戦ってませんでした?」

「ああ、この世界の天使が出てきたから義父さんと義母さんが対処したんだ」

「そうだったんですか!? いけませんねぇ~お父様とお母様は手加減が下手ですからねぇ~天使の方々は不運でしたね」

「わずか十分ほどで全滅させてた」

「あ、やはりそうですか。ところでどうして天使さん達と戦ったんです?」


 ヴェルティアは首を傾げながらシルヴィスに尋ねた。


「アインゼス竜皇国軍とシュレーゼント王国軍が戦ったんだよ。そしたらシュレーゼント王国軍を救いに来たら返り討ちになったんだ」

「ん?んん?あれあれ?どうしてうちとシュレーゼントが戦うんです?」


 シルヴィスの返答を聞いてヴェルティアはさらに首を傾げた。


「まぁ落ち着け。シュレーゼント王国はお前への扱いを完璧に誤ったんだよ」

「ん?」

「つまりな。あの連中はお前を騙して魔族との戦いを押しつけたんだ」

「そうだったんですか!?」

「少なくとも俺達はそう判断した。と言いたいところだが事実だ。ディアーネさんとユリさんが国王と王太子の会話の内容をこちらに教えてくれてた」

「なんと!?」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアはディアーネとユリを見ると二人は同意だというように頷いた。


「なんということです……この私を欺くとは恐ろしい方々です」

「いや、お前以外はとっくに気付いてたと思うぞ」

「ええ!?」


 ヴェルティアは周囲を見渡すとクレナや傭兵達も頷いていた。


「なんと……ま、大したことないからいいとしましょう!!こういうポカをやらかすからこそ皆が私に親しみを持つというものです!! はっはっはっ!!」

「お前すごいな」

「そうでしょう!!そうでしょう!!いや~シルヴィスは本当に幸せ者ですね!!完璧な私がこういうポカをやるからこそ気後れなどしないの……いひゃい」

「調子に乗るな」


 シルヴィスはヴェルティアの頬をむにゅと掴む。もちろん本気で摘まんでいるわけではないのでまったくいたくないのであるが、いつものやりとりでシルヴィスがヴェルティアの頬を摘まむと痛いという言葉を使うのである。


「とにかく、お前を騙しただけでなく、その後のお前への扱いの計画を聞いたら全員がぶち切れてな。あの連中に鉄槌を下すことにしたというわけだ」

「う~ん、いくら何でも鉄槌が大きすぎませんか?」

「まぁアインゼス竜皇国軍一〇〇万、しかも一家総出でやってきてる」

「なんと!?ひょっとしてレティシアまできてるんです?」

「ああ、それにキラトとシュレンもだ。リューベとジュリナも来てる」

「おお、すごい大事になってますね」

「で、当然だけどシュレーゼント軍は壊滅、国王と教皇は死んだぞ。アインゼス竜皇国軍はシュレーゼント王国を滅ぼすために進軍中だ」


 シルヴィスの言葉にざわついたのはヴェルティアよりも周囲の傭兵達である。その多くは安堵の声である。天使を一蹴する実力者達が所属している百万の大軍と戦えば結果は火を見るよりも明らかだ。


「義父さんは人族の支配者層を徹底的に潰すつもりだ。二度と異世界人を利用しようなんて考える輩が出ないようにな」

「なるほどよくわかりました!!シルヴィスやお父様、お母様、レティシアがそこまで怒ると言うことはシュレーゼント王国はそこまであくどい事を考えていたと言うことでしょう!!」

「まぁそういうことだ」

「あ、それではシルヴィスをみなさんに紹介しましょう」


 ヴェルティアはそう言って傭兵達にシルヴィス達を紹介するのであった。

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