第26話 ティレンスは神となり復讐を誓う
「ここは?」
ティレンスはキョロキョロと周囲を見渡した。先程まで目の前にいた父親のオルガスはいないどころか戦場の喧噪とは無縁の場所にたっていたのである。
「シュレーゼント王国王太子ティレンス、主神ルオス様がお会いになる。こい」
ティレンスに声をかけた相手に気付くと慌てて跪いた。
「イ、イリュケ様!!」
「よい。面を上げよ。先ほども言ったとおり主神ルオス様の元へいくぞ」
「はっ!!イリュケ様、父は……そして兵達は?」
「案ずるな。すでに天使をかの戦場に送り込んでおる。それに四大天使もな」
「な、なんと!!」
「お前は主神ルオス様に選ばれた。使命を果たさねばならぬ。わかるな?」
「ぎょ、御意!!」
ティレンスの声には歓喜の感情があった。自分が主神ルオスに選ばれたという優越感、祖国の勝利が確定したという思いが歓喜の感情をもたらしたのだ。
「アインゼス竜皇国か数だけは多かったようであるが天使達を派遣した以上圧倒的な力の前に屈することになろうよ」
「はっ!!全くもってその通りでございます!!」
イリュケは転移魔術を展開するとティレンスが気付いた時には扉の前に立っていた。
「ここは……?」
「ルオス様がお待ちだ。ゆくぞ」
「は、はい」
ティレンスの声も流石に緊張を含んだものになる。主神ルオスに拝謁することができた者など代々の教皇でもほとんどいないのである。
ゴゴゴゴゴ……
扉が重厚な響きと共に開くと真っ正面に豪奢な玉座に座った若く美しい容姿をした男が座っており、ティレンスはその男がルオスである事を察した。
「ゆくぞ」
イリュケがそう声をかけると進み始める。ティレンスはイリュケの後ろをついていく。
玉座は三段ほど高い位置にあり、両側には神々達がならんでいる。その荘厳な雰囲気にティレンスは身の引き締まる思いだ。
「偉大なるルオス神、シュレーゼント王国王太子ティレンスにございます」
イリュケが告げるとルオスは満足そうに頷くと視線をティレンスへと向けた。
「は、初めましてシュレーゼント王国王太子ティレンスにございます」
ティレンスはルオスとの初対面に舞い上がり挨拶の文面もやや幼いものになってしまっていた。
「そう固くなるな。お前は今後
ルオスは愉快そうな声で言う。だがその内容にティレンスは驚かざるを得ない。ルオスはティレンスに我らの一員になると告げたのだ。これはティレンスを神とする宣言に他ならない。
「わ、私を……皆様方の一員に?もったいなきお言葉でございます」
「ただし、それは魔王を討伐すればの話だ」
「ま、魔王を……」
ルオスの言葉にティレンスは難色を示す。自分の力量でとても魔王を斃すことが出来るなど思えないのである。
「そう案ずるな。ただの人間であるお前がそのままで魔王を斃せるわけがない。お前に我が力の一部を与え神の肉体を与える」
ルオスはそういうと一つの珠をティレンスへと放った。ティレンスはその珠を受け取るとまじまじと眺める。
「さぁ、どうすれば良いかわかるであろう?」
「はい」
ティレンスはもらった珠を自分の心臓の位置まで持って行く。この珠を受け取った瞬間に自分のすべきことが頭に流れ込み、それに従ったのである。
ルオスから受け取った主はティレンスの体に何の抵抗もなく入り込んだ。そしてその瞬間、ティレンスの体を激痛が襲った。
「が…あぁ……」
ティレンスの苦痛は想像を絶するものであった。体の中にある珠からあふれ出す毒が体内を灼き、その次の瞬間に灼かれた部分が再生しているという感覚である。
「耐えて見せよ。この苦痛を乗り越えた時にお前は神の力を得る」
ルオスの言葉にティレンスは答えられない。それだけの苦痛である。
「ぐ…あ…ぎぃ……」
ティレンスは必死に耐える。
「何……まさか」
その時ルオスの口から驚きと共に不愉快そうな声が発せられた。そして列席者である神々の口からも動揺の声が発せられた。
「まさか、四大天使が敗れるとは」
「異世界の下等生物共が調子にのりおって」
「騒ぐな」
神々の喧噪をルオスは一声で黙らせた。神々達はルオスの言葉を待つ。
「四大天使が敗れたところで我らに何か問題はあるか?ないであろう?」
「はっ!!」
ルオスの言葉に神々は落ち着きを取り戻した。それから全員がティレンスへと意識を向けた。
ティレンスはそれから五時間もの間苦しみ続け、突然立ち上がった。立ち上がったティレンスの体から放たれるエネルギーは強さだけでなく
「これは……」
「ふむ、ティレンスよ。よくぞ試練を乗り越えた」
「はっ!」
「お前は人間を遙かに超えた強さを、そして神の肉体を手に入れた」
「あ、ありがとうございます!!」
ティレンスは跪きルオスへと感謝の言葉を述べる。
「ルオス様、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「戦いはどうなりました?」
「シュレーゼント王国とキルミュリス教団は敗れた。国王、教皇をはじめ文字通り全滅だ」
「ぜ……全滅…ですと?」
ルオスの言葉にティレンスはようやく絞り出した。
「四大天使と天使達もまた全滅だ」
「な…なんと!! おのれぇぇぇ!! 悪鬼共め皆殺しにしてくれる!!」
「まて」
「はっ」
「今のお前が行っても無駄だ。今のお前はせいぜい四大天使程度の力しか無い。そんなお前が戦いを挑んだところで無駄死にするだけだ」
「し、しかし!!」
「ティレンス、私は止めよと言ったのだぞ?」
その瞬間、ルオスの放つ雰囲気が変わった。その事を察したティレンスは即座に跪いた。
「も、申し訳ございません!! 父が殺されたという事を聞き取り乱してしまいました」
「分かれば良い。ティレンス、貴様はこれから鍛えよ。鍛えに鍛え。強くなりあの下等生物共に復讐するがいい」
「はっありがとうございます!!」
ティレンスは一礼する。そして下げた顔にはどす黒い憎悪が浮かんでいた。
(アインゼス竜皇国め!!必ず皆殺しにしてくれる!!)
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