第25話 処分

 アインゼス竜皇国軍とシュレーゼント・キルミュリス連合軍との戦いは終わった。


 アインゼス竜皇国軍の被害は軽傷者が百名前後出たが死者はでていない。一〇〇万対一四万という圧倒的な兵力差、完全包囲という圧倒的に有利な状況、将兵の質も圧倒的に上、天使達が一蹴されたことで完全に心が折れたという有利な状況を積み重ねて積み重ねた結果、死者が皆無という結果になったのである。


 そして、生き残った者達は単に運が良かったから生き残ったのではない。何らかの意図によって命を奪われなかったのである。そのことを生き残った者達は痛いほどわかっていた。


 生き残った者達はシャリアス達の前に引き立てられて地面に座らされていた。


 アインゼス竜皇国の面々が生き残りの者達に向ける視線は限り無く冷たい。有り体にいえば「ゴミを見る目」であった。


「シャリアスだ」


 シャリアスが冷たく言い放つ。その視線の冷たさにオルガス達は心から震えた。


「さて、シュレーゼント王国国王オルガスと教皇パオロスは誰だ?」


 シャリアスの言葉に生き残った者達の視線が二人に注がれた。


「お前達か」


 シャリアスの言葉におアルガスとパオロスは小さく頷いた。その様子は奴隷が主人の機嫌を損ねないように卑屈な態度をとるようであった。


「では他はもういい」


 シャリアスの言葉に生気を取り戻したのは他の者達であり、オルガスとパオロスは恐怖の表情を浮かべた。


 屈強な兵士達が生き残り達を引き立てていく。その扱いはお世辞にも人道主義にしたがったものではないのは明らかである。


「ま、まってくれ!!」

「殺さないでくれ!!」

「ひぃぃぃ!!」


 生き残り達の中には自分達の運命を悟った者がいるようであり、必死に命乞いを始めた。当然ではあるがその命乞いに心をうごかされているものは皆無である。


 全員が引っ立てられていくが全員が泣き叫びながらである。


「ぎゃあああああああああ!!」

「助けてくれぇぇぇ!!」

「やめてくれぇぇぇぇ!!」


 程なくして絶叫が響き渡った。引き立てられた者達の末路にオルガスとパオロスは震え上がった。


「竜帝陛下!!」


 パオロスは地面に頭をこすりつけながら叫ぶ。


「私は役に立ちます!! アインゼス竜皇国のために働きとうございます!! 我が教団の影響力は人族国家の全てに及んでおります!! アインゼス竜皇国の支配のために尽力いたします!!」


 パオリスの姿を見たオルガスも生き残るために地面に頭をこすりつけた。


「シュレーゼント王国は竜帝シャリアス陛下に忠誠を誓います!! シュレーゼント王国は人族国家の中でも大国に位置づけられております!!必ず!!必ず!!アインゼス竜皇国の覇道の尖兵となります!!」


 オルガスとパオロスの必死のアピールに対してシャリアス達は何も返答しない。ただただ静かに聞いているだけである。

 何も反応が無いことを怪訝に思ったのかオルガスとパオロスは頭を上げシャリアス達を見る。


「続けよ。お前達の舌が止まったときがお前ら二人を処刑するときだ」


 シャリアスの言葉に二人はぎょっとする。


「もうよいのか? なら処分するか」

「ひ……」

「お、お待ちください!! 我ら二人を処刑すればアインゼス竜皇国が支配権を確立するのは困難になります!!」


 オルガスの言葉にシャリアスは薄く嗤う。


「おい、教皇の方は舌が止まった。処分しろ」

「はっ!!」


 シャリアスの命を受けた騎士達が動き出すとパオロスの首根っこを掴むと引きずっていった。


「お、お待ちください!! 助けて!! 助けて!! ひぃぃぃ!!」


 パオロスは半狂乱になって騒ぐがシャリアス達は心動かされた様子はない。


「まったく、最終的に神を殺す・・・・のに教団の権威なんぞ何の役にもたたないのにな」


 シャリアスの言葉に気負いなど一切ない。いや、そもそも困難な事であるとも思っていない口ぶりである。


「さて、シュレーゼント国王よ。お前も舌を止めるか?では処分するか」

「お待ちください!! 先ほども申し上げたようにシュレーゼント王国はアインゼス竜皇国に降伏いたします!! シュレーゼント王国は豊かな国それを差し出します!!アインゼス竜皇国にとってこれ以上の利益はございません」

「ふ、お前は根本的に勘違いしているな」

「え?」

「我々はシュレーゼントを滅ぼしに来たのだ。支配しに来たわけではない」

「滅ぼす……まさか」

「ああ、貴様等は我が娘を侮辱した。極刑に値する。王族、貴族は草の根分けてでも探し出し皆殺しにしてくれる」


 シャリアスの言葉にオルガスはひゅと喉を鳴らした。あまりにも苛烈な言葉にオルガスは言葉に詰まったのだ。


「そして2度と異世界から拉致など出来ぬように徹底的にこの世界の人族共を痛めつけるつもりだ」


 シャリアスの言葉にオルガスはもはや言葉を発することができない。


「オルガスよ、貴様等は異世界の者達を玩具にしすぎたのだよ。お前達も本心から異世界から勇者を召喚したからといって魔王を斃せるなど考えてもいないだろう?」

「そ、そんなことは」

「そして魔王がお前達人族に攻め込んできたこともないだろう?だから危機感もない。お前達がやっていることは全てがごっこ遊びだ。どんな気持ちだ?遊びが元で滅亡する気分はな」

「あ、あ」

「ふん、どうやらお前の舌も止まったようだ」

「ひ」


 シャリアスの言葉に騎士がオルガスの首根っこを掴んだ。


「ぎゃあああああああああああ!!」


 そこにパオロスの断末魔の叫びが響いた。


「ひぃぃぃ!!」


 パオロスの絶叫にオルガスは絶叫した。


「オルガス、お前の家族も親族も皆殺しにすることを約束してやろう。慈悲など期待するなよ」


 シャリアスの言葉はどこまでも慈悲など感じられない。オルガスは完全に心が折れたようで呆然としたままである。呆然としたオルガスを騎士が引きずっていく。


「さて、これでまず第一段階は終わりだ。シルヴィス君」

「はい」

「シュレーゼントや他の国々は私達が滅ぼしておくから、君はヴェルティアの元に行ってくれないかな」

「いいんですか?」

「ああ、雑務・・は私達に任せておきなさい」

「ありがとうございます」


 シャリアスの提案にシルヴィスの返答は嬉しさの感情が大いに含まれていた。


「どのみち魔王のリフィさんとの戦いが終わらないとルオスのいる天界までいけないだろうからね」

「それもそうですね」


 シャリアスの言葉にシルヴィスは同意する。今までの情報から天界の場所は魔族達が知っているのは間違いないのだから、その助けを借りるしかないのである。そのためにはヴェルティアとリフィの試合が終わってからになることを予想しているのである。


「キラト陛下、貴君にはシュレーゼント以外の国をいくつか滅ぼして欲しい」

「ええ、構いませんよ。シュレン、奴隷兵士リュグールを二〇〇〇程度融通してくれないか?」

「ああ、わかった。任せてくれ」

「シュレン君、君もキラト陛下と同様にいくつかの国を滅ぼしてほしい」

「わかりました」

「レティシアはシュレン君と一緒に行きなさい。もちろんヴィリスやシーラ達もだ」

「はい」


 レティシアがニッコリ笑って頷くとヴィリスやシーラ達も一礼する。


「ああ、そうそうシルヴィス君、ヴェルティアとリフィさんの試合の日付けが決まったら教えてくれ。純粋に試合が見たい」


 シャリアスの言葉にシルヴィスは頷いた。そしてシャリアスの言葉を聞いたその場にいた者達も同様であった。アインゼス竜皇国の皇女ヴェルティアとこの世界の魔王であるリフィの世紀の一戦を見たくない者などいないのだ。


「ぎゃああああああああああああ!!」


 そして遠くでオルガスの断末魔の叫びが響き、戦いの終結を告げられた。


 シュレーゼント・キルミュリス連合軍は文字通り消滅したのである。


 

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