第24話 竜帝と竜妃②

 天使は口元を歪ませてシャリアスの間合いに入った瞬間に槍を突く。


 ガシィ!!


 シャリアスは天使の一突を余裕の表情で止めていた。しかも槍先の部分を指でつまんでである。


「な……」


 天使の顔が驚愕に変わった。自分の槍術に絶対の自信があったのだろうが相手が悪すぎたのだ。


「どうした?」


 シャリアスは余裕の表情で槍先を摘まみ続けている。天使は全身全霊で槍を動かそうとしているのだが、押しても引いてもびくともしない状況に怒りよりも恐怖の表情へと変わっていく。


 バギィィィ!!


 突如、槍が砕け散った。天使が押した瞬間にシャリアスはそれ以上の力で押し込んだ瞬間に両者の力がぶつかった箇所が耐えかねて砕け散ったのである。


「あ……」


 天使が呆然とした声を発した。槍が砕けた瞬間にシャリアスは槍先を天使に投げつけていたのだ。天使がそのことに気付いたのは槍が顔面に突き刺さった瞬間である。

 間隔が鋭敏になっていたのであろう。天使は自分の顔面をゆっくりとすすむ槍の感触を確かに感じていた。

 天使はそのまま崩れ落ちるとビクンビクンと痙攣をおこす。


「弱いな。お前達この程度でどうして我らを見下せるのだ?」


 シャリアスは静かに良いながら痙攣する天使の顔面の槍を踏みつけてとどめを刺した。


「これ以上は時間の無駄だ。自害するかまとめてかかってくるかだ。選べ」


 シャリアスの言葉に残った天使三人は一斉に動いた。


 下等生物が天使に自害を求めるなど到底許されるものではない。しかもその求めた理由もこれ以上は時間の無駄であるというあり得ない理由だ。


「ふん」


 シャリアスは間合いに入った瞬間に拳を振るう。


 バギィ!!

 ドゴォ!!

 ゴゴォ!!


 三体の天使は吹き飛び壁にぶち当たって止まる。何とか立ち上がるがすでに三体の天使達の膝はがくがくと震えており勝利の可能性など微塵もないのは明らかである。


「ほう、まだ心が折れないか。心が強いな。……それとも実力差がわからぬアホウかな?」


 シャリアスの声は完全に天使達を下に見たものだ。これは油断からくるものではない純粋にそこまで力の差があるのである。その事実を誰よりも天使達がわかっていた。


「くそ!!」


 一体の天使が炎を纏う。その炎は手にした剣へと集約されていく。


「死ねぇぇぇぇ!!」


 天使は剣に集めた炎をシャリアスに向けて放つ。巨大な炎の弾丸は凄まじい熱量でシャリアスに迫るがシャリアスは全く動じた様子はなく氷の弾丸を一瞬にも満たない時間で生成して炎の弾丸にぶつけた。


 ドパァン!!


 二つの弾丸がぶつかった瞬間に粉砕されたのは炎の弾丸であった。氷の弾丸はそのまま天使の胸部に突き刺さった。

 その瞬間、天使は一瞬で凍結し、氷の彫像へと姿を変える。その表情は苦悶のものであり、天使の精神状態が穏やかなものではなかった証拠である。


「駄作だな」


 シャリアスはそう言うと直径1㎝ほどの鉄球を指ではじくと氷となった天使は砕け散った。


「あと二匹か」


 シャリアスの冷たい言葉が響くと天使二体は明らかに怯えた表情を浮かべた。


「うわうわうわうわうわうわうわうわうわうわ!!」

「ひぃぃぃぃ!!」


 二体の天使は狂乱状態となり自分の剣をぶんぶんと振り回しているそれは技術でも何でもただ剣を振り回しているだけだ。


 シャリアスは拳を振るう。


 ドゴォォォォォォォ!!

 ゴゴォォォォォォ!!


 シャリアスの拳は凄まじく二体の天使の胸部に直撃し、その衝撃は背中に達すると天使達の背中から爆発し、内部がばらまかれるとそのまま天使達は崩れ落ちた。


「所詮は異世界の者に縋らなければ何も出来ん連中か」


 決着がついた瞬間に四人の天使を閉じ込めていた光の檻は消失すると天使達の死体が防御陣の上に落ちた。


 その様を見た連合軍の兵士達はもはや戦いどころではない。自分達を救いに来たはずの天使がまったく相手にならなかったのである。

 しかもシャリアスが斃した四体の天使は実は四大天使であり、四つの天使の軍団長であったのだ。その四大天使が文字通り一蹴されたのだ。最後に縋るべき神の使徒よりも遙かに強いのが自分達が現在戦っている相手であることを理解すればもはや戦いなどできない。


 それからは戦いというものではない。


 ただ狩られるだけの存在と化した連合軍の将兵達は天使が一蹴されて三時間で殲滅された。

 生存者はわずか数十名、国王であるオルガス、教皇パオロスなどの上層部ばかりであった。

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