第23話 竜帝と竜妃①

 アルティミアの不敵な嗤みは独特の凄みがあった。


「それじゃあ、あっちにも宣戦布告するわね」


 アルティミアはそういうと天使達を一瞥すると次の瞬間には光の檻に閉じ込めた。


 突如自分達が閉じ込められた事に気付いた天使達が狼狽しているのは無理もないことだろう。


「さようなら」


 アルティミアが手をパンと打ち付けた瞬間に光の檻の中に炎が巻き起こると中にいる天使達を焼却してしまう。ほんの数秒で天使達は灰となり崩れ去ってしまった。


「もう少し火力を落とした方が良かったかしら、この世界の天使って弱いのね」


 アルティミアの言葉には見下すようでもなく、ただ純粋に自分の想定よりも遙かに天使が脆弱であったという事実を指摘している。それが絶対的強者としての風格を示していた。


「そうだな。あっさりとしすぎてアホウな神々共は勘違いしそうだな」


 シャリアスの言葉も絶対的強者のそれである。


 その時、アルティミアへ一槍が放たれる。凄まじい速度で放たれた槍はアルティミアの防御陣に突き刺さり止まった。


「あら、少しは出来るみたいね」


 アルティミアの素直な評価にシルヴィス達は苦笑してしまう。今放たれた攻撃は間違いなく城に放たれれば一撃で消し飛ばしてしまうレベルの威力があったのに、それを平然と防ぐアルティミアの防御陣がすごすぎるのである。

 ディアーネやヴィリス、ジュリナもあっても防ぐ防御陣を形成することは可能だ。だが、それは数枚の防御陣を形成する必要がある。もちろん時間をかければアルティミアと同程度の防御陣を形成することは可能であろうが、同等の時間では数を形成するしかないのである。


「あの四匹は私がやろう。アルティミアは他の羽虫共を始末してくれ」


 シャリアスの視点の先には、明らかに田の戦死と一線を画す四体の天使がいた。そして周囲には約一〇〇〇体の天使達がいる。


「アインゼスの勇士達よ。羽虫・・共はこの竜帝シャリアスと竜妃アルティミアが始末する。君達は卑劣な者共を皆殺しせよ」

『ウォォォォォォ!!』


 シャリアスの宣言にアインゼス竜皇国軍の将兵達の士気はさらにあがる。絶対的強者であるシャリアスとアルティミアの命令は自分達の必要性を感じさせてくれるものであるし、自分達の主君が決して安全な場所から戦争を指示するような者達ではないことは彼らの誇りである事は間違いない。


「アルティミア、あの四匹を捕まえてくれ。逃げられると面倒くさいからな」

「はい」


 シャリアスの言葉にアルティミアはふんわりを微笑し即座に術を展開する。すると四体の天使の周囲に光の檻が形成され、四体の天使達を閉じ込めた。


 シャリアスは防御陣に突き刺さっている槍を引き抜くとふわりと浮かび悠々と歩き出す。そして次の瞬間シャリアスの姿が消えたかと思うと四体の天使を捉える光の檻の中にいた。


「すごいな」

「ああ」

「あんな静かで鋭い歩法……親父殿以外で見たことないぞ」


 シルヴィス達がシャリアスの歩法の妙技に素直な賛辞をおくる。シャリアスが強いと言うことは当然シルヴィス達もわかっている。だが、それは立ち居振る舞いや日頃の動作からの推測でしかない。シャリアスの戦闘用の技術を実際に見るのは今回が初めてであり、その一端を見た段階でシルヴィス達はシャリアスの技量の高さに称賛をおくらざるを得ないのだ。


「さて他の羽虫共を始末しときましょう」


 アルティミアの言葉と共に四体の天使の外にいる天使達を光の檻に閉じ込めた。


「今度は灰にするほど焼いてあげないから安心しなさい」


 アルティミアはそういった瞬間に光の檻にの内部に炎の暴風が吹き荒れると天使達を容赦なく焼いていった。


「ぎゃあああああああああ!!」

「な、なぜだぁぁぁ!!消えないぃぃぃ!!」


 光の檻の中は一気に地獄へと変貌する。もちろん天使達は各自で防御陣を形成してアルティミアの放った炎を防ごうとしているのだが、実力に差がありすぎて天使達の防御陣など何の役にも立っていないのである。

 これで火力を落としているのだから天使達にとってこれ以上無い屈辱であろうが、この地獄の前にはささいなことである。


 天使達が焼かれていき絶叫を放つ様を四体の天使達は呆然とみていた。


 神の使徒である自分達が手も足も出ないで焼かれていくの現実を受け入れられないのは当然であった。

 焼かれた天使達がボトボトと落下して防御陣に降り注いだ。


「うわぁぁぁ!!」

「天使様たちがぁぁ!!」

「ひぃ!!」

「も、もうダメだぁぁ!!」


 天使達の焼死体を見た連合軍の将兵達はさらに恐慌状態に陥った。


「ふむ、今度は火力をきちんと調整したな。さすがは我が妻だ」


 シャリアスの言葉に四体の天使達は怒りの表情を浮かべた。だがその怒りの表情の奥底には確かな恐れがある。


「さて、それでは一人ずつ来るか?それともまとめてくるか?もし一人ずつ来るなら順番は自分達で決めろ」


 シャリアスはそう言うと槍を放る。槍を受け取った天使は屈辱に顔を歪めた。シャリアスの行動は「お前ごときが武器を持とうが無意味である」という意思表示でしかない。有り体に言えば舐めているのである。


「舐めるなよ!!下等生物が主神ルオスの名において貴様を滅してくれる!!」


 槍を受け取った天使は構えた。


「いいだろう。まずはお前か……さて、相手をしてやろう」


 シャリアスは静かに言い放った。


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