第21話 宣戦布告
「シルヴィス君、よくやってくれた」
シャリアスがにこやかにシルヴィスの労をねぎらった。
「あ、そうそう。ヴェルティアは魔族の方々と仲良くなったそうだよ」
「は?」
シャリアスからの思わぬ情報にさすがにシルヴィスは呆けた返答をしてしまう。
「それが本当なのよ。あの娘ったら魔王と戦うつもりなのよ」
アルティミアが苦笑混じりに言うとシルヴィスはさらに首を傾げた。いや、シルヴィスだけでなく全員が同様の感想を持っているのである。魔族と仲良くなったはまだヴェルティアの気質から考えれば理解出来るがそれならなぜ魔王と一戦交える必要があるのかが理解の外なのだ。
「あの、お母様、お姉様はどうして魔王と戦うのです?魔族の方々と仲良くなることが出来たと言うことは魔王とも争わないですむと思うのですが?」
レティシアの言葉にシルヴィス達はもっともだという表情を浮かべた。
「それがね。この世界の魔王はリゼルフィアさんというヴェルティアと同年代の少女らしいのよ。何かわかり合うために戦うとか言ってたのよ」
アルティミアの返答に全員が頭を抱えそうになった。ヴェルティアらしいと言えばらしいのだがそれでも『そうきたか~』という感想が出てしまうのは仕方の無いことであろう。
「まぁ、ヴェルティアは無事であるし、ディアーネとユリも就いているからそう変なことにはならんだろう。それでは我々はあのクズ共を始末しようではないか」
シャリアスはそう言うとシュレーゼント王国とキルミュリス教団の連合軍を睨みつけた。
その声も覇気も超大国のアインゼス竜皇国を束ねる竜帝そのものである。
「アインゼス竜皇国竜帝シャリアスである」
シャリアスの声が戦場に響く。シャリアスは魔術でこの線上にいるすべての者達に自分の声を届けているのである。当然ながらシャリアスの言葉に連合軍の将兵達は動揺し、アインゼス竜皇国の将兵達は高揚した。
「我がアインゼス竜皇国の第一皇女であるヴェルティアを貴様等は卑劣にも拉致した。これだけで貴様等との開戦理由としては十分だ」
シャリアスの言葉に竜皇国軍から発せられる熱量が一段階上がった。
「そして、本来貴様達の問題である魔族との戦いに我が第一皇女を罠に嵌め、魔族の領域へと追放した」
シャリアスの声に明確な嫌悪感と軽蔑の感情が含まれた。そして竜皇国軍も同様であった。
「しかも魔王と共倒れを狙い、最後に我が娘を陵辱して殺そうという計画とはな」
シャリアスの言葉には国家の統治者として振る舞おうという理性にヒビが入り、そこから激情が漏れ出ているのを聞く者達は感じた。
「アインゼスの勇士達よ。答えよ!! 彼の者共を許す道理があるか?」
『否!!』
シャリアスの檄にアインゼス竜皇国軍の将兵から明確な意思表示が為された。百万という大軍が一斉に叫ぶ様は大気を振るわせた。
「そうだ!! 私は父としてもアインゼス竜皇国の竜帝としても彼の者共を許すつもりなど一切ない!!一切の慈悲など彼の者共には無用だ!! シュレーゼント王国よ!!キルミュリス教団よ!! 我がアインゼス竜皇国は貴様等に宣戦布告する!!」
『宣戦布告』という言葉に竜皇国軍の士気は一気に跳ね上がった。そう竜皇国軍は自分達の皇女がどれほど侮られたか、自分達の誇るべき祖国の名誉がどれだけ傷つけられたか。その報いを受けさせるためにじっと耐えていたのである。そして自分達の竜帝陛下が宣戦布告を行ったのだ。もはや耐える必要はないのである。
「シュレーゼント王国よ!!キルミュリス教団よ!!足掻くなとは言わん!!足掻いて見せよ!! 我らの目的は貴様等を根絶やしにすることである!! 降伏も一切認めん!!」
『シュレーゼントに死を!!』
『教団に死を!!』
シャリアスの言葉にアインゼス竜皇国軍から殺意が怒濤のごとく連合軍の将兵達に叩きつけられた。
「殺せ!!」
シャリアスがそう短く命令する。その単純極まる命令は竜皇国軍の士気を爆発的に上げ、連合軍の士気を大いに下げた。
シャリアスの命令を遂行するために各軍が動き出した。
「よし」
シャリアスの命令が下された事でシルヴィスが動く。シルヴィスが初手として選んだのは『岩禅』である。巨大な質量の岩石を敵陣に落とすというシルヴィス得意の術の一つである。
天空に描き出される魔法陣から巨大な岩石が落下してくる。
連合軍の将兵達はあまりにも非現実的な光景に思考が停止していた。
「あ……」
自分の頭上に巨大な岩石が落ちてくる様を多くの将兵達は呆然とみていた。そして、そのまま押し潰された。被害としては百人程度であり十四万という大軍から考えれば軽微なものである。
だが、与えた心理的衝撃は計り知れない。このような術を人間が放てるものなのか?という心を折るに十分な効果であった。
シルヴィスが岩禅を放ち、連合軍が統制を無くしたのと竜皇国軍がぶつかるのはほぼ同時であった。
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