第18話 もう一人の最強は準備を怠らない
「ここを殲滅の地にするわけか」
シュレンの言葉にシルヴィスはニヤリと嗤って頷いた。
現在シルヴィスはヴェルティア達と同じ世界に来ている。目的はもちろんシュレーゼント王国やキルミュリス教団への討伐というより
現在、シルヴィスとこの世界に来ているのは、キラト、リューベ、ジュリナ、レティシア、シュレン、レティシアの専属侍女であるヴィリスと護衛のシーラ、サーシャ、カイ、レイ、そしてシルヴィスに降った七柱である。
「ああ、あいつらはこの地で殲滅する」
シルヴィスの言葉にキラトが尋ねる。
「ここを戦場にするというのは良い案と思うが、やつらをここに連れてくるのは三日では無理じゃないか?」
「いや、そうでもないさ」
「シルヴィス、俺はやつらをここにおびき寄せるというのは簡単にできると思ってるさ、だが、あいつらはアインゼス軍とはレベルが違うぞ。アインゼス軍を基準に考えれば確かに三日も可能だろうとは思うがな」
キラトの言葉に他の面々も同意とばかりに頷いた。
実際に全員の共通認識としてシュレーゼント王国は戦う相手を求めているというものがあった。十四万もの軍勢を動かすだけで莫大な費用がかかる。それに対してやったことと言えばヴェルティア率いる第一軍を魔族の領域に閉めだしただけである。
もちろんいくらでも取り繕うことは出来るであろうが、第二軍と第三軍に所属している者達は臆病者の烙印を押されていることになるのである。それを少しでも払拭したいと考えている以上、敵を求めている。それが全員の共通認識であったのだ。
逆に言えばこの程度の状況に陥る事が分からないほど、オルガス国王、教皇パオロスの精神状態は追い詰められていたのである。
「いや、あいつらは必ず三日でこの場に連れてこれる」
「根拠は?」
「
シルヴィスの即答に全員が首を傾げる。
「恐怖? そりゃ立場が無くなるからな」
キラトの返答にシルヴィスは首を横に振る。
「いや、違うよ。やつらの恐怖の感情を刺激する」
「あー何かわかってきた。それって俺達三人が動くという認識であってるか?」
キラトの返答にシルヴィスは和やかに微笑みながらサムズアップする。
「ディアーネさんの報告でヴェルティア達は閉め出されたとあったから、閉めだした門はヴェルティア達の実力でも破れない何らかの措置がされていたんだと思う。シュレーゼントの連中はその措置に縋ったんだろうさ。やつらにとって魔族の領域は侵攻するものであり、魔族が門のこちら側にはこないという前提で物事を考えてる可能性がある」
「そこに俺達魔族が門の内側にいる事がわかれば……か」
「そういうことだ。理想を言えば一回小規模でも構わないから戦闘行って適当なところでここに連れてきてくれ。あ、その時に出来るだけみっともなくな。そうすれば全滅させるために必死こいてやってくると思ってる」
シルヴィスの注文にキラトは苦笑する。シルヴィスの注文は要するに一回負けてみっともなく逃げろと言うことであり、魔王たる自分に対してかなり無礼な注文であると言える。そしてシルヴィスは間違いなくそこをふまえて注文しているのである。
「わかった。……となると駒がいるな」
キラトの言葉にシュレンが声をかける。
「それなら、うちの
「そうだな、それで頼む。ああ、一応装備は俺達に合わせてくれるか?」
「それは任せてくれ」
シュレンはそう言って術を展開すると少し離れたところに
「そうだな。こんな感じか」
シュレンがそう言って術を展開すると
「お、すごいもんだな」
キラトが素直な賛辞をおくる。この辺りキラトは他所の技術に対してきちんと評価を行うのである。
「分かってるとは思うが実力的には人族の精鋭よりも強いから気を付けてくれ」
「ああ、わかった」
「遠慮無く使い通してくれ、生物じゃないから遠慮はいらない」
「あの……」
キラトとシュレンの会話にリューベが割り込んできた。これは中々珍しいことでありキラトもシュレンもそれを咎めるようなことはしない。
「シュレン様、あの騎馬達は
「もちろんだ。さすがに替えの効かない騎獣と
「それを聞いて安心しました」
リューベはホッとした雰囲気を発しながら返答した。リューベは軍事行動を行う際に自分の騎獣を大切にしている。これはリューベに関わらず騎獣を駆る者達に多い傾向なのだ。
「さて、それじゃあ。いくとするか」
「はっ!!」
「わかりました」
キラトの言葉にリューベとジュリナが続く。三人は
キラト達を見送った後にシルヴィスは残ったシュレン、レティシア達に向けて言う。
「さて、それじゃあ俺達はやつらを殲滅する
シルヴィスの言葉に全員が頷き、七柱は跪いて恭しく一礼した。
その時、遠くで凄まじいばかりのエネルギーが発せられているのを感じた。
「ヴェルティア、随分と楽しそうになってるな」
シルヴィスは小さく苦笑した。
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